お正月から、歌舞伎三昧!【市川染五郎改め 十代目 松本幸四郎】

Culture 2017.12.26

2018年は、高麗屋三代襲名で幕を開ける、歌舞伎にとって輝かしい年。そんな記念すべき年明けには、見どころとなる公演が続々と。歌舞伎座、国立劇場、浅草公会堂と、晴れやかな舞台で新年事始め!

市川染五郎改め
十代目 | 松本幸四郎

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1月、2月と高麗屋三代襲名披露公演を行う歌舞伎座にて。甘い細面のマスクも、不惑を越えてがっしりと大きくなった。高麗屋が得意としてきた役を演じるには、それも必要。
photo:SAKIKO NOMURA

どれだけ変わらずにいられるか、
それを目標に襲名に臨みます。

歌舞伎の襲名というのは、単に名前が変わるだけでなく、会社員にたとえるならある種の昇格みたいな側面がある。その名前にふさわしい働きを求められるのだ。この正月に彼が十代目を襲名する松本幸四郎は、数々の名優が名乗ってきた歌舞伎界屈指の名跡である。それなのにこんなことを言う。

「元日になると、今日から絶対日記を書くとか毎朝走ると考えるんです。節目を迎えると、無理にでも何か始めたくなるわけで。でも、正月が終わると忘れているというのが僕の年中行事でした。そもそも、年が改まったからといって僕自身が変わるわけではない。襲名も同じでしょう。名前が変わったからといっていきなり幸四郎然となるわけではない。ならば、襲名してもどれだけ変わらないでいられるかを大事にしよう。そう決めました」

これまでがあって幸四郎になるのだから、自分を信じなくてどうする。

高麗屋の御曹司という立場や貴公子然とした風体を裏切るように、いろんなことをしてきた。劇団☆新感線と組んでヒット舞台作を連発したし、ドリフのギャグをふんだんに盛り込んだ新作歌舞伎も作った。ほんの半年前には、髙橋大輔らをフィーチャリングしたアイスショーに歌舞伎を持ちこんでいる。これからそういった「新しいこと」はどうするのだろう。

「決まり文句のようにそれを聞かれますが、やるのが当然だと思います。そもそも、新しいことがやりたい! ではなく、こういうのがあったらおもしろいのに。でもどなたもなさらないからやるしかないな、という始まりでしたから。ただ、違和感はわからなくはないんですよ。37年前の三代襲名で、父が祖父の名を継いで九代目松本幸四郎になった時、当時8歳だった僕は、父がいきなりおじいちゃんになったような気がして、おじいさんが『ラ・マンチャの男』はないだろう、みたいなことを思いましたから。隣に昨日まで幸四郎だった人がいるとはそういうことでしょう。ただ、幸四郎の名前を許されたのは、これまで僕がやってきたことを認めていただいたからだと思っていますので、それを信じなくてどうする、と。それがあるから変わらずにい続けようとも思うのです」

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2度目の弁慶は、十代目幸四郎の一里塚。
1月の歌舞伎座で演じる『勧進帳』の弁慶は、“幸四郎”を象徴する役であり、「弁慶を演じるために歌舞伎役者になった」と彼に言わしめる役。41歳の時に初めて演じ、今回が2度目。「これで最後というギリギリの想いでいますが、同時に一生演り続けるうちの一度、という気持ちでもいます」photo:SAKIKO NOMURA

ー誕生日は1月8日。襲名披露公演が幕を開けて間もなく45歳になる。

「もう若くないのは確かですが、歌舞伎は不思議な演劇で、20代より70代の役者のほうが若々しく武者を演じられたりするのです。でもだからこそ、若い人にしかできない歌舞伎があってもいい。若い肉体でしか演じられない歌舞伎。それを作ってみたい気がしています。若いお客様がシンパシーを感じてくださるのは、そういうものだと思うので。(染五郎を襲名する)息子が主演? いえいえ。微妙に嫉妬しそうなので、それはないです(笑)」

ーあらためて新年の抱負を。

「襲名は役者を劇的に成長させるものといわれますし、そういう先輩の姿を間近に見てもきました。それだけ衝撃的な出来事なのだろうと想像していますが、それを経ても自分であり続けられるか。言葉で表すなら“職人たれ”。名前ではなく、僕がやったことをどれだけ歌舞伎の中に残せるか。そのために1秒でも多く歌舞伎のことを考える1年でありたいと思っています」

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Koshiro Matsumoto
高麗屋。1973年生まれ。81年、七代目市川染五郎を襲名。この時も祖父、父とともにした三代襲名であった。多ジャンルでさまざまな挑戦をすると同時に『女殺油地獄』や『春興鏡獅子』など、歌舞伎でも高麗屋以外の役に数多く挑戦。日本舞踊松本流の家元でもある。

 

プリンス然とした容姿だが、ザ・ドリフターズと深夜ドラマをこよなく愛するアンビバレントな人。
photo:SAKIKO NOMURA

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photos : TAKASHI KATO

歌舞伎座百三十年『壽 初春大歌舞伎』 歌舞伎座
会期 : 2018/1/2~26 
演目/昼の部  :  箱根霊験誓仇討』『七福神』『菅原伝授手習鑑 車引』『菅原伝授手習鑑 寺子屋』
夜の部 : 双蝶々曲輪日記 角力場』『口上』『勧進帳』『相生獅子』『三人形』
出演 : 二代目 松本白鸚、十代目 松本幸四郎、八代目 市川染五郎、坂田藤十郎、中村吉右衛門、中村梅玉ほか

歌舞伎座百三十年『二月大歌舞伎』 歌舞伎座
●2018/2/1~25
●演目/昼の部: 『 春駒祝高麗』『一條大蔵譚』『暫』『井伊大老』 夜の部: 『 熊谷陣屋』『木挽芝居賑』『仮名手本忠臣蔵 七段目』
●出演 :二代目 松本白鸚、十代目 松本幸四郎、八代目 市川染五郎、尾上菊五郎、中村吉右衛門、片岡仁左衛門、中村梅玉、坂東玉三郎ほか

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*『フィガロジャポン』2018年2月号より抜粋

texte : YUKIKO YAGUCHI, coiffure et maquillage : AKANE

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