無人本屋にYouTube。大手書店や取次の「攻め」の取り組みとは?

Culture 2025.10.12

森羅万象を扱う知の財産である本の価値を見直し、本との偶然の出合いを体験してほしいとの思いから、新機軸の書店システムが次々と誕生している。質・量ともに膨大な本を扱う、大手書店や取次会社の画期的な取り組みをリポート。


街から書店が減り、読書人口が減少していることを社会課題として重く受け止め、大手書店や本の問屋である取次が立ち上がった。知的好奇心を刺激する独創的な書棚作り、有料ワークスペースや喫茶スペースを併設する書店、書店運営をDX化することで経営側と消費者双方の利便性を実現した無人本屋、書店空白地に本屋を併設したコンビニの新業態。これらの取り組みには、街に本屋を取り戻す"攻め"の姿勢が感じられる。

一方、個人が気軽に本屋を始められるシステムを取次が始めたことで、個性的な本屋に挑戦する人も続出。さらに雑誌専門の図書館や、老舗書店が発信するYouTubeの動画コンテンツなど従来の書店のイメージを超えた自由な試みは、これまで本に興味のなかった人に向けても新しい発見の場を提供している。

これらの施策に共通するのは「本屋は街と人、文化を繋ぐプラットフォームである」という信念から出発していること。私たちの精神の血肉となる読書体験は、書店で本を実際に手に取ることで幅が広がるはず。未知なる世界へと誘う本と出合うため、いますぐ書店へ駆けつけよう。


誰でも本屋が開ける新システム

全国で書店が減少する一方で、趣味性の高い独立系書店が増えていることに着目し、取次会社トーハンが始めたホンヤル。初期投資の負担を軽減し、少額から本の発注ができる。自宅や既存店舗などで手軽に始められるのが魅力。

2024年10月に開始したホンヤルは、毎月の発注額30万円以上の通常版と、5万円からのライト版があり、現在500件を超える問い合わせがある。最大の魅力は取次が契約する3000以上の出版社から本を選べること。個人書店継続のコツはカフェや雑貨販売などを組み合わせることだ。

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東京・立川の狐弾亭は現役の妖精譚の語り部が店主で、アンティーク食器や関連商品も販売する。

狐弾亭
東京都立川市羽衣町1-21-2
営)14:00~20:00
休)月、火
※祝不定休
https://note.com/kobikitei/

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山梨・韮崎のヨムの店主は編集者・デザイナーとして地域を伝える仕事をしながら空き店舗を利用して書店を開設。自分だけの理想の書棚を作ってみては?

ヨム
山梨県韮崎市本町1-4-32
営)13:00~18:00
休)日~水
@yomu_bookandtea

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本に溺れる「滞在型」書店

2025年4月、虎ノ門ヒルズ グラスロック内に丸善ジュンク堂が手がけるマグマブックスがオープン。六本木を皮切りに全国で展開中の文喫は、日販が仕掛ける滞在型の有料書店。じっくり滞在して本に溺れたい。

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本の森を探索する目印。

知のマグマが湧く場所で好奇心を深める。

コンセプトは「知のマグマが沸々と湧き立つ店」。入口のある2階フロアには、円形の書棚が天に向かって伸びる木のように立ち並ぶ。書棚は「現在・過去・未来」に分類され、人類の叡智の森を彷徨うことで、偶然の出合いを演出。ひとつの棚には専門書から豪華本、コミック、児童書まであらゆる年代に向けた本が収められ、親子で同じ棚を楽しめる(下写真)。「言葉の雨」(写真右上)を掲げた階段を上ると3階には新刊を中心とした書棚と有料のワークスペースが完備。集中時の脳波に合わせたサウンドデザインや水琴窟のある瞑想ルームなどオンとオフの切り替えができる構成だ。本と出合い、探し、深める一連の知的活動をサポートする刺激的な書店だ。

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マグマブックス
東京都港区虎ノ門1-22-1 虎ノ門ヒルズ グラスロック2~3F
03-6273-3873
営)11:00~20:00 ※ラウンジ(有料)は9:00~20:00(月~金)、10:00~20:00(土、日、祝)
休)施設に準ずる
https://www.toranomonhills.com/gourmet_shops/6835.html

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入場料制で本が読み放題! 喫茶と書店の融合施設。

入場料制の本屋を六本木に出店し、話題を集めた文喫。本を売る場所から体験する場所への試みはじわじわと人気を集め、全国へと拡大している。クリエイティブ系の本が充実した六本木店(写真上中)、喫茶文化を反映して時間課金制にした名古屋店(写真上奥)、百貨店のカルチャーセンターからの客を呼び込む福岡店(写真上)など地域色も豊か。今年9月には約1000坪・約10万冊という最大規模の高輪店ブンキツトウキョウを開店した。

文喫 栄
愛知県名古屋市中区栄4-1-1 中日ビル2F
営)7:30~21:00(店舗・飲食)、10:00~20:00(物販)
休)1/1、6月第4日曜 ※ほか施設に準ずる
料)¥825/60分(延長30分毎¥550、1日最大¥3,575)

文喫 六本木
東京都港区六本木6-1-20 六本木電気ビル1F
03-6438-9120
営)9:00~21:00 不定休
料)¥1,650(月~金)、¥2,530(土、日、祝)※平日朝プラン、ナイトプランもあり
https://bunkitsu.jp/store/

文喫
福岡天神 福岡県福岡市中央区天神2-5-35 岩田屋本店本館7F
営)10:00~20:00
休)施設に準ずる
料)¥1,100/2時間、¥2,200/終日(月~金)¥1,650/2時間、¥2,530/終日(土、日、祝)

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24時間いつでも本に触れ合える無人書店

2大取次会社の日販とトーハンが、書店減少の解決策のひとつとして経営のDX化に着手。人件費や賃料といった経営側の問題を解決するとともに、好きな時間に書店に立ち寄れる消費者のニーズに応えるシステムだ。

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有人・無人のハイブリッドで街の書店を元気に。

無人店舗のシステムを開発するネブラスカとトーハンが協業した、デジテールストア。第1号店である山下書店世田谷店は従来の閉店時間を無人営業化し、日中は有人レジとセルフレジを併用する。無人時間帯はLINE登録して入店するので、購入履歴に応じておすすめの本の情報が配信されるなど、店と消費者のコミュニケーションも図れる。

山下書店世田谷店
東京都世田谷区若林4-20-8
03-3419-0617
営)10:00~19:00(有人)、19:00~翌10:00(無人)

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駅直結で、気軽に立ち寄り。

「日常に本の楽しみを! ふらっと、サクっと、旬を手に」をコンセプトにした日販の無人書店システム、ほんたす。仕事や学校帰りに気軽に立ち寄れる本屋として、第1号店を溜池山王の地下鉄駅構内に開店。本のトレンドが1分でわかるようなレイアウトで、新刊や話題書、メディア紹介本など本になじみのない人も手に取りやすいラインナップだ。

ほんたす ためいけ 溜池山王メトロピア店
東京都千代田区永田町2-11-1 東京メトロ溜池山王駅 山王パークタワー側改札外 地上出口8番付近
営)7:00~22:00(月~金)、10:00~20:00(土、日、祝)
https://hontasu.com/

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原宿に出現した雑誌図書館

さまざまな媒体が増える中、雑誌の価値を再定義し、紙に触れることで豊かな時間を過ごせる場所を作りたい、と雑誌専門図書館が誕生した。

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カルチャー発信地・原宿のハラカド内に2024年にオープンしたカバーは約3000冊の雑誌が無料で立ち読みできる。1960年代から新刊まで、企画に賛同した出版社と一般の人からの寄贈によって構成されている。古い雑誌はリアルタイム世代にとっては懐かしく、若い世代にとっては新鮮に映り、さまざまな楽しみ方が可能だ。アイドルを表紙にした新刊雑誌を巨大パネルや天吊りバナーとともに展示するなど、各種イベントも好評。

カバー
東京都渋谷区神宮前6-31-21 東急プラザ原宿ハラカド2F
営)11:00~21:00 不定休 ※施設に準ずる
https://coverharakado.jp/

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パワーアップしたコンビニの本屋

一部店舗を除き24時間営業というコンビニの強みを生かし、書店空白地に書棚コーナー、マチの本屋さんを設けたローソン。雑誌やコミックなどの新刊本を中心に、図鑑や児童書、ご当地本など、地域に根ざした書棚作りが好評。

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現在全国に16店舗展開するマチの本屋さん。2024年に開店した富山県の立山町役場店は、街から本屋がなくなったことに危機感を抱いた町長の肝煎りで、役場の駐車場にオープン。町長や博物館館長、高校生による選書コーナーもある地域密着型本屋だ。店舗面積の25~35%を本屋スペースにし、本の受注も行う。人々の交流場所、街のハブとしても期待されている。

ローソン マチの本屋さん 立山町役場店
富山県中新川郡立山町前沢字村中2445
076-462-7011
営)6:00~22:00 無休
https://www.e-map.ne.jp/p/lawson/dtl/377450/

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書店員と顧客を繋ぐオウンドメディア

神奈川県に本社のある老舗書店・有隣堂が、ミミズクのキャラクター、R.B.ブッコローをMCに繰り広げるYouTube番組がバズっている。書店が発信する型破りなコンテンツとは?

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開設から5周年を迎えたYouTubeチャンネル「有隣堂しか知らない世界」。出版・書店業界を元気にしたいと始まった番組だが、毎週熱量のあるゲストと歯に衣着せぬブッコローとの掛け合いが大いに盛り上がり、総再生回数1億回を突破。人気コンテンツ「職業作家の1日ルーティン」「ガラスペンの世界」「又吉直樹の書店の歩き方」ほか、裏方である編集者や書店員の熱意を発信しながら購買にも繋げる。

*「フィガロジャポン」2025年9月号より抜粋

●掲載している価格や営業時間、定休日、料理は変更される場合があります。特に輸入本は取材時から価格が変わる可能性があります。  
●レストラン利用時や宿泊時に、別途サービス料や入湯税がかかる場合があります。

photography: Kenichi Fujimoto (magmabooks) text: Junko Kubodera

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