秋の夜長に楽しみたい、海外ドラマ10選。#02 【海外ドラマ】いまを映し出すディストピアを舞台にした、衝撃作。

Culture 2018.10.23

必見の海外ドラマを厳選する短期連載の第2回。「ハンドメイズ・テイル/侍女の物語」は、妊娠可能な女性が「侍女」として生殖の奉仕を強いられるというおぞましい近未来を舞台に、全体主義の恐怖を描き出す。

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人権を剥奪されたジューンは、侍女オブフレッドとして生きることを強いられる。

「ハンドメイズ・テイル/侍女の物語」(2017年~)

1985年のマーガレット・アトウッドのディストピア小説『侍女の物語』のドラマ化。環境汚染などが進み女性の不妊率が上昇し、出生率が異常に低下したアメリカでは内戦が起き、キリスト教原理主義が支配するギレアド共和国が誕生する。女性はすべてを剥奪され、妊娠可能な健康な女性は侍女と呼ばれ、子どもがいない政府高官の家に配属されて妻の代わりに妊娠・出産を強いられる。セックスは快楽であってはならず、神聖な「儀式」だ。ベッドで妻の股の間に侍女が頭を置いて仰向けに横たわり、妻としっかり手を握り合いながら、夫との「儀式」に侍女がのぞまなければならないシーンのおぞましさ。冷たく澄んだ映像美とは対照的に狂った世界では、しばしばホラー的な瞬間が映し出される。

2017年4月に米Huluで配信がスタートした本作は、この年の賞レースを席巻した。ハリウッドのセクハラ騒動に端を発する#metoo運動の盛り上がりや、女性がいまだ抱える多くの問題に人々が声を上げた時代のムーブメントを、力強く後押しした作品でもある。もっとも、子どもを産むor産まない(産めない)といった女性の問題として語られがちな本作だが、この物語の本質は日本でも物議を醸した「生産性」云々の問題にも直結している。そう考えると、より根源的な全体主義の恐怖を伝えていることがわかるだろう。

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司令官フレッド(ジョセフ・ファインズ)と妻セリーナ(イヴォンヌ・ストラホフスキー)にも複雑な過去が。

エリザベス・モスが圧巻の演技で体現する主人公ジューン(侍女としての名はオブフレッド)は、決して清廉潔白な善人というわけではない。完全に原作から離れて展開するシーズン2では、よりそのことがよくわかる。人は誰もが、それと意識はせずとも加害者にもなる可能性がある。女性だからというだけで、一枚岩になれるわけでもない。それでも、声を上げるべき時に声をあげなければ、真っ先に迫害を受けるのは本作にあるように障害者やLGBTQ、病気を患う者、高齢者、そして女性たちなのだ。ジューンたちが受ける屈辱は痛ましいが、何度絶望しても立ち上がる女性たちの行く末に何があるのかを見届けずにはいられない。

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絶望の中で侍女たちは希望の光を見出すことができるのか? 計算され尽くした映像美も圧巻。

「ハンドメイズ・テイル/侍女の物語」シーズン2予告編

「ハンドメイズ・テイル/侍女の物語」

原題/The Handmaid's Tale
クリエイター/ブルース・ミラー
出演/エリザベス・モス、マックス・ミンゲラ、イヴォンヌ・ストラホフスキー、ジョセフ・ファインズ、アレクシス・ブレデルほか
Huluにてシーズン1・2を配信中
The Handmaid’s Tale © 2018 MGM Television Entertainment Inc. and Relentless Productions LLC. All Rights Reserved.

【INDEX】秋の夜長に楽しみたい、海外ドラマ10選。

【#01】自立のため奮闘する良妻賢母の、マーベラスな可愛さ。           
【#03】シリアルキラーの狂気を、「glee/グリー」の彼が怪演。
【#04】知的な会話の虜になる、人気法廷ドラマのスピンオフ。
【#05】幻想世界でめぐり逢い続ける、孤独なふたりの物語。
【#06】戦場帰りのヒットマン、演劇の面白さに目覚める。
【#07】笑って泣ける、プロレスに挑む“負け犬たち”の奮闘。
【#08】絢爛に繊細に掘り下げる、孤高の女王エリザベスの素顔。
【#09】殺人犯の心の闇を探る、スリリングなミステリー。
【#10】驚きと笑いの後、心にじわりと響く人生の哀歓。

texte:SACHIE IMA

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