シャンソンの歌姫バルバラの人生を辿る、愛のドラマ。

Culture 2018.12.28

果たされない愛の不実に爪を立て、愛のあるべき姿を希求する。

『バルバラ 〜セーヌの黒いバラ〜』

1812xx-cinema-01.jpg

「黒いワシ」など、名曲・名演揃いのバルバラの役作りにもがく女優。歌うこと、演じること。創造創造することの"魔"が伝記の枠を超え、ジンジン迫ってくる。

バルバラの歌を聴くと、シャンソンは100年後になっても残っていくジャンルとわかる。シャンソンの異端にして精神の中核を継ぐ。英米の歌よりも恋愛の深みを描く。そんなバルバラに肉薄しようとする女優ブリジット(ジャンヌ・バリバール)を描いた映画『バルバラ』は、シャンソンの持つ「人生の断面をエグる機能」を見事に見せてくれる。

バルバラは目線を合わさないで歌う。しかし突然グイっと心臓めがけて眼光を刺す。そんな動作をバリバールはよく捕らえる。バルバラは女性が誰でも持つ「愛のあるべき姿に対する希求」をむずがりながら伝える。油断ができない。

「結婚するから忘れて!とあなたは言う。そんなの狂ってる!」と歌う。刺さる。果たされない愛の不実を訴え、空気に爪を立てる。女性の立場から歌われる、どうしようもない喜びとすれ違いの歌を、バルバラに憑依するようにバリバールが再現する。バルバラはステージの用意についてひどく神経質。「ワガママ娘」ではなく、ただひたすらセンシティブ。そんなたたずまいもよく演じ、捕らえ過ぎるあまりにバルバラになり過ぎていく。

男にとってたとえ自分をなじる言葉でも、純粋な想いから出てくるならば、受け取らずにいられない。血が恋でできているかのようなバルバラの歌はあまりに純度が高い。だからバリバールも、身体の中にバルバラが満ちてくることに抗えない。そうした様子がこの映画の醍醐味だ。草食の時代になってもバルバラは消えない、どんな未来も人間同士の営みは変わらない、この映画はそう語っているようだ。

『バルバラ 〜セーヌの黒いバラ〜』
監督・共同脚本・出演/マチュー・アマルリック
出演/ジャンヌ・バリバールほか
2017年、フランス映画 98分
配給/ブロードメディア・スタジオ
Bunkamura ル・シネマほか全国にて公開中
http://barbara-movie.com
文/サエキけんぞう ミュージシャン

ハルメンズを経て1986年、パール兄弟で再デビュー。作詞に沢田研二、モーニング娘。、著書に『ロックとメディア社会』(新泉社刊)ほか。

【関連記事】
レディー・ガガ入魂の映画『アリー/スター誕生』
映画通、本読みに聞く、2018年のベスト映画&本特集。

*「フィガロジャポン」2019年1月号より抜粋

Share:
  • Twitter
  • Facebook
  • Pinterest

フィガロワインクラブ
Business with Attitude
パリとバレエとオペラ座と
世界は愉快

BRAND SPECIAL

Ranking

Find More Stories