フィガロが選ぶ、今月の5冊 名手トレヴァーが描く、ふたりの女、ふたつの人生。
Culture 2018.03.24
『ふたつの人生』
ウィリアム・トレヴァー著 栩木伸明訳 国書刊行会刊 ¥2,808
現実が受け入れがたい時、忘れがたい記憶に逃げ込むことを誰が責められるだろう。「ツルゲーネフを読む声」はブッカー賞の最終候補になった名編。メアリー・ルイーズにとって結婚は幸福なものではなかった。いとこの青年と恋に墜ちた彼女がとった決断は、狂気と呼ぶにはあまりにも切実だ。もう一編「ウンブリアのわたしの家」の主人公は小説家。どこまでが現実で、どこからが彼女の想像なのか。人は現実を都合よく書き換えながら生きていると思わずにいられない。読む女と書く女、アイルランドの名手トレヴァーのほろ苦くも静謐な筆致に惹き込まれる。
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*「フィガロジャポン」2018年3月号より抜粋
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