フィガロが選ぶ、今月の5冊 虚構と現実、記憶と現在が、交差するタブッキの短編集。
Culture 2017.08.18
『とるにたらないちいさないきちがい』
アントニオ・タブッキ著 和田忠彦訳 河出書房新社刊 ¥2,376
取るに足らない小さな行き違いが人生の分岐点だった。ひとりの女を愛した男たちの苦い邂逅を描いた表題作はじめ、代表作『インド夜想曲』に続いて上梓された11の短編は映画に着想を得たという。元ネタがわからなくても、たとえばこんな鮮烈な一行に誘われる。「人生は待ち合わせです」「待ち合わせであり、旅なのです」。タブッキは失われた消息をたどる作家だ。記憶と現在、虚構と現実がフラッシュバックするような独特の語り口でありえたかも知れない選択肢が浮かび上がる。時をさかのぼり迷宮へと誘う短編集。
*「フィガロジャポン」2017年8月号より抜粋
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réalisation : HARUMI TAKI