アニエス・ヴァルダが描いた、自由でモダンなヒロインたち。

Culture 2019.04.16

ヌーヴェル・ヴァーグの旗手のひとり、アニエス・ヴァルダが3月29日、90歳で息を引き取った。彼女は映画史に、その人柄を反映する強く美しい佇まいのヒロインたちを残していった。

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『冬の旅撮影中のサンドリーヌ・ボネールとアニエス・ヴァルダ。(1985年1月)。photo:Getty Images

アニエスの最愛の夫ジャック・ドゥミは『ロシュフォールの恋人たち』(1967年)で、パステルカラーを纏った登場人物をスクリーンに舞い踊らせた。一方で、ヌーヴェル・ヴァーグただひとりの女性監督だったアニエスは、1960年代という時代を生きる自由な女性たちを描いた。

『5時から7時までのクレオ』:恐れる女の凛とした姿

1962年、アニエスはフランス映画史上最も美しい女性像に数えられる映画を撮影した。それはクレオ(崇高なコリンヌ・マルシャン)。美しくエレガントなシンガーが、癌に侵されているのではと恐れる2時間を描いた。(奇しくもこの病こそがアニエスの命を奪ったのだが)。時計が5時を告げるころ、彼女は2時間後に知らされる検査の結果を心配している。永遠にも思えるこの2時間の間、つゆほどのそぶりも見せずに苦悩と闘う彼女。襲ってくる虚無感にも関わらず、決然とした姿で、彼女はパリの街を歩く。完璧な黒いドレス、大きなネックレス、スカーフを纏ったその姿は、オードリー・ヘプバーンにも引けを取らない。

『歌う女、歌わない女』:ヒッピーな活動家

昨年、パリで再上映された1977年の作品『歌う女、歌わない女』。1962年のパリに生きる、まったくタイプの違うふたりの女性が描かれる。ポーリーヌ(17歳)は、政治的主張のあるグループのボーカルを目指す学生。一方、友人のシュザンヌ(22歳)はふたりの子どもを抱え、子どもたちの父親の自殺から立ち直れないでいる。ふたりの女性解放への歩みは、その外見で表現されている。無造作なヘアでジーンズを穿き、カラフルなチュニックを合わせた典型的なヒッピースタイルは、身体の解放を意味していた。

『アニエスv.によるジェーンb.』:アンドロジナスなミューズ

1988年に発表されたアニエスの最も実験的な映画。数シーズンにわたってさまざまな角度からジェーン・バーキンを撮影した。そこにはカラミティ・ジェーンであり、シャルロットの母であり、セルジュ・ゲンズブールによって讃えられた崇拝の対象である彼女が描かれる。ヘアスタイルを変え、変装し、マリリン・モンローにオマージュを捧げるシーンも。だが、フィクションと現実を行き来しながら、ジェーン・バーキンのスタイルは常にアンドロジナス。ジーンズ、スニーカー、テーラードジャケット、メンズシャツ、そして白いTシャツだ。

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『アニエスv.によるジェーンb.の撮影時、ジェーン・バーキンと娘のシャルロット・ゲンズブール。(1988年2月)photo:Getty Images

まだまだいる印象的なヒロイン

シルヴィア・モンフォールはアニエスの長編第1作『ラ・ポワント・クールト』(1955年)に出演している。彼女が演じるのはフィリップ・ノワレの演じる「彼」に対する「彼女」。セットの港を放浪するカップル。処女のようなシックな白いワンピースを着た彼女は、イングマール・ベルイマン監督作のヒロインのような雰囲気を纏っていた。

クレール・ドルオーは『幸福』(1965年)で、浮気者の夫の忠実な妻テレーズを演じた。夫である若き建具職人を演じたのは、プライベートでも夫だったジャン=クロード・ドルオー。彼女が着るポップな花柄のワンピースが、幸福の脆いイメージを完璧に表現していた。

『冬の旅』(1985年)の野生的なモナを演じたサンドリーヌ・ボネールは、放浪者のイメージを人々の目に焼きつけた。本作はこの年のヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞。ジーンズに着古した黒いブルゾン。家庭のない若い娘は、南フランスを駆け巡る。彼女の道連れは、空き家にたむろするならず者とたくさんのタバコだった。

texte:Violaine Schütz (madame.lefigaro.fr)

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