新世代ミュージシャンに注目! #04 学生時代のサークル仲間を中心に活動するミツメ

Culture 2016.10.17

大学のサークル仲間でバンドを結成したミツメは、レコーディングとミキシングは今も学生時代の友人が手がけているのをはじめ、アートワークやグッズも同じ趣味や感覚を共有できる人たちと制作。最近は倉庫を借りて作業場や集いの場にするなど、その仲間の輪が広がっているという。メンバー全員にインタビューした。

“暑苦しいのはイヤだ”みたいな世代なのかもしれない

ミツメは大学のバンドサークルで結成された。コピーバンドを組んでは年4回ライブを行うという活動の中で、須田洋次郎(ドラム)、川辺素(ギター、ヴォーカル)、大竹雅生(ギター、シンセサイザー)、nakayaan(ベース)の4人はビートルズ、ペイヴメント、ベル・アンド・セバスチャンなど同じような音楽趣味で顔を合わせる機会が増え、「それだったらバンドを作って学外でも活動しよう」と決意。そして最初はアルバムを作れるほどオリジナル曲が揃うまでライブをしないと決め、時間をかけて曲作りに励むようになったという。

161014-0229.jpg

写真左から、川辺素(Vo,Gt)、nakayaan(Ba)、須田洋次郎(Dr)、大竹雅生(Gt, Syn)

最新アルバム『A Long Day』を聴いて、最初に感じたのが音数の少なさ。変則的に叩かれるドラムと自由なベース。そして、軽やかな音空間に心地よく浮かぶ言葉だった。その歌詞は口語のようでいて文語体な面もあり、音空間から生まれる雰囲気と歌の乗り方がとても合っている。どちらも自然に生まれたスタイルなのか気になった。

「1stアルバム『mitsume』(2011年)の曲を作っている時は、“音圧がありすぎるのはどうなんだろう”という意識があって、シングル『うつろ』(13年)のころには音数を少なくしてやることが前提みたいになっていました。“気持ちいいポイントはここなんじゃないか”と、すでに音数のことについては4人の間で共有されてたんじゃないかな」(大竹)

「歌詞は・・・・・・そうですね。歌ってて気持ちいい言葉が出てきたり、歌ってて耳当たりがよかったり、自分の好きなポイントを大事にしてやっています。それに“うれしい”とか“悲しい”とか、“頑張っていこう”みたいな気持ちや意志というものよりは、質感のようなものや、“こういうふうに面白い瞬間がある”といったシーンを歌詞で書いてある方が、考える余白があって好きだなと思います」(川辺) 

それはミツメの音楽に合いやすいからそうしているのか、川辺の性格からそうしているのか。また昨今、若手ミュージシャンに、感情より感覚を重視した歌詞を書く人が増えている気がするのは、世代的なものもあるのだろうか。

「そうですね。“暑苦しいのはイヤだ”みたいな世代なのかもしれないですけど(笑)」(川辺)

「オブジェ」 最新アルバム『A Long Day』に収録。

---page---

部屋を作るようにして、質感のようなものを歌詞で表現したい

ミツメの4人の年齢はほぼ29歳。“ゆとり世代”といわれる世代以降の人は、“思っていることをはっきり言って相手を傷つけるのが嫌だから、曖昧なままにしている人が多い”という説があるが、川辺の歌詞にもそれに近いものがあるのだろうか。また、思ったことをふわっと伝えるほうが言葉にもしやすく、音楽的にも聴きやすいのか、聞いてみた。

「そうですね。歌詞はある一定になると“完成した”っていう瞬間があるんです。どこから切り取っても意味が通った、バチッと組み合ったなという……。そこを目指していつも書いています。上から順に読んで意味が通るのを求めているわけではないし、たとえば“部屋があって、植木を置いてみて、壁に絵をかけてみて……”といったことをやっているうちに部屋が完成した、みたいな。“これとこれとこれが部屋にあったら、こういう質感は伝わるんじゃないか”というような気持ちで書いていて、それが1行単位だったり、単語単位だったりします」(川辺)

さらに説明してもらった。

「歌い出しで出てきた言葉に対して、“これ面白いな”と思って、その部屋を完成させるためにいろんなものを入れたり出したりして、“これで決まりだ”っていうところまで粘る感じです。いろんなものを言葉として置いていくうちにいくつかの要素が合わさって、“わっ!”ってなる瞬間が自分の中であるんです。その感じ、一歩飛べるようなもの(言葉)がないか、ずっと探しています。なので、実体験を曲にして消化させたい気持ちは比較的薄いですね」(川辺)

最近は固有名詞、記号性が強いものはあまり使いたくないという、こだわりがあるそうだ。

「たとえば“渋谷”や“東京”というと、今の肌感覚だとインスタでハッシュタグを書いてるみたいな感覚になって、“このワードが入っていたら、それに反応する人がこれだけいるだろう”みたいなことをやっている気持ちにどうしてもなってしまう。でも、それは今自分がやりたいことと違うので。身の回りにあるものを足していくうちに質感が出来上がって、それが現実に肉薄する瞬間ができたらいいな、と思っています」(川辺)

「ブルーハワイ」〜「cider cider」at 青山 Spiral Hall

曲作りは、精巧な設計図から自由度の高いものへと

音楽的なことでいえば、前のアルバムに比べて今回の『A Long Day』にはセッションから生まれたような演奏力を感じ取れる。たとえば2曲続いている「船の上」と「漂う船」での、「漂う船」の後半のギター2本のやり取りなど。これまでの楽曲にあった音の緻密さも好きだが、最新作『A Long Day』は自由度が高く、全体的にみんなが演奏を楽しんで作っている気がするのだ。曲作りの手法は、最初のころはあまり宅録の技術がなかったので、川辺が弾き語りで作った曲をスタジオでセッションしたり、大竹が各パートを入れた打ち込みで作ったデモから曲を作ったりしていたという。

「そこから『ささやき』までは、宅録がレコーディングする前の精巧な設計図になっていたんです。だから宅録の解像度は結構低いけど、スタジオではそれをいかに良い音かつもっと深くまで突き詰められるかといった作業で、デモ(宅録)を超える演奏と音響処理で作り直すような感じで録音を進めていました」(川辺)

「そうですね。今回は決まり事を少なくして個々の演奏を自由に長く演奏しながらスタジオで録っていて、家に帰ってから各自がそれを聴いていいところを探っていく……ということを、時間をかけてやっていました」(須田)

「ささやき」 3rdアルバム『ささやき』に収録。

『めまい』(15年)に関しては次のように話す。

「スタジオで作り込んでしまうと音響ありきのアンサンブルが結構多くて、ライブで無理が生じてしまう部分があって。そこで一旦構築したものを削ぎ落としてみて、バンド4人の演奏そのものを重視した感じでトライするのがいいんじゃないかと思ってできたのが『めまい』でした。僕らは毎回、次は違う新しいことにチャレンジしようみたいな気持ちはあって。『ささやき』のあとに、リズムマシンで打ち込んだ音が結構多かった2曲を『ブルーハワイ』(15年)、生の演奏が強かった4曲を『めまい』としてリリースしたので、次はどういう感じでやろうかなって探っていたら、今回の『A Long Day』に繋がってここに来た感じです」(川辺)

「めまい」 シングル『めまい』に収録。

---page---

自分たちでやれば、それだけ作りたいものを実現させるのに近づく

ミツメはレコーディングからミュージックビデオ、グッズの制作まで自分たちや友人と手がけ、今ではみんなが集いやすいように倉庫まで借りている。その原点は大学のサークルだ。サークルではホールに機材を持ち込んでライブをする時もPA(音響担当)をサークルのメンバーが担当し、みんなで教え合う環境だったという。

「その中でも今エンジニアをやってくれている友達が在学中から機材にこだわっていてDIY色が強かった。僕らも自分たちで機材を買ってMac Bookで録って、デモCDを作るところから始まって、それが続いてきています。いつもレコーディングが終わったあとは、ミキシングが終わるまでメンバー全員立ち会ってエンジニアと意見を交換しながら作っていくので、いろいろな引き出しとかアイデアとか生かされつつ完成に向かっていく感じですね」(須田)

「自分たちで学内コンピ(CD)を作るような環境だったので、(CDのアートワークの)入稿やデザインも自分たちでデータを作ればあまり(金額が)高くなくできるらしいとか、やっていくうちに多岐にわたって、そのまま続いています。時間はかかるけれど、自分たちでやればそれだけ自分達の作りたいものを実現させることに近づく感じはあるし、外注するとコミュニケーションを取るのが難しかったりするので、できる範囲で自分たちでやろうと。ただプロモーションだったり、ライブの制作など、他の人の力を借りたほうがむしろいい形になるなと思った部分は積極的にお願いするようになってきています」(川辺)

アートワークや映像などもメンバーと近い関係にある人に依頼し、メンバーの意思を色濃く反映しながら作業を一緒に進めているという。

161014-0304.jpg

最後に、今後はどういった方向に進みたいのか聞いてみた。

「メンバーが体感している、充実度というか幸福度をちょっとずつ上げていきたいというのはあります。バンドとして、たとえば“これだけの枚数を売るぞ!”というよりは、“そこまでキツくなく、楽しみつつ良い作品を作る”というのをなんとかやっていければなって考えています」(川辺)

音楽を生活の一部としてマイペースで楽しみながら創作活動し、ライブを展開。また各自が担当パートにとらわれずに自由な楽曲を発表し続けている。この仲間と作り上げていく快適さがミツメの音楽にナチュラルに反映され、その雰囲気も含めてゆるりと広く愛されているのだろう。

161014-a-long-day-jacket.jpg

『A Long Day』

プロフィール

2009年、大学の軽音楽部の仲間の須田洋次郎(Dr)、川辺素(Vo,Gt)、大竹雅生(Gt, Syn)、nakayaan(Ba)らで東京にて結成。2011年に1stフルアルバム『mitsume』をリリース。最新アルバムは2016年6月リリースの4thアルバム『A Long Day』。オーソドックスなバンド編成ながら、各々が担当パートにとらわれず自由な楽曲を発表。アジアやアメリカでも活動の場を広げている。
http://mitsume.me

今後のライブ予定

10/16 名古屋テレビ塔
10/30   恵比寿ザ・ガーデンホール
12/17   名古屋Tokuzo
12/18   京都MOJO
12/25   恵比寿リキッドルーム

photos : KO-TA SHOJI, texte : NATSUMI ITOH

Share:
  • Twitter
  • Facebook
  • Pinterest

フィガロワインクラブ
Business with Attitude
パリとバレエとオペラ座と
世界は愉快

BRAND SPECIAL

Ranking

Find More Stories