【ネタバレ注意】市川染五郎×宮沢りえ、衝撃のドラマ「人間標本」の撮影舞台裏を語り尽くす独占インタビュー。

Culture 2026.01.14

蝶の研究の権威である大学教授・榊史朗が、自分の息子を含む6人の若い芸術の才能のある少年たちを殺害し《人間標本》にしたと警察に自首する――。親の子殺しという禁断の題材を扱い、映像化はとても無理だろうと言われてきた湊かなえの『人間標本』。廣木隆一監督のもと全5話のドラマとなり、Prime Videoで配信され話題を呼んでいる。美を永遠に留めたいという人間の利己的な愛情についてのドラマと思いきや、事件の真相は二転三転し、親子間の愛情の駆け引きの領域へと観客は導かれていく。

これが現代劇ドラマへの初の出演となり、悲劇の種となる息子、至(いたる)役を演じた歌舞伎俳優・市川染五郎と、史朗と至の父子の運命の鍵を握る画家・一之瀬留美を演じた宮沢りえに魅惑のサスペンスの舞台裏を聞いた。

【注意】以降、本作のストーリーに関わる記述があります。


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Somegoro Ichikawa 8th/2005年生まれ、東京出身。09年に歌舞伎座で四代目松本金太郎として初舞台、2018年に祖父、父とともに高麗屋三代同時襲名で八代目市川染五郎を襲名。数多くの歌舞伎・ドラマ・映画で活躍。26年は新春浅草歌舞伎で祖父の当たり役『梶原平三誉石切』から活動をスタート。5月、6月には初となるストレートプレイ出演・主演『ハムレット』が東京、大阪で上演予定。 Rie Miyazawa/1973年生まれ、東京出身。映画、テレビドラマ、舞台、CM等、幅広く活躍している日本を代表する女優。2025年は配信ドラマ「阿修羅のごとく」(Netflix)、ドラマ「火星の女王」(NHK総合)、映画『ラストマン -FIRST LOVE-』(平野俊一監督)、舞台『昭和から騒ぎ』、『リア王』と出演作が続いた。26年は映画『しびれ』(内山拓也監督)、舞台『メアリー・ステュアート』主演を予定している。

――「人間標本」は西島秀俊さん演じる蝶の研究者、榊史朗の供述内容に沿って展開しますが、刑事とのやり取りやほかの登場人物による語りで違う風景が次々と立ち上がってきます。何重にも層があるストーリーですが、どうアプローチしましたか?

宮沢りえ(以下、宮沢) 登場人物の全員が感情と欲望を隠しているんですけど、ドラマの進行の過程でそれがちょっとずつ明かされていく。その分、演じる側が「この場面でこの本音を少し出す」とか、「ここは嘘を隠している切ない表情を見せないといけない」とか、細かい計算が必要とされたドラマでした。1回目の鑑賞では気付かないけど、2回目では気付くような匙加減というか。視点を変えてみると、全然違った人間模様が浮かんでくるので、撮影をしていても、「あれ、いまどこの場面だっけ?」と混乱しちゃって、本当に、片時も台本は離せなかったよね。

市川染五郎(以下、染五郎) 自分の演じた至は、父の回想の中の至の顔と、刑事に指摘されて出てくる顔と、ほかの人物の回想で語れられる彼の顔と、本人の遺した手記の中での真実など、いろいろなバージョンがあって、いまから撮影する場面ではどの顔のどの感情を出すのか、自分の中で整理して臨まないといけませんでした。撮影も時系列に応じて順番に撮れるわけではないので、最後まで難しかったですね。特に、父親には偽って見せている顔もあるので。なんだかずっとパズルをやっているような感じでした。

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幼い頃に母に先立たれ、父・史朗(西島秀俊)とふたりで過ごしてきた至。親子仲は良好のように見えるが......。

ただ、このドラマに限らず、いま現在考えている自分の像と、他人から見られている自分の像にはどうしてもズレが生じていくもので、それが人間の多様性というか、おもしろさであると思うんです。

宮沢 染五郎さんはこの作品が初めての映像での現代劇ドラマと聞いたけど、現場では落ち着いていましたよね? 本当に存在感があって、静と動で言うと、至は静の人なんだけど、ただそこで止まっているんじゃなくて。静かに佇んでいても、その中で流れている感情や思考が常に動いている印象で、同世代の俳優さんたちが出ているけどいちばん落ち着いている印象だった。

染五郎 みなさん、撮影が終わるとケータリングに直行していて、無邪気でなんかいいなと思いました(笑)。歌舞伎ではケータリングってまずないですし。重いシーンがいっぱいある中で、同世代の皆さんは撮影の合間でもすごく明るい人たちばっかりだったので、そこに助けられた部分が大きかったですね。

――今作では美を永遠にとどめたいという人間の業や、美を表現するためにタブーを犯してしまう表現者のエゴを題材にしています。おふたりは演技以外にもプライベートで絵を描く時間を大切にされていることは広く知られていますが、湊かなえさんが題材にした「世間の人に衝撃を与えるような表現をしたい」というアーティストの欲についてはどう感じ、どう付き合っていますか? 

染五郎 役者をアーティストと言っていいかはちょっとわからないですけども、いろんな役を歌舞伎で演じさせていただいている中で、驚かせたいなっていう気持ちはありますよね。こういう方向性で、何かを表現できたかと自省することはあります。それはお客様に対してもそうですし、身内というか、ほかの歌舞伎の役者さん、特に同世代の役者にはびっくりしてもらいたいなという思いはあるかもしれない。

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史朗の幼馴染である留美は「蝶と同じ色彩感覚」を持つ画家として世界的に注目を集めるアーティスト。シングルマザーとして娘の杏奈(伊東蒼)とニューヨークで暮らしている。

宮沢 どの作品に関わる時でも、いままでにない自分を見せたい、という気持ちは常にあります。自分自身が飽き性で、見たことのあるような自分には会いたくない。いつまでたっても、この役をやって安心というところにはいられない。人の記憶に残りたいという願望はあります。そこは「人間標本」で演じた一之瀬留美の画家として持っていた自分の力を失って、さらに命とも向き合って、最後に何を世の中に残せるのか、その孤独と葛藤が同時に押し寄せてきた心境などは演じていてとてもよくわかる部分だった。人は年齢を経て肉体は変わっていくけど、誰かの記憶に残ったその人の像は永遠性を持つ場合もある。私も誰かの記憶の隅っこにいたいなって願うし、その気持ちは多分アーティストの方はみんな持っているんじゃないですか。

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「擬態」というテーマについて。

――本作では衝撃的な形で永遠性を持つ表現へと姿を変えられた《人間標本》が登場します。演じる上で難しかったことは?

染五郎 ポージングに関しては湊先生の原作にある挿絵のとおりなのですが、廣木監督からは目の開き具合や首の角度などに細かく指示があって。標本として命はないけれども新たな芸術作品として生まれ変わった姿を見せる。もっと言うと、芸術作品として魂をまた入れられて存在しているという状態を表現するのは、とても難しかったです。

宮沢 そうなんですね。死を演じるって本当に難しい。ただ、目を閉じているだけじゃ、やっぱり死んでいない。心臓が止まった状態の役は、自分の心音を本当に潜めていって、限りなく呼吸をしていない状態に肉体をもっていく感じ。最近、死をどう演じるかをずっと考えていたから、そのことをちゃんとわかっているというのが、いま聞けて、すごくうれしいです。

――物語には蝶が重要なモチーフとして出てきて、自分の身を守るため、周囲の環境に変体する「擬態」が裏テーマとなっています。おふたりには擬態したい存在や、擬態で試したいことはありますか? 

宮沢 たとえばわかりやす過ぎますけど、大谷翔平選手に擬態してみたいかな。 

染五郎 そっちの方向ですか(笑)!

宮沢 うん(笑)。やっぱり役者で、自分が自分じゃない役を演じることをずっとやってきているから、この人になったらどういう景色が見えるのかなと、普段から私、妄想して遊ぶことがいっぱいある。 

染五郎 なるほど。大谷選手以外にほかにいらっしゃいますか?

宮沢 先日、仕事で岡山に行って、休みの日に焼き物の町に足を延ばしたんです。その時に、備前焼の辻村史朗さんのことを改めて思い出しました。以前写真集と出合って、こんなにミニマムな生活の中で物を作ることに命を懸けていらっしゃる方がいるんだとすごく憧れて。辻村さんみたいな生活をしたいなとはずっと思っています。お会いしたことはないんですけど、どこかでいつかお会いしてみたい。

――染五郎さんには擬態したい存在はいますか? 

染五郎 質問に対しての答えとはちょっと違うかもしれないですけど......。いまの時代がそうじゃないということではないのですが、曽祖父の時代の歌舞伎って本物の歌舞伎をやっていたな、と最近感じていて。だから、その時代の役者になりたいというか、その時代の歌舞伎を観てみたいという思いはあります。

――初代松本白鸚丈のことですね。大変な名優で多くの観客を魅了したという。

宮沢 それはいまでもそうですよね。

染五郎 いえいえ(笑)。

――池波正太郎が『鬼平犯科帳』を書く上で、白鸚丈が八代目松本幸四郎時代の風貌や佇まいを強く意識して書かれたという話は広く知られています。

染五郎 うまく説明するのが難しいですけど、代々、引き継がれていまでも家の芸として残っている演目に向かう時は、やっぱり曽祖父が演じている姿は観たかったと思います。

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ジャケット¥75,900、シャツ¥39,600/全てユハ

ちなみに蝶に関してはいろいろと縁があって、初めて出た時代劇映画は『レジェント・オブ・バタフライ』ですし、2025年は歌舞伎座で『蝶の道行』という演目を踊り、そして今作で至はアゲハチョウのモチーフで描かれています。今回、蝶の研究者である父親の榊史朗と台湾に蝶の調査に行くというシーンがあるので、実際に西島秀俊さんと一緒に行って、採集の場面を撮影したんですけど、台本ではなかなか捕まらないという設定なのに、補虫網をひと振りすると10羽入ってくるくらい大量に飛んでいて、やっぱり環境が豊かなのだなと思いました。採るのに苦労している演技は実際とは逆で、見どころです(笑)。

宮沢 西島さんの話題が出てきたから補足すると、「人間標本」は親子の関係性の物語なんです。西島さんと染五郎さんの父と息子の関係性、そして私と伊東蒼さんが演じる母と娘の関係性。そこは同じものを感じて、作品として目指すところは一緒だったと思う。蒼ちゃんは『湯を沸かすほどの熱い愛』以来の母子役だったけど、芝居だけれど、本当の感覚になれる時ってあって、彼女と芝居をしている時はその感覚がすごく多い。女性としての成長もすごくうれしかったけれど、役者同士でそういう時間が作れたことが喜びでした。

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撮影中、染五郎が聞いたアドバイスとは?

――湊かなえさんの作品は「イヤミス」と呼ばれ、今作は猟奇的な内容かと、いま一歩腰が引けている視聴者がいるかもしれませんが、その層に届けたい見どころは? 

染五郎 そうですね、出てくる食べ物が全部おいしそうですし、本当においしいんです。僕はカットがかかっても食べ続けていました。緊張する展開が続きますが、食べ物のシーンでほっとしてください(笑)。

宮沢 わかりました(笑)。私は画家の役で、演じた留美は自分の創作した作品に囲まれて生活をしています。そのアートの監修をしてくださったのがアーティストである清川あさみさんで、彼女の選んだ作品とその美しさは物語の展開で重要な転換として出てくるので、そこを楽しんでいただけるんじゃないかと。ただセットとして置いてある絵ではなくて、1枚1枚、アーティストの方が作った絵画作品がちりばめられています。私は演じていてそこがとても楽しみで、怖いだけではない領域を楽しんでいただけると思います。

――最後に、今作は染五郎さんにとって初の現代劇ドラマとなりますが、映像と演劇の両方でしっかりと足跡を残されている宮沢さんから先人としてのアドバイスをいただけないでしょうか?

宮沢 いえいえいえ、そんなこと、おこがましい!

染五郎 でも、撮影の合間に、それこそ、自分のほうから舞台と映像の違いについて質問させていただきましたね。

宮沢 聞いてくれたよね。舞台であろうが、映像であろうが、人物の心をきっちり積み上げていれば大丈夫。ただ今回、私は現場で染五郎さんには舞台から映像へ来た戸惑いなんか全く見えなかった。西島さんとオーラが似ていらっしゃって、演技の背中に思考がきちっとあって、初めてなんだなって思ったことがいちどもなかったです。

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衣装/マイラン

私からアドバイスなんて何もいうことはないけど、この間、ある演出家の人に言われて大事だなと思ったことは「自分から芝居をしようとしなくていい」ってこと。相手が発するものをきちんと受け止めていれば、もうそこで表現ができているんだっていう。映像でも舞台でも、自分がどうにかしようとするんじゃなくて、相手から受け止めることの大切さを知っていれば大丈夫。そしてそれはもう、染五郎さんはできていらっしゃる。はい、だからもう、アドバイスなんて終わり(笑)。

『人間標本』
Prime Videoで全5話世界独占配信中
⚫︎監督/廣木隆一
⚫︎原作/湊かなえ『人間標本』(角川文庫/KADOKAWA刊)
⚫︎出演/西島秀俊、市川染五郎、伊東蒼、荒木飛羽、山中柔太朗、黒崎煌代、松本怜生、秋谷郁甫、淵上泰史、田中俊介、市川実和子、村田秀亮、河井青葉、村上淳、宮沢りえ ほか
⚫︎美術監修・アートディレクター/清川あさみ
⚫︎製作/Amazon MGMスタジオ
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マイラン
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interview & text: Yuka Kimbara photography: Daisuke Yamada styling: Nao Nakanishi(Somegoro), Keiko Sasaki (AGENCE HIRATA,Rie) hair & make: Yuki Kawamata (HAPP'S.,Somegoro), Keizo Kuroda (Iris, Rie)

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