年末年始は海外ドラマ三昧。#08 【海外ドラマ】後を絶たない性犯罪への、志高き問題提起。

Culture 2019.12.08

どうして、こうも性犯罪を題材にしたドラマが多いのか? ピューリッツァー賞を受賞した記事を基にした、連続強姦事件の執念の捜査の顛末を描いた本作のあらすじを読んで、そうため息をつく人もいるかもしれない。現実的に性犯罪被害者は後を絶たず、被害報告数に対して有罪判決は極めて低い数字であることは想像に難くない。そうした現実に憤り、高い志をもって問題提起しようとする人々がハリウッドには存在する。「アンビリーバブル たった1つの真実」はその証でもあるだろう、誠実で鋭い視点を持つ秀作だ。

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『ショート・ターム』(2013年)のケイトリン・デヴァーが、性犯罪被害者のひとりであるマリーを繊細に演じる。

「アンビリーバブル たった1つの真実」(2019年)

事件は10代のマリーが性的暴行を受け、男性刑事に訴えるが、結果として作り話として扱われてしまうところから始まる。この序盤では、なぜ被害者であるのに、これほど過酷な聴取をされなければならないのかという理不尽な現実に目を向ける。何度も何度も同じ話を繰り返すことを要求され、狭い取調室で男性刑事の聴取を受けるうちに、一刻も早く家に帰りたいという気持ちで相手が望む答えを口にする。こうした心理は、誰もが容易に理解できるはず。

いっぽうで、マリーは親の虐待から逃れ保護施設で暮らしており、生い立ちによって歪んだ性格や過去の言動によって「嘘つき」のレッテルを貼られてしまう。見ているうちに、視聴者の中には彼女の態度に苛立ちを覚える人もいるだろう。だがこうした何気ない感情の中にこそ、自分でも気付いていなかった偏見があるのではないか。ふとそう思わされるものがある。

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『リトル・ミス・サンシャイン』(2006年)のトニ・コレット(右)と「ナース・ジャッキー」(09~15年)のメリット・ウェヴァー(左)が演じる、女性刑事ふたりの名コンビぶりが見もの。

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それから数年後。マリーの存在を知らずに、同じ手口のレイプ事件をそれぞれに捜査する女性刑事、カレン・デュヴァル(メリット・ウェヴァー)とグレース・ラスムッセン(トニ・コレット)が情報を共有し合同捜査することになる。このふたりの女性刑事のコントラストと、最初はぎくしゃくしながらも名コンビとなっていく過程が秀逸。10年も潜入捜査官だったという仏頂面でとっつきにくいグレースに対して、被害者に寄り添い、丁寧に辛抱強くその声に耳を傾けるカレン。コレットとウェヴァーが体現するタフさと諦めずに執念の捜査を続ける刑事の生き様は、純粋にかっこよくもある。刑事ドラマとしてもミステリーとしても優秀な作品だ。

女性か男性かといったジェンダーで何かを語れる時代じゃないし、男性=敵というわけではもちろんない。それでも被害者女性が自尊心を取り戻す助けとなるのがカレンやグレースほか、心ある女性たちであることに感動を覚えるし、勇気が湧いてくる。もっと言えば、本作に登場する女性たちはお互いにお互いを直接または間接的に力づけ高め合っている。その尊い連鎖が傷ついたマリーについに届く時、心の底から熱いものが込み上げてくるのだ。

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女優陣の好演に加えて、主要スタッフにも『エリン・ブロコビッチ』(2000年)の脚本家スザンナ・グラント、『キッズ・オールライト』(10年)のリサ・チョロデンコ監督ら女性の才能が集結。

「アンビリーバブル たった1つの真実」予告編。

「アンビリーバブル たった1つの真実」

原題/Unbelievable
クリエイター/スザンナ・グラント、マイケル・シェイボン、アイェレット・ウォルドマン
出演/トニ・コレット、メリット・ウェヴァー、ケイトリン・デヴァーほか
Netflixにて独占配信中

 

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texte:SACHIE IMA

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