【フィガロジャポン35周年企画】 「バレエ・スプリーム」特別観賞会を開催! パリ・オペラ座エトワールの素顔に迫ったコラボ企画を振り返る。

Culture 2025.08.26

創刊35周年を迎えたフィガロジャポンは、去る8月10日、パリ・オペラ座バレエ団の精鋭によるガラ公演「バレエ・スプリーム」のエクスクルーシブな観賞イベントを開催。本番前のクラスレッスン見学と、エトワールのポール・マルク、ブルーエン・バティストーニをゲストに招いたトークイベントの様子をレポートします。

250818-ballet-supreme-01.jpg

コンビを組む機会が増えているポール・マルクとブルーエン・バティストーニ。本イベントでは、舞台の外でも息の合ったパートナーリングを見せる場面も。


公演に先立ち、イベント参加者は、東京文化会館大ホールで午前から始まったクラスレッスンを見学したが、パリ・オペラ座ダンサーがクラスレッスンを公開すること自体、実はレアケース。それもコーチとして帯同していた、往年のエトワールであるフロランス・クレールによるレッスンが披露されるのは日本初とあって、フレンチスタイルの伝統を肌で味わえる、かなり貴重な瞬間に立ち会うことになった。

250818-ballet-supreme-02.jpg

レッスン前に、ストレッチに精を出すオペラ座のダンサーたち。真夏とはいえ万全の冷え対策をして臨んでおり(特に男性陣)、意識の高さを感じさせられた。

真剣勝負のクラスレッスン80分。

4列に並べられたバーには、ブルーエン・バティストーニ、ポール・マルク、オニール八菜、パク・セウン、ロクサーヌ・ストヤノフ、カン・ホヒョン、アントワーヌ・キルシェール、アントニオ・コンフォルティ、ロレンツォ・レッリ、ミロ・アヴェック、そしてゲストダンサーのロベルト・ボッレといった本公演に出演するメンバー全員が集結。

フロランス・クレールが実演しながら緻密に指示を出し、ダンサーたちは片手バーで基礎的な動きを繰り返し確認していくが、ひとつひとつの動きが研ぎ澄まされており、バーレッスンでも美の競演が繰り広げられることに。ダンサーたちにとってはコンディションを整えていくルーティンの動作でも、見学者にとってはアンデオールが利いたしなやかな脚のラインが作られていく過程を垣間見る、絶好の機会になったことだろう。加えて、基礎的な動きだからこそ、フレンチスタイルのエレガントなアームスの使い方をじっくり観察できたのも収穫だった。

250818-ballet-supreme-03.jpg

ストレッチ中にフロランスと言葉を交わしていたブルーエンは、東京バレエ団のTシャツを着用。床に着きそうなつま先のラインが美しい!

バーで身体を整えて、少し休憩をとった後は、いよいよセンターレッスンへ。男女混合で2チームに分かれ、フロランスの指示通りにアダージオ、ピルエット、プチアレグロ、アレグロ、グランワルツ......と徐々にダイナミックな動きを取り入れ、調子を上げていくが、ポール・マルクは入念にピルエットを確認した後はレッスンから離脱。どこまでレッスンを受講するかは各々に委ねられているようだ。センターレッスンには40分ほど時間を割いていたが、その間、フロランスはダンサーたちに寄り添って逐一助言を与えており、面倒見の良さが伺えた。ダンサーたちからの信頼が厚いことで知られるフロランスだが、その理由がよくわかる充実したレッスンだった。

250818-ballet-supreme-04.jpg

下手側のバーを陣取る、ポール、パク・セウン、アントワーヌ・キルシェール、ミロ・アヴェック。生ピアノの演奏に没入しながら、力むことなくバーに取り組むポールは、レッスン中から芸術性がひときわ光る。

250818-ballet-supreme-05.jpg

タンデュとパッセを重点的に、基礎的な動きをひとつひとつ丁寧に確認。左手前から、ロレンツォ・レッリ、ブルーエン、ロクサーヌ・ストヤノフ。

---fadeinpager---

終演後のトークイベントで、エトワールの素顔に触れる。

「バレエ・スプリーム」(Cプログラム)で、パリ・オペラ座の伝統と現在を体感できるレパートリーを堪能した後は、踊り終えたばかりのポール・マルクとブルーエン・バティストーニを迎えて、アフタートークイベントが催された。舞台衣装を脱いだふたりは、リラックスした面持ちで観客と対面。話題は「バレエ・スプリーム」を振り返ることからスタートした。

250818-ballet-supreme-06.jpg

終演直後に、ホワイエの特設コーナーでトークイベントを開催。ブルーエンとポールが発言する度に、観客からは温かい拍手が!

Cプログラムでは、クラシックバレエの名作『タリスマン』『エスメラルダ』で見事なパ・ド・ドゥを披露したふたりだが、ブルーエンが確かな技術力と華やかな美しさで新エトワールとしての存在感を印象付ける一方、ポールは『タリスマン』で、難易度を上げながらもそうと感じさせない技量を見せつけ、会場をおおいに沸かせていた。本人たちにとっては、手ごたえはどうだったのだろうか。

ブルーエン「昨日と今日の公演を終えて、ほっとしています。1日目は緊張して、やりきれなかったところもありましたが、今日は落ち着いて踊れました。『エスメラルダ』については、フロランス先生から失敗してもいいから思い切ってやりなさいと言ってもらえたことも励みになりました」

ポール「ブルーエンと踊るのは慣れているにしても、『タリスマン』のパ・ド・ドゥは難しかったですね。最終的にはうまくやり切ることができたのでとても満足しています」

250818-ballet-supreme-07.jpg

8月5日のBプロでは、脚を負傷したセザール・コラレスに代わって、『ラ・バヤデール』の婚約式の場面を途中から踊ることになったポール。

英国ロイヤル・バレエ団と共演したBプログラムの『ラ・バヤデール』では、アクシデントによって、急遽ポールがソロルとして踊るハプニングも。予定していなかったにも関わらず、咄嗟の判断で舞台に出たが、それでも難なくやってのけたのは、超人ポールだからできた芸当だ。

ポール「ソロルのヴァリエーションは踊ったことがあるし、ピルエットとジャンプがメインで特に難しいことはないので大丈夫でしたね。代役というのはストレスが付いて回るものなので、少しミスもありましたが、(ガムザッティ役のオニール・)八菜とは組んだことがあるので落ち着いて踊り切ることができました」

また、ブルーエンはBプログラム『ラ・バヤデール』で、ロイヤル・バレエ団のマシュー・ボールとパートナーを組んだことも話題に。ニキヤを踊ることも初めてだったが、違うカンパニーのダンサーと踊ることも、チャレンジングな試みだったに違いない。

ブルーエン「ニキヤを初めて踊ることができて、すごくうれしかったです......! マシューとは同じ公演に出たことはあっても、これまで組んだことはありませんでした。日本に来る前に、韓国の公演でもご一緒したのですが、今回のためにリハーサルをする時間がなくて。とても緊張していましたが、最終的にはうまくいきました」

ポール「ブルーエンはすごく真面目で、パートナーとして完璧だから、マシューはやりやすかったはずだよ!」

250818-ballet-supreme-08.jpg

日本に来た時は、郊外で自然に触れるのが好きというブルーエン。東京では文房具屋、レストラン、ブティックにお気に入りのアドレスがあるという。

---fadeinpager---

フランスと日本、観客の反応の違い。

話題は日本の観客の印象にも及んだ。日本とパリの観客の反応の違いについては、どう感じているのだろうか?

ブルーエン「全くといっていいほど、反応が違いますね。日本の観客は、拍手でダンサーを盛り上げてくれますが、そこにリスペクトがあるように感じています。特に登場の時や、踊りでもちょうどいいタイミングで拍手をくれるので、励みになっています」

ポール「ブルーエンも言っているように、日本のお客様は、ダンサーをリスペクトしたうえで支えてくれているように感じます。フランスの場合、拍手はヴァリエーションの最後にするもので、踊っている最中に拍手をすることはまずありません。一方で、日本のお客様は、踊っている最中にも拍手をしてくださいますが、ダンサーがバランスを崩すようなタイミングではないので、本当に感謝していますし、日本のお客様の礼儀正しさに感動しています」

2024-2025シーズンとお互いについて。

2024-2025シーズンは、ポールは『シルヴィア』で新しい役に挑戦する機会に恵まれ、ブルーエンはエトワールとして『眠れる森の美女』でオーロラ姫を踊るなど、それぞれ変化がある1年だったが、振り返るとどんなシーズンだっただろうか。

ポール「オペラ座らしい作品を踊ることができ、とても充実していたように思います。特にマニュエル・ルグリ振付の『シルヴィア』は、オペラ座にクラシックのレパートリーが新しく加わること自体が珍しいので、印象に残っています。ブルーエンと組んだのも『シルヴィア』なので、なおさら印象深いですね」

ブルーエン「エトワールになってから、いろいろなことが変わりました。大きな役がすぐ回ってくるようになったのですが、踊ったことのないレパートリーもたくさんあるから、毎日新しいことを学ぶ必要があって。それがいちばんの変化です。この生活が気に入っているので、このままの状態が続いてほしいです」

『シルヴィア』での共演をはじめ、オペラ座の外でもコンビを組む機会が増えているふたりだが、お互いについてどのようなところにダンサーとしての魅力を感じているのだろうか?

ポール「彼女とは同じ環境で育ってきたので、同じものを見て、同じ踊り方を学んできた共通点がありますが、実際に一緒に作品を作り上げてみると非常にやりやすいんですね。特に彼女とは同じ視点を持っていて、似た考え方、踊りにしても同じ向き合い方をしていると感じています。このままずっと一緒に踊り続けていけたらと願っています」

ブルーエン「入団した時からポールに憧れていたので、いまこうして一緒に踊れることをとてもうれしく思っています。リハーサルの時は、いつも笑い転げていて、楽しそうにしているのですが、いざ舞台に立つと彼はとても真面目で、何かあったとしても落ち着いてしっかり対処してくれます。信頼できるパートナーなので、これからも一緒に踊っていけたらと思っています」

最後に参加者によるフォトセッションの時間が設けられ、イベントは終了。終始和やかに対応してくれた、ポールとブルーエンの人柄の良さがにじみ出る時間に立ち会えば、さらにファンにならずにはいられないだろう。ふたりには、会場から惜しみない拍手が送られた。

photography: Daisuke Yamada text: Eri Arimoto

Share:
  • Twitter
  • Facebook
  • Pinterest
秋メイク
35th特設サイト
パリシティガイド
フィガロワインクラブ
Business with Attitude
BRAND SPECIAL
Ranking
Find More Stories

Magazine

FIGARO Japon

About Us

  • Twitter
  • instagram
  • facebook
  • LINE
  • Youtube
  • Pinterest
  • madameFIGARO
  • Newsweek
  • Pen
  • CONTENT STUDIO
  • 書籍
  • 大人の名古屋
  • CE MEDIA HOUSE

掲載商品の価格は、標準税率10%もしくは軽減税率8%の消費税を含んだ総額です。

COPYRIGHT SOCIETE DU FIGARO COPYRIGHT CE Media House Inc., Ltd. NO REPRODUCTION OR REPUBLICATION WITHOUT WRITTEN PERMISSION.