写真家・石内都が「肌理」をキーワードに掲げた展覧会。

Culture 2017.12.05

「記憶の織物」に封じ込められた、生の痕跡。

『石内 都 肌理と写真』

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『Frida by Ishiuchi #107』2012年。メキシコの画家フリーダ・カーロの遺した衣装や装飾品などの品々を撮影した名作。

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『絹の夢 #51 半併用絣銘仙 桐生』2011年。日本の近代化を支えた大正、昭和の女性たちが愛用した絹織物。

「きめ細やか」という言葉は人や物の肌が綺麗に整った様子のほか、物の扱いや態度が丁寧であることを指す。本展のタイトルの「肌理(きめ)」とは、デビュー40周年を迎える写真家・石内都の制作の姿勢を象徴する言葉だ。

 美大で染織を専攻した石内は、物の肌理に対する鋭敏な感覚によって、現世に遺された物の表層に現れる時間や記憶を写真に収める。広島の原爆犠牲者の衣服や亡き母の遺品、フリーダ・カーロの衣服や薬品、郷里・桐生に伝わる絹織物など、歴史あるさまざまな遺物に残された生の痕跡を、丁寧に、デリケートな仕草で扱ってきた。日本人では3人目となる“写真界のノーベル賞”ハッセルブラッド国際写真賞の授賞式で「記憶の織物」と評されたその作品世界は、衣服や皮膚のように、内面と外面、公と私、過去と現在の間にあるものを通して、いつまでも片付けることのできない記憶を炙り出す。

 横浜に暗室を構え、独学で写真を撮り始めた1975年。激動の時代に、横須賀の町や旧赤線跡地などを撮影したモノクローム写真の粗い粒子は、時とともにやがて変容していく。写真を通して社会に向ける視線と自身の身体性とが緊密になるにつれ、写真はより複雑で繊細な「肌理」をもち始める。本展では最初期の『金沢八景』など、石内と横浜の関係に焦点を当てるほか、女性の傷跡を写した『Innocence』など既存シリーズの未発表作、またアメリカのファッションデザイナー、リック・オウエンスの父の遺品である着物を撮った作品や、徳島県の阿波人形浄瑠璃の衣装を取材した作品などの新シリーズを発表する。現在地の風をはらんだ写真が、新たな「肌理」を整えていく行方に注目したい。

『石内 都 肌理と写真』
会期:12/9〜2018/3/4
横浜美術館(神奈川・横浜)
営)10時〜18時(2018/3/1は〜16時、3/3は〜20時30分)
休)木(2018/3/1は開館)、12/28〜2018/1/4
一般¥1,500

●問い合わせ先:
tel:045-221-0300
http://yokohama.art.museum

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*「フィガロジャポン」2018年1月号より抜粋

réalisation : CHIE SUMIYOSHI

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