【パリのインテリア】パリジェンヌのように、チェアがある空間で和む。
Interiors 2025.07.15
自分の感性をもとに、知恵と工夫を凝らして日常を楽しく過ごす、フランス流の暮らしの美学「アールドゥヴィーヴル」(Art de Vivre)は、パリジェンヌの住まいのあちこちに息づいている。住居のちょっとした隙間のスペースに、お気に入り椅子を置くことで、そこが付加価値のある特別な場所に置き換わることを彼女たちは知っている。部屋の片隅に安息できる場を設ければ、いつもの日常が違ったように見えてくるはず。
家族から受け継いだ名作チェアを、リビングの片隅に。
ジュマナ・ジャコブ(料理家)
60年代のマルセル・ブロイヤーの椅子が、リビングのコーナーを陣取る。壁にかけた大きな絵は市場の様子を描いたもので、やっぱり食がテーマ。photography: Mari Shimmura
レバノン出身のジュマナが料理家を志したのは、美食家だった父親からの影響が大きいが、住まいのインテリアも同様に、父親のコレクションから複数のヴィンテージ家具を譲り受けて愛用している。リビングには、マルセル・ブロイヤーの椅子やル・コルビュジエのリラクシングチェアをさりげなく配置するが、現代アートをはじめ、時代も文化も異なるさまざまなテイストがミックスした空間は、大らかなムードに満ちており、住人だけでなく訪れる人の心も和ませる。「親からさまざまなものを譲り受けられたのはうれしいこと。古いものを飾ると、家族で暮らしていたベイルートの家を思い出して、ハッピーな気分になります」
リビング中央に置いたル・コルビュジエのリラクシングチェアは、60年代の初期に作られた貴重なもの。
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隙間空間を活かして、ひと息つける憩いの場に。
アレクサンドラ・ゴロヴァノフ(デザイナー、ジャーナリスト)
階段下のオットマン付きのレザーチェアは、軽めの読書を楽しむ場。ちょっとした空間でも心豊かになれるように、エルメスのクッションを置いて。photography: Matias Indjic (Madame Figaro)
ひと目ぼれして即購入を決意した一軒家に、2年以上をかけて改修したアレクサンドラ。生活スタイルに合わせて間取りまで変えたが、階段周りのデッドスペースも有効活用して椅子を置くことに。周囲の色と同系にすることで、心地よい一体感を生み出すことに成功している。「家具や小物は、建物の外壁の色合い、周囲の自然や光に合わせて選びました。それが、この家の全体の調和をもたらしています」
2階に上がったところにも椅子を配して、物を一時的に置くスペースに。木の梁や柱のトーンと同系色のファブリックにすることで、全体が馴染んで落ち着いた印象に。
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イームズチェアで完成させる、アーティスティックな空間。
エミリー・マラン(「Studio Marant」創立者、アートキュレーター)
ガラスのテーブルは、モノクロームのものだけを集めた装飾スペースに。photography: Ayumi Shino
ロンドンのアートスクールに留学後、パリに戻ってモードを学び、現在はアートキュレーターとして活躍するエミリー。プライベートでもアートに囲まれたモダンな暮らしを楽しんでいる。壁際の一角に置いたイームズチェアは、パリのオークションで購入したもの。ガラスのテーブルには多重構造のペーパーアートとして知られるwell well designersの作品や、オラファー・エリアソンの作品集を飾って、アーティスティックなムードを演出している。
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陽が差し込む窓辺のコーナーで、ブレイクする幸せ時間。
サラ・ジョーダン(室内建築家)
パリのアンティーク市で見つけてきた背もたれのないウッドチェアは、狭いスペースに便利。ライトはmade.comで購入。photography: Shiro Muramatsu
北マレにある自宅のアパルトマンについて、「壁一面全室が大きな窓で、一日中明るくて、開放感いっぱいなのが気に入っています。インテリアは、木の梁の自然な質感と、白を基調にしたエピュレ(すっきりとまとめたクリーンの意味)がテーマ。そこに布や植物を使って、少しだけエスニックなテイストを加えました」と解説するサラ。窓際に椅子を置いてみたところ、読書スペースとして活用するように。「休日の午後、光あふれる窓際で本を読むのが大好き」と、いまではお気に入りのリラックススポットになっている。
グリーンを効かせたサロンは、モロッコから持ち帰った敷物や器、バリ島の布のクッションなど、エスニックなテイストがアクセントに。
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イマジネーションが働く場を、部屋の片隅につくる。
カミーユ・ウィット(イラストレーター)
映画のポスターは母親から譲り受けたもの。ブロカントで入手した椅子には、インスピレーションを受けている絵画集や小説を置き、いつでも手に取れるように。photography: Mana Kikuta
パリの日常を切り取ったイラストを軽やかに描くカミーユのアパルトマンは、家族との思い出がつまった物と古い物であふれ、どこかノスタルジーを感じさせる佇まい。リビングの片隅にちょっとした休憩ができるスペースを設けたが、壁には母親が25歳の時に買ったジャン=リュック・ゴダールのポスターを貼って、60年代の気分をプラス。さらにインスピレーション源となっている書籍も置くことで、想像の翼を広げられる場に。
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玄関に置かれたチェアが、人の出入りを見守る。
マリー=アンヌ・ブルースキ(ジャーナリスト、シティガイド「re-voir Paris」創設者)
上着やバッグを一時的に置くことができる椅子を重宝している。帽子スタンドも玄関に欠かせないアイテム。photography: Mariko Omura
夫とふたりの娘の4人で暮らすマリー=アンヌは、あれこれ飾るのが大好き。玄関周りに棚を置いて、旅先で見つけたもの、ブロカントの掘り出し物など、彼女のお気に入りを飾るスペースにしているが、玄関のドアも飾らずにはいられない。子どもたちが描いた絵や、インスピレーションを与えてくれる広告など、彼女の感性に引っかかったビジュアルをコラージュしては、毎日目に触れるようにしている。出発前に古いチェアに座ってひと呼吸おけば、準備は完了。オンオフを切り替える場所になっている。
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ベンチを配した隙間スペースが、家族の休憩スポット。
ジュリー・ルヴューズ(「Dallas」PRオーナー)
採光が取れて、まるでヴァカンスでの憩い場のよう。とりわけ子どもたちのお気に入りの遊び場となっている。photography: Mariko Omura
ホテルやインテリア、デザイン関連のPRとして活躍するジュリー。自宅のアパルトマンもホテルさながらの美しい内装を手掛けているが、かつて渡り廊下だったスペースを有効活用し、ベンチを置くようにした。狭さを感じさせないように奥に鏡を貼り、ベンチには明るいカラーリングのクッションをたくさん置いて、快適に過ごせるようにしたところ、いまでは家族全員が寛ぎにくるエスケープスポットに。
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バスルームの一角に、クラシカルな椅子を置く。
オンディーヌ・サグリオ(「CSAO」アーティスティックディレクター)
バスルームの片隅で、クラシックな椅子とハンドペイントが魅力のブリキの物入れが、シックに調和する。photography: Mariko Omura
ブティックCSAO(サオ)で、布選びから刺繍のアイデアなどのクリエイティブな部門を担当するオンディーヌの自宅は、彼女の美意識が反映されたインテリアであふれている。アフリカの品とヴィンテージのミックスを持ち味とするだけに、新品の家具はひとつもないこだわりよう。寝室と床続きになった広々としたバスルームの一角には、クラシカルな椅子を配しているが、ここで読書を楽しんで過ごすことも。サオのクッションがモダンな感性を加えているから、古めかしくならないのがポイントだ。
*この記事は、madame FIGARO.jpの2017年1月~2024年10月の記事を再編集し、制作したものです。
editing: ERI ARIMOTO