カルチャーベスト2019 MUSIC #01 心と身体をクールダウンさせてくれる、今年の名盤3枚。

Culture 2019.12.19

年末年始は心も身体もゆっくり休めながら、新しい年を迎えるためにエネルギーを蓄える時期。自宅で過ごす人も、帰省する人も、家族やパートナー、友人とヴァカンスに出かける人も、いつもより時間をかけて映画や音楽、本にじっくり浸ってみては? それぞれのジャンルのプロが、2019年に最も心に響いた名作を厳選。音楽通が選ぶ、心と身体をクールダウンする時に聴きたいのはこの3枚。

時代への皮肉を、甘美な歌声にのせて。

『ノーマン・ファッキング・ロックウェル!』
ラナ・デル・レイ

選・文:伊藤なつみ(音楽ジャーナリスト・編集者)

2012年のデビュー時から孤高の表現を貫いてきたラナ・デル・レイ。彼女は自らを「ギャングスタ界のナンシー・シナトラ」と名乗り、そのジャンルを“ハリウッド・ポップ/サッドコア”と定義。デヴィッド・リンチの作品や50年代のモノクロ映画のサントラを好み、また自ら映像を制作するほど、映像が思い浮かぶような音楽が特徴だ。

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ユニバーサル ¥2,750

本作では、ロードやセイント・ヴィンセントなどからさらなる才能を引き出すなど、グラミー賞でも脚光を浴びたジャック・アントノフをプロデューサーに迎えたことで、ラナの魅力が増殖。アメリカの国民的人気画家の名前に「ファッキング」と付加したアルバムタイトルや楽曲内容は、社会学者ジグムント・バウマンの遺作でのキーワード「レトロピア」に見事にリンクしている。現在のアメリカが抱えた病理現象に対し、痛烈な皮肉を、サイケデリックかつフォーキーなサウンドに乗せて、甘美な声で投げかけていく。美と知性にあふれた、時代を象徴する傑作。

2度目の全米1位を獲得しグラミー賞にノミネートされた『ラスト・フォー・ライフ』に続く、2年ぶりとなる6枚目のアルバム。ジャック・アントノフが共同プロデュースおよび共作者として参加。サブライムの「ドゥーイン・タイム」(1996年)のカバーも収録。

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醒めた視点が心地よい、ロンドン発の新世代ジャズ。

『ストラクチュラリズム』アルファ・ミスト

選・文:内本順一(音楽ライター)

イーストロンドンでグライムやヒップホップを当たり前に聴いてきた若者である故、ビートに対して意識的であるのは間違いないが、アルファ・ミストはジャズ、それに何より映画音楽を愛してきた。影響を受けた音楽家としてJ・ディラ、ジョン・コルトレーン、それにハンス・ジマーを挙げるくらいだ。

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インパートメント ¥2,640

よってこの作品の楽曲群は極めて映像的。しかも彼は醒めた目で……もっと言うなら闇を覗き込むみたいに都会の景色を見ているよう。その醒めた視点が心地よく、気分を落ち着かせてくれる。醒めた視点であれども非情というわけではなく、有機的でロマンティックな傾向の曲もある。陰影に富み、深い余白があって、伝えんとするものが限定的じゃない。そこがいい。都市生活者がひとりでいることに肯定的になれる音楽であり、最後の「Door」という曲でジョーダン・ラカイの歌声が聴こえてきた頃には不思議な安心感すら覚え、また同じ明日を静かに迎えようという気持ちにもなるのだ。

いま注目を集めるイースト・ロンドン出身の音楽プロデューサー/コンポーザー/鍵盤奏者、アルファ・ミストによる話題の最新アルバム。日本限定CDはボーナストラック付き。

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スペインの歌姫が紡ぐ、クールなサウンド。

『Dölma』ガブリエラ・リチャードソン

選・文:栗本斉(音楽&旅ライター)

新しい音楽に触れるきっかけというと、一昔前まではラジオやCDショップの試聴機だったのに、いまとなってはすっかりサブスクリプションの音楽サービスに移行。日々スポティファイを徘徊しているうちに見つけたのが、このガブリエラ・リチャードソンだった。日本では何の情報もなかったが、スペイン語で“夏に”という意味のタイトルを持つ「En Verano」に一発でノックアウトされた。

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ソニー・ミュージックレーベルズ 配信中

歌もサウンドもとにかくクールで、いつ聴いてもキンキンに冷房が効いた部屋でまったりしているような気分。今年の夏の間は、少しでも暑いと感じたらこの曲を何度もリピートした。その後発表されたこのEPに収録されているほかの曲もとにかく心地よいR&Bサウンドが収められていて、「Soft Beat」という曲名に象徴される甘美な感覚にずっと酔い続けている。

バルセロナ出身のアフリカ系アメリカ人アーティスト、ガブリエラ・リチャードソンによる。6曲を収録した最新EP。スペイン語と英語を自由に操りながら繊細な歌声を響かせる。

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