『バスキア展 メイド・イン・ジャパン』を愉しむ。#01 バスキアのパーソナルな思いが詰まった「ノートブック」とは?

Culture 2019.09.18

鮮やかな色彩にパワフルなタッチ、心に残像をもたらすような迫力――。アメリカを代表するアーティスト、ジャン=ミシェル・バスキアのアートには、まるで息遣いが聞こえてきそうなほどエネルギーにあふれている。

9月21日から東京・六本木の森アーツセンターギャラリーで開催される『バスキア展 メイド・イン・ジャパン』は、日本とジャン=ミシェル・バスキアの絆に特化したスペシャルな展覧会。この展覧会をより深く楽しんでもらうべく、バスキアと縁のある関係者にインタビューを行った。ひとり目はアートコレクターのラリー・ウォルシュ。今回の展覧会で日本初公開となる「ノートブック」を8冊所有する人物である。

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ウォルシュが保有するノートブックは、彼のクローゼットの中に20年間以上も眠っていたが、2015年にブルックリン美術館で公開された。インタビュー中に手にしていたのはオリジナルではなく、2015年に出版した『ザ・ノートブック』。

1980年代にイーストビレッジに住んでいたウォルシュ。彼の友人で、優れた詩人でライター、ペインターでもるルネー・リカルドが、「ものすごいアーティストがいる。彼はきっと後世にまで名を残すだろう」とバスキアのことを絶賛していた。ある日、バスキアのノートブックを見たリカルドが大興奮して、ウォルシュの家にやってきた。「これはすごいから絶対見た方がいい!」と言うリカルドと一緒に、バスキアのバンド「グレイ」のメンバーであった、ニック・テイラーとマイケル・ホールマンを訪れる。そしてふたりからノートブックを紹介され、入手した。

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レプリカをのページをめくりながらインタビューに答えてくれたウォルシュ。彼が持つ8冊のノートブック、すべてが今回の展覧会で公開される。

ウォルシュの手に渡ったノートブックは「バスキアが何を言いたかったかが伝わってくる」もの。ノートの中身は、走り書きのようなものから、詩やイラスト、言葉や絵で、徒然なるままにバスキアが遊んだ、彼の内面的な世界観が凝縮された内容だ。「ノートブックのいちばん魅力的なところは、手書きのスタイルや、文字の精密さ。ページのどの部分に文字が書かれているか、またマークの上に描かれている文字など、一見ランダムに見えるけれどすべて意図されたもの。構成が綿密に計算されて描かれているとこが素晴らしい」とウォルシュ。

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日本のバスキアのファンについてはこう語る。「日本はバスキアの素晴らしさを理解した、最初の国。1980年代に日本からコレクターが来て、彼のアートがどんなに優れているか理解しました。真のファンが存在しています。ヒップホップミュージックやストリートウエアが好きな若い世代も、バスキアのかっこよさをわかっていると思います」

バスキアがノートに書き込んだインスピレーションを、多くの人に身近に感じて欲しいという願いから、ウォルシュはレプリカの『ザ・ノートブック』を2015年にプリンストン・ユニバーシティ・プレスから出版した。「紙の風合いや触り心地が似ている素材を使い、できるだけ本物のノートブックに近づけました。値段もお手頃です。バスキアは現代のポップカルチャーの一部。彼にとってコミュニケーションツールだったノートブックは、バスキアがどんな人物だったか、何を考えていたかが感じられるような作品なのです」

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1960年、ニューヨーク・ブルックリンで生まれたバスキア。父はハイチ人で母はプエルトリコ出身。80年代のニューヨーク・ダウンタウンのアートシーンで旋風を巻き起こしたが、わずか27歳で悲劇的な死を遂げた。
© Roland Hagenberg

バスキアが後世に残した偉業は、「誰でも成功できると証明したこと」とウォルシュは言う。絵が売れる前は、公園で寝泊まりするような生活をしていたバスキア。天賦の才能と、ハングリーな精神で、20世紀を代表するアーティストになった。「バスキアの作品にはエネルギーが漂い、当時のアートシーンや瞬間を感じることができる。まるでバスキアと友人たちがそこにいるような錯覚を生み出すのです。彼のアートはタイムレスで、特別なアーティストです」とも語る。

1988年にバスキアが他界した後もずっと人々の心を魅了するのは、作品に充満するそんなエネルギーが理由に違いない。


1980年代のアートシーンに、彗星のごとく現れたジャン=ミシェル・バスキア。わずか10年の活動期間に、新たな具象表現的な要素を採り入れた2000点を超すドローイングと1000点以上の絵画作品を残した。『Yen』のように、バブル景気を迎えていた当時の日本の世相を反映したり、ひらがなを作品を取り入れたほか、たびたび来日して6回の個展と10ものグループ展を開催。こうしたバスキアと日本の多方面にわたる絆と、日本の文化や社会が及ぼした影響をひも解いていくのが、今回開催される『バスキア展 メイド・イン・ジャパン』だ。初公開のプライベートコレクションを含む約130点の作品が、六本木に集結。絵画やドローイングだけでなく、立体作品や映像作品なども展示され、さまざまな方向からバスキアの真髄に迫ることができる。

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ジャン=ミシェル・バスキア『Onion Gum』(1983年)
Acrylic and oilstick on canvas|198.1×203.2cm
Courtesy Van de Weghe Fine Art, New York Photo: Camerarts, New York Artwork © Estate of Jean-Michel Basquiat. Licensed by Artestar, New York

『バスキア展 メイド・イン・ジャパン』

会期:9月21日(土)~11月17日(日)
会場:森アーツセンターギャラリー
開館時間:10時~20時(9月25日、26日、10月21日は17時閉館) ※入場は閉館の30分前
料金:一般¥2,100
問い合わせ:03-5777-8600(ハローダイヤル)
www.basquiat.tokyo

 

 

【関連情報】
雑誌「Pen」の2019年10/1号(9月17日発売)第1特集は、「ニューヨークを揺さぶった天才画家 バスキアを見たか」。数々の傑作の解説、早くからバスキアの才能を見抜いた関係者へのインタビュー、日本で始まる『バスキア展 メイド・イン・ジャパン』の見どころなど、27歳という若さで亡くなったバスキアの魅力を多彩な角度から探る特集だ。

Pen最新号「バスキアを見たか。」の詳細はこちら

 

photos:NAOKO MAEDA, réalisation : AZUMI HASEGAWA

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