アール・デコ期、ファッションに起きた変化を紐解く展覧会を三菱一号館美術館で。
Culture 2025.09.30
服飾史における1世紀は長いのか短いのか。100年前のモードは何を語るのか。『アール・デコとモード』展は、当時の女性たちの装いから時代の有り様を探ると同時に、私たちの生活様式にあらためて目を向けさせる展覧会である。世界屈指の服飾コレクションを誇る京都服飾文化研究財団(KCI)の所蔵品を中心に、アール・デコ期のドレスや小物に加え絵画、工芸品や資料類約310点が公開される。
バレエ団バレエ・リュスのスターダンサーを描いた肖像画。しなやかな身体性と共鳴する軽やかな装いを大胆な筆致で捉えた。ジャクリーヌ・マルヴァル『ヴァーツラフ・ニジンスキーとタマラ・カルサヴィナ』1910年頃個人蔵/ジャクリーヌ・マルヴァル委員会(パリ)協力
第一次世界大戦終結を経て迎えた1920年代、フランスでは、大衆消費社会が幕を明け、モダンという言葉で括られる多彩な都市文化が一気に花開く。折しも社会に進出し始めた女性たちが纏っていたのは、活動的なライフスタイルに適応した新時代のモードだった。
ショールのテキスタイルデザインは、1925年のアール・デコ博覧会に出品された。大胆な色彩のコントラストでダリアを艶やかに描写。『ショール』(テキスタイルデザインはクードゥリエ・フリュクトス・デシェル社)1925年頃/京都服飾文化研究財団所蔵 撮影:畠山崇
スカートが膝下丈になり、ヒールがポイントに。光を受けて輝くラインストーンと幾何学モチーフは典型的なアール・デコの意匠。『ヒール』1925年頃/京都服飾文化研究財団所蔵 撮影:広川泰士
直線的なシルエットや幾何学のモチーフには、当時一世を風靡していたアール・デコの美学が色濃く反映されている。その簡潔で軽快なデザインは、現代的な美意識と価値観の萌芽と言えるだろう。コルセットで象った曲線フォルムに装飾があふれるアール・ヌーボー期のドレスと比べると、流れる時間までもが異なって感じられるほど革命的だ。
シャネルのドレスはゆったりとしたローウエストシルエットに深紅が映え、シンプルながら華やかな存在感を放つ。シャネル『イヴニング・ドレス』1928年/京都服飾文化研究財団所蔵 撮影:畠山崇
ジグザグヘムが身体の動きを優雅に引き立てる。モード革命の背景に、ヴィオネら女性クチュリエの活躍があったことは興味深い。マドレーヌ・ヴィオネ『イヴニング・ドレス』1929年春夏/京都服飾文化研究財団所蔵 撮影:畠山崇
平面的なシルエットに精緻な幾何学モチーフをアップリケや刺繍で表現。モダンな感性と華やかな装飾性が共存し、アール・デコの美学を伝える。ジャン・パトゥは一方で、スポーツウエアでも人気を博した。ジャン・パトゥ『イヴニング・ドレス(部分)』1927年/京都服飾文化研究財団所蔵 撮影:来田猛
フランスにとって服飾品は重要産業であり、アール・デコ博覧会でも気鋭のデザイナーが発信する最新モードに光が当てられた。
一方、コルセットから解放された女性たちは自由な身体性を生き生きと謳歌し始める。機能的な装いで街を闊歩し、ドレスアップしたパーティでダンスに興じ、洗練されたスポーツウエアに身を包んでテニスやゴルフを楽しむ......そこに浮かび上がる女性像は、現代の私たちの姿に重なるのではないだろうか。『アール・デコとモード』展は、当時の女性たちの衣装や服飾小物の進展だけでなく、女性クチュリエの活躍、スポーツの普及、ライフスタイルや身体観の変化までを立体的に伝えることで、アール・デコ期に胚胎した現代性が、100年を経ていまの私たちの基層を成していることを鮮やかに意識づける。
会期:10/11~2026/1/25
三菱一号館美術館
営)10:00~17:30最終入場 ※2026/1/2を除く金曜、会期最終週の平日、第2水曜は19:30最終入場
休)月、12/31、2026/1/1 ※10/13、27、11/3、24、12/29、2026/1/12、19は開館
料)一般¥2,300
050-5541-8600(ハローダイヤル)
https://mimt.jp/
*「フィガロジャポン」2025年11月号より抜粋
text: Akari Ii