王室メンバーで知る、英国のエリート教育事情。〈後編〉

Culture 2017.11.24

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イートン・カレッジで学友とティーパーティーを楽しんだ後のヘンリー王子。 photo : Getty Images

前編で英国のエリート教育を語る上で欠かせないボーディング・スクール(寄宿学校)について触れたが、プレップ・ボーディングの場合はまだ幼い8歳時から親元を離れて集団生活を送ることになる。では実際に寄宿生はどんなスクールライフを送っているのだろうか?

授業時間は1コマ30分。

ウィリアム王子とヘンリー王子が在籍した男子校ラッドグローブ・スクールの場合はこうだ。7時15分に起床後、芸術や音楽の練習をまず朝のうちに行い、チャペル礼拝で心を整えたところで、9時から授業1限目がスタート。ティータイムや読書時間をところどころに挟みながらも授業は8限まで(!)びっしりつまっており、課外授業(プライベートレッスン)を終えるのは18時近く。夕食、シャワーを済ませて就寝は20時10分……と息つく暇がないタイムスケジュールになっている。これは、元気いっぱいの子どもたちを忙しくさせておけば、余計なことに気を回さずに済む、という英国独特の合理的な考え方からきているらしい。そのため、どこのボーディング・スクールでも大体似たり寄ったりの慌ただしいスケジュールが組まれている。

しかし、子どもたちにとっては大きな負担ではないようだ。というのも、授業時間は1コマわずか30分ほど(日本の場合、小学校の授業時間は45分)。集中力が途切れる前に授業を終わらせる効率重視のスケジュールゆえ、1日はあっという間に過ぎていくのだろう。

また勉強以外では、サッカーやクリケット、クレー射撃、水泳など、スポーツの時間を毎日2時間はしっかりとって、身体を鍛え上げることに重点を置いている。これはエリート教育に欠かせないスポーツマンシップを養うためだという。後々にパブリック・スクールで徹底的に叩き込まれる“ノブリス・オブリージュ”(高貴なるものの義務)の精神を、小さいうちからスポーツを通して身につけていくのである。
このようにして寄宿生は、学友たちと寝食をともにし、勉学に励みつつ生きる力を身につけ、より逞しく育っていくという。

名門パブリック・スクール出身であることが一流の証。

13歳(学校によっては11歳)の夏に、いよいよ中等教育にあたるパブリック・スクールへの入学試験が行われる。パブリック・スクールの中でも最高峰に位置するイートン・カレッジは、1440年に創立された全寮制の男子校である。入学試験は、面接と記述試験に加え、それまでの成績も踏まえて、厳しく審査されるという。ウィリアム王子とヘンリー王子はそれぞれ13歳の7月にイートン・カレッジに無事合格し、“イートニアン”の仲間入りを果たしている。

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ウィリアム王子18歳の誕生日に公開された公式ポートレート。イートン・カレッジの燕尾服の制服の下には、ユニオンジャックのベストを着用。ベストを自由に選んで着ていいのは、21名の優秀な生徒で選抜される、監督生「POP」(ポップ)の特権だ。photo : Getty Images

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>>叩き込まれるノブリス・オブリージュの精神。

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叩き込まれるノブリス・オブリージュの精神。

パブリック・スクールでは、さまざまなスポーツが盛んなことで有名だ。それは、競技を通してフェア精神を学び、エリート教育の礎となる“ノブリス・オブリージュ”を徹底的に叩き込むためにほかならない。“ノブリス・オブリージュ”とは、「身分の高い者には、社会的責任と義務がある」という教えで、エリート階級に属する者には、いざという時には身分相応の犠牲を払う覚悟が求められるのだ。王族メンバーが軍隊に所属して戦地に赴くケースも、“ノブリス・オブリージュ”の精神ゆえの行動と捉えることができるだろう。

そういったエリート独特の教育を浸透させる上でも、ボーディング・スクールが果たす役割は大きい。騎士道精神を育むからこそ、英国の上流階級にとっての一流の教育とは、パブリック・スクールで教育を受けることであり、オックスフォードやケンブリッジなどの一流大学出身よりも、一流のパブリック・スクール出身であることが重視されるという。大学が教育のゴールと考えられている日本とは大きく異なる点だ。

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スポーツ好きなヘンリー王子は、イートン時代にポロとラグビーのチームに所属して活躍。その一方で、厳しい寮生活を過ごしながらも、アルコール依存症やマリファナ騒動といったお騒がせ事件も起こしていた。photo : Getty Images

卒業後は大学進学か、就職か。

大学受験への最初の関門として、16歳の夏にGCSE(一般中等教育修了証)の試験が行われるが、その2年前から選択科目を10教科ほど選んで猛勉強する必要がある。その結果次第で、進学組と就職組に分かれることになる。

ウィリアム王子の場合は、好成績でGCSEの合格点をクリアし、イートン・カレッジでの最後の2年間をAレベル受験(大学入試)のために地理と歴史、生物学を選択。論述形式のハイレベルな試験内容を、イートン校の手厚い指導もあって無事に突破。1年のギャップイヤーを取った後、スコットランドのセント・アンドリュース大学への入学を決めたが、そこで将来の妃となるキャサリン妃と出会った話はあまりに有名だ。

一方でヘンリー王子の場合はGCSEの結果、大学進学はならず、1年のギャップイヤーを経て、名門のサンドハースト王立陸軍士官学校に入学。ここで初めて兄とは違う進路をとることになった。

ロイヤル・キッズに向けられる、未来のエリート教育。

そこから時が流れて現在。ウィリアム王子の子どもたちへの教育は、始まったばかりだ。特に将来の国王となるジョージ王子は、いずれ父親と同じ道を歩むことになるのか、それとも——?伝統や慣例が付きまとう王室のさまざまな壁を、母ダイアナ妃同様に打ち破ろうとするウィリアム王子が、未来の英国を担う子どもたちにどんなレールを引いていくのか、世界が固唾を飲んで見守っている。

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