世界観の見直しを問われる私たちの突破口に? 今月観たい展覧会4選。

Culture 2022.07.31

出口の見えない感染症、思想の対立、社会が抱える闇......。太陽がまぶしく照りつける夏もだというのに、気分が晴れない方も多いのでは? アートと対峙する時、人はそこに何を見るのか。世界観を変えてくれるかもしれない、今月の展覧会4選。

現代芸術の源泉となった導師の教え。
『鈴木大拙展 Life=Zen=Art』

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「禅は無道徳であっても無芸術ではありえない」と説き、禅の教えを世界に広めた導師であり、精神と物質の差異を無化する「霊性」という理念を提起して近代日本思想を刷新した鈴木大拙。大拙の教えは現代芸術のひとつの源泉となり、ジャンルや地域を超えて多くの表現者に影響をもたらした。晩年の講義には現代音楽家ジョン・ケージ、作家J・D・サリンジャーらが集い、伴侶ビアトリスが信奉した神智学もまたヨーゼフ・ボイスやナムジュン・パイクにインスピレーションを与えた。盟友・西田幾多郎の哲学、書簡を交わした南方熊楠の生物学、後継者と考えていた柳宗悦の民藝、さらに坂本龍一や谷口吉生にいたるまで、本展は大拙から始まった表現を検証し、未知なる可能性を切り拓く試みとなる。

『鈴木大拙展 Life=Zen=Art』
会期:開催中~10/30
ワタリウム美術館(東京・外苑前) 
営)11:00〜19:00
休)月 ※9/19、10/10は開館
料)一般¥1,500 

●問い合わせ先:
tel : 03-3402-3001
www.watarium.co.jp

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すでにそこにある匿名のイメージの神話性。
『A Quiet Sun 田口和奈展』

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ウィーンを拠点に活動する田口和奈は、重層的な構造の作品を通じて、時間や空間の存在を見いだそうとする。雑誌で見つけた画像や匿名のファウンドフォト、自身が撮影した写真のパーツなどを組み合わせて架空の人物や場所を描き、その絵画を被写体とした写真作品。自作の絵画や彫刻を多重露光で撮影した印画紙にドローイングを描いた作品。いずれも写真でありながら、長い時間をかけて画像と素材との関係を追求し、油彩画や銅版画にも匹敵する繊細で多層的な写真表現を模索してきた。ギャラリーのガラス越しの自然光だけを頼りに、本展のための新作と彼女が収集するファウンドフォトの編成から、すでにそこに存在するイメージの持つ抗えない魅力のありかを探る作品体験を堪能してほしい。

『A Quiet Sun 田口和奈展』
会期:開催中~9/30
銀座メゾンエルメス フォーラム(東京・銀座) 
営)11:00~19:00
休)8/17
入場無料

●問い合わせ先:
tel : 03-3569-3300 
www.hermes.com/jp/ja/story/maison-ginza/forum/220617

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温泉地に湧き上がる、エネルギーの循環。
『塩田千春展 巡る記憶』

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ベルリンを拠点に国際的に活躍するアーティスト塩田千春の展覧会が、大分県別府市のふたつの場所で行われる。かつて卸問屋だった場所では、湧き上がる湯気のように白い糸が空間を覆い尽くし、その糸を伝って落ちる水の波紋が円を描くように広がる。元中華料理屋では店内を覆う赤い糸が、不在となった部屋の記憶を呼び起こす。別府の大地からあふれる大いなる生命力とそのエネルギーの源に思いを馳せた塩田は「人間中心の生活から離れよう」と不意に思ったという。これまでも滞在制作に訪れた作家たちに、湯あたりにも似た不思議な幻惑感と、生命や記憶を巡る根源的な思考をもたらしてきたこの地で、独自の圧倒的な作品世界が新展開を見せることに期待したい。

『塩田千春展 巡る記憶』
会期:8/5~10/16
別府市中心市街地(大分・別府)
営)11:00〜18:00
休)火、水
入場無料

●問い合わせ先:
tel : 0977-22-3560 
www.beppuproject.com/shiotachiharu

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世界の新しい見方を示す理論と実践。
『国立新美術館開館15周年記念 李禹煥』

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1960年代末より戦後日本美術の最重要な動向のひとつである「もの派」を代表する美術家、李禹煥。ヴェルサイユ宮殿、ポンピドゥー・センター・メッスでの個展、直島の「李禹煥美術館」開館など、近年ますます活躍の場を広げる。すべては相互関係のもとにある、という世界観を展開した李は、自然や人工の素材を組み合わせ提示する「もの派」の理論と実践を牽引してきた。芸術をイメージや主題、意味の世界から解放し、ものともの、ものと人との関係を問いかけるその作品は、世界のすべてが共時的に存在し、相互に関連しあっていることを示す。東京では初となる大規模な回顧展では、人間中心主義の世界観の見直しを問われる現在の私たちに突破口となる思考の方向性を示してくれるかもしれない。

『国立新美術館開館15 周年記念 李禹煥』
会期:8/10~11/7
国立新美術館(東京・六本木)
営)10:00~18:00(金、土は~20:00)
休)火
料)一般¥1,700

●問い合わせ先:
050-5541-8600(ハローダイヤル)
https://leeufan.exhibit.jp

*「フィガロジャポン」2022年9月号より抜粋

text: Chie Sumiyoshi

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