どんなに破壊的な出来事にも、奪えないものがある。
Culture 2019.05.19
津波に家族を奪われた女性の手記。
『波』
ソナーリ・デラニヤガラ著 佐藤澄子訳 新潮社刊 ¥2,160
スマトラ島沖地震による津波で、著者は夫とふたりの小さな息子と両親を一瞬にして失った。カウンセラーの勧めで手記を書き始めたのは、うちのめされていた彼女自身が立ち直るためだった。書くことは奪われたものを手繰り寄せること。思い出すだけで辛かった日々。喪失の痛みを越えて、よみがえる幸福な記憶。家族の愛をもう一度発見するまでの回想録。彼女が辿った再生の道のりは、どんなに破壊的な出来事にも奪えないものがあることを教えてくれる。
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*「フィガロジャポン」2019年6月号より抜粋
réalisation : HARUMI TAKI