年末年始は海外ドラマ三昧。#10 【海外ドラマ】アメリカ社会のいまを詰め込んだ、奇妙な学園ドラマ。

Culture 2019.12.10

「glee/グリー」(2009~15年)や「アメリカン・クライム・ストーリー」(2016年~)のヒットメイカー、ライアン・マーフィー。2018年2月にNetflixと推定3億ドルの大型契約を結んだ彼が、同社で手がける初のオリジナル作品となるのが「ザ・ポリティシャン」だ。業界内外が注目する中、ついに9月に配信され話題を呼んだが、これがなんとも奇妙な作品なのだ。

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政治と選挙がすべてのペイトンを演じるのは、アカペラ部の活躍を描く映画「ピッチ・パーフェクト」シリーズ(2012年~)でもおなじみのベン・プラット。

「ザ・ポリティシャン」(2019年)

主人公ペイトンは、7歳の頃からアメリカ大統領になることを信じて疑わない裕福な家の息子(養子)。まずは夢への最初のステップとして生徒会長選挙に打って出る。たかが高校の生徒会長じゃないかと思うかもしれないが、ペイトンは選挙に勝つためならどんな手段もいとわない。LGBTQや人種のマイノリティ、障害者、貧困といった社会問題だって、ペイトンにとっては飯の種といった感じで利用する。

そんなペイトンのためにガールフレンドのアリスは、身を挺して得票に繋げようとするあたり、もはや高校生がやることとは思えない。なんだかとっても生々しく腐敗した政治臭が漂う。そうなのだ。ポリティカル・コレクトネスを声高に叫ぶ意識高い系のライバルたちから政治にまったく関心のない生徒まで、文字とおりあらゆる意味での多様な有権者が、この学園にぎゅっと凝縮されている。つまりこれはアメリカにおける選挙のリアルを、学園内という小さな世界に落とし込んでわかりやすく可視化したものと捉えることができるだろう。

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左から、ペイトンの友人で補佐のジェームズ、ペイトンの彼女のアリス、ペイトンのアドバイザーのマカフィー。演じるのはトランスジェンダー俳優のテオ・ジャーメイン、新鋭ジュリア・シュレイファー、ミュージカル俳優で「glee/グリー」のローラ・ドレイファス。

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不正や偽善、欺瞞は日常茶飯事。嘘だってつくし、なんなら誰かの命を奪ってでも手に入れたいもの。それが権力の座なのだ。なんていうと物騒な響きもあるが、あくまでも本作はコメディの体裁をとっている。それにペイトンは根っこには善良さもあるし、志もある。同時に、どうしようもなく政治と選挙の駆け引き(だけ)が好き&得意な人間でもある。果たしてペイトンは、“ポリティシャン”という言葉が持つ自らの利益を追求する”政治屋”の卵なのか。それとも本作の作り手たちは、そもそも政治家とはそういうものだとでも言いたいのだろうか?

主演のベン・プラットはブロードウェイのミュージカル『Dear Evan Hansen』(2015年初演)でトニー賞を受賞した才能の持ち主。本作でも美声を聴かせてくれるが、「glee /グリー」を期待するほどミュージカル色はない。ジェシカ・ラングが怪演を披露すれば「アメリカン・ホラー・ストーリー」(2011~17年)を思い浮かべるが、いまのところそこまでホラーじゃない(はず)。社会派メッセージはビシバシ感じるが「アメリカン・クライム・ストーリー」とはまったく違う。トランスジェンダー俳優などが起用されているが、「POSE」(2018年~)のようにそこを前面に押し出すことはしない。海外ドラマファンからすればめちゃくちゃマーフィーっぽい!と思うと同時に、過去のどのマーフィー作品とも似ていないと感じる。いやはや、やっぱりマーフィーが仕掛けてくる新作だけあって一筋縄ではいかない。そこが実におもしろい。

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資産家でペイトンの義理の母親ジョージナを演じるのは、製作総指揮も手がけるグウィネス・パルトロウ。ゴージャスすぎるファッションにも注目!

「ザ・ポリティシャン」予告編。

「ザ・ポリティシャン」

原題/The Politician
クリエイター/イアン・ブレナン、ブラッド・ファルチャック、ライアン・マーフィー
出演/ベン・プラット、ゾーイ・ドゥイッチ、ルーシー・ボイントン、グウィネス・パルトロウ、テオ・ジャーメイン、ジュリア・シュレプファー、ローラ・ドレイファスほか
Netflixオリジナルシリーズ
Netflixにて独占配信中

 

「年末年始は海外ドラマ三昧」作品一覧はこちら

【関連記事】
2018年秋版:秋の夜長に楽しみたい、海外ドラマ10選。
2019年春版:おこもりホリデーのための、海外ドラマ・セレクション。

texte:SACHIE IMA

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