フィガロが選ぶ、今月の5冊

みずみずしい感性で綴った、細川亜衣の野菜のレシピ本。

特集

旬の味があふれ出す、野菜愛に満ちたレシピ本。
『野菜』

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細川亜衣著 在本彌生写真 リトルモア刊 ¥2,160

 料理の本は長らく、再現性という言葉を誤解していたような気がした。誰でも、いつでも、どこでも同じように作れることが大事で、レシピには正確な数字とスピード、みんなに平等な材料が必要だと。
 しかし細川亜衣さんの『野菜』はそういったあらゆる呪縛から自由、というか別のところにある。熊本に嫁ぎ「野菜に埋もれて」暮らしている彼女の、時季の野菜50種、その1種ずつをとことん味わうレシピ集。「いちばん頼りになるのはレシピの分量より自分の舌」と真っ直ぐ伝え、数字がないものも多い。その代わりちりばめられているのは、呼吸するようなリズムで書かれたレシピや、「絵を描くようにたらす」「ゆでてもなお明瞭な香りを放つにらの存在感」など、独特の世界観をはらむ言葉。それらは料理の塩梅や間合いを数字よりもありありと伝え、匂いと湿度、手に伝わる温度や感触までも読む人の頭の中にあふれさせる。  そして写真家・在本彌生さんの、空気のみずみずしさや日だまりの温かさ、料理を食べたであろう人の幸福感までもが写された写真と重なって、ページをめくるたびにどきどきさせられるのだ。これはもう、細川さんの詩集であり在本さんの写真集であり、ふたりの映画である。
 細川さんはイタリアで料理を学んだと聞いた。私はイタリアで修業した料理人の取材をしてきたけれど、彼らは現地で「皿の外」を見る。つまりレシピそのものよりも、地元の、季節の、採りたての食材で料理を作るイタリア人の“あたりまえ”を身に染み込ませて帰ってくる。
 『野菜』にはたまに、カルチョーフィ(私も大好物)とかちょっと特別な野菜も出てくるけれど、だからって遠い世界の話では全然ない。すべて自分ごとだ。自分の足元にある力強い野菜に目を向けること、その愛し方。おそらくは細川さんがイタリアから教わったように、私もまた「こんなふうに野菜と生きたい」と感じている。

文/井川直子 フリーライター

1967年、秋田県生まれ。食と酒にまつわる「人」をテーマとしたノンフィクションを執筆。取材先は飲食店、料理人とサービスマン、生産地と生産者、醸造家など。新刊に『昭和の店に惹かれる理由』(ミシマ社刊)。

*「フィガロジャポン」2017年7月号より抜粋

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