フィガロが選ぶ、今月の5冊 この結婚は「運命」?「復讐」? 驚くべき恋愛小説。

Culture 2018.02.04

夫婦愛の真と嘘を暴く、怪物級の結婚小説。

『運命と復讐』

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ローレン・グロフ著 光野多惠子訳 新潮社刊 ¥2,916

怪物クラスの大長編が来た。テーマは結婚。夫であるロット側から描かれる第一部は「運命」、妻のマチルドに視点を変えて語り直される第二部が「復讐」。となると、似た構成の『ゴーン・ガール』を思い浮かべてしまうけれど、こちらはより複雑で深遠で、文学の重みの桁が違う。

アメリカ南部の名家に生まれたロットの人生が、親の代から大河ロマン調に語られる第一部。大学時代、マチルドに一目惚れでプロポーズし、22歳で結婚した美男美女のカップルの、長きにわたる結婚生活が描かれる。20代を通して俳優として芽が出なかったロットを、マチルドは支え続ける。戯曲を書くことを後押しし、ロットの劇作家としての才能を開花させたのも彼女だ。しかし愛され続ける糟糠の妻なんて嘘があるに決まっているし、事実、彼女が本性を隠している感は否めない。もちろん嘘はあったことが第二部で早々に明かされるが、その嘘はこちらの想像をはるかに凌駕する。マチルドの人生はトーンをがらりと変え、ゴシックホラーさながら。第一部にちりばめられたフェミニズム的なフラグがきれいに回収され、胸のすくようなオチがつくのか、という読みは大きく外れることになる。まるで、「そんな安直なことはしませんよ」と、神が言っているようだ。「この世にいいことも悪いこともありはしない。要はとらえ方の問題なんだよ」と。

シェイクスピアをはじめ、数々の引用や目配せがあふれ、超然としたところから悲喜劇として語られるが、コミカルなわけでも涙を誘うわけでもない。こんな重層的な物語を作り上げた作者は一体何者なんだ?  こちらは、その尻尾すら掴ませてもらえない。

じっくり通読してもなお、どこに気持ちを着地させていいか分からず、物語の意味を考え続けてしまう。底知れない後味を残す、結婚小説の新たなマスターピースだ。

文/山内マリコ 作家

1980年生まれ。2012年『ここは退屈迎えに来て』(幻冬舎刊)でデビュー。最新刊は、地方都市で暮らす姉妹が商店街の活性化を目指して戦う、社会派エンタメ小説『メガネと放蕩娘』(文藝春秋刊)。

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*「フィガロジャポン」2018年2月号より抜粋

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