ベテラン俳優と子どもたちが体現する、映画を作る悦び。

Culture 2018.02.03

生きること、作ること、その原初的な悦びを映画が抱きとめる。

『ライオンは今夜死ぬ』

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いまだ映画の現場が似合う老レオー。死と向き合うかと思えば、少年的な茶目っ気も見せる。映画に捧げたその年輪が、芳しい映画作りの映画の心棒。

なんて幸せな映画だろう。南フランスの眩い光。湖面の煌めき。光に縁どられた、こどもたちの伸びやかな手足や髪。振り向いた濡れた顔。夏の緑。吹き渡る風。ジャン = ピエール・レオーの笑顔。時空をこえた古い館。そばかす。すきっ歯。秘密基地。合言葉。こどもたちの議論。ライオン……。すべてが奇跡的に美しく、自然だ。

疲れ切った老俳優ジャンは死んだはずの恋人ジュリエットに古い館で出会う。彼女は若く美しいままだ。一方、夏の白い光のなかで、こどもたちは映画を撮っている。こどもたちが出てきたとたんエネルギーと色彩がスクリーンから溢れる。彼らは誰に教わるでもなく、自由に心の動くままに映画を撮り、古い館でジャンに出会い、出演を依頼する。ジャンは死の演技ができないと悩んでいる。ところが、こどもたちとの撮影が始まると、生き生きと若返っていく。こどもたちの演出に従わず、彼らを当惑させ、大きな声で歌い、死の影から解放されていく。ラッシュでは笑顔が弾け、映画作りの楽しさに夢中になっている。

諏訪監督は「こども映画教室」の特別講師を何度も引き受けてくださっている。映画教室では、こどもたちが自ら映画を発見するように、大人は手出し口出しをせず、見守る。こどもたちの映画作りは原初的な悦びに満ちていて、映画に正解はない、映画は自由だと思い出させてくれる。 諏訪さんは彼らの映画作りを見ながら、彼らと一緒に映画を作りたいと思ったのだそうだ。

この映画は奇跡のような瞬間、幸せな瞬間、そんな一瞬一瞬でできている。

文/土肥悦子「こども映画教室」代表

金沢の映画館「シネモンド」代表。2004年、「こども映画教室」を設立、全国で開催。17年より、仏の映画教育企画「映画、100歳の青春」に参加。2015年度日本映画ペンクラブ奨励賞受賞。
『ライオンは今夜死ぬ』
監督・脚本/諏訪敦彦
出演/ジャン=ピエール・レオー、ポーリーヌ・エチエンヌ
2017年、フランス・日本映画 103分
配給/ビターズ・エンド
YEBISU GARDEN CINEMAほか全国にて順次公開中
www.bitters.co.jp/lion

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*「フィガロジャポン」2018年2月号より抜粋

réalisation : TAKASHI GOTO

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