舞台はパリ郊外、かつてない先生と生徒たちの物語。

Culture 2019.04.26

困難を乗り越え一体化、の物語パターンから踏み出す教室。

『12か月の未来図』

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軽口が発端となり、パリのエリート校の古参教師は、他人ごとだった郊外校の授業を1年間任される。習俗や慣習の異なる移民の子らの予測不能な遠心力を教室と結ぶ、失敗続きの授業の行方。

学校教育モチーフの映画と聞くと、生徒の身になる感情的な資質を持つ先生が、最初は生徒たちに受け容れてもらえないが、やがて困難を乗り越え、教室が一体になる……というパターンを考えがちだ。『12か月の未来図』は違う。移民の子だらけの教育困難校。昔は「底辺校」と呼ばれた。エリート教員一家に育った名門高校の教員フランソワは、ひょんな「ええかっこしい」が契機で、不本意ながら転属させられてきた。自分流に自信満々な彼は、そこでも自分流を貫くが、通用しない。完全に八方塞がり。鬱々とした毎日が始まった――。

さて彼が他の教員と違ったのは、彼らのシニカルな態度に不快感を抱いたこと。「俺はこんな奴らとは違う」。子供への共感や使命感から出発していない。実際今どきの教育困難校で「荒れた子供」への共感可能性などあり得ない。監督のリアリズムに観客も身を乗り出す。

彼には「未熟な子供、成長した大人」という幻想があった。幻想はプライド案件で厄介だ。だが逆にプライドゆえに彼は自分の未熟さを受け容れ、生徒を観察し始める。やがて彼は<法外>(きまりの外)の手段をとる。

一皮剥けた瞬間だ。不良の退学阻止に入れ込むのも「ことなかれ」な同僚への反発だ。そこでも彼は<法外>を模索する。だからといって生徒は劇的には変わらない。授業がマシになった程度。実際、退学阻止に成功したのに不良は戻って来なかった。だが彼が自発的に戻ってきた時、主人公は大きく変わっていた自分に気づくーー。

そんな彼は魅力的だ。だから禿げたオジサンなのに少しエッチなこともあった。今までにないフランス映画だ。

文/宮台真司 社会学者

専門は社会システム理論。教育、映画、サブカルチャーなど、活動は多岐に及ぶ。近著に『14歳からの社会学』(ちくま文庫)、『私たちはどこから来て、どこへ行くのか』(幻冬舎文庫)ほか。
『12か月の未来図』
監督・脚本/オリヴィエ・アヤシュ=ヴィダル
出演/ドゥニ・ポダリデス、レア・ドリュッケールほか
2017年、フランス映画 107分
配給/アルバトロス・フィルム
岩波ホールほか全国にて公開中
http://12months-miraizu.com

*「フィガロジャポン」2019年5月号より抜粋

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