カルチャーベスト2019 MUSIC #02 音楽通たちが、今年いちばん衝撃を受けたアルバムは?
Culture 2019.12.20
年末年始は心も身体もゆっくり休めながら、新しい年を迎えるためにエネルギーを蓄える時期。自宅で過ごす人も、帰省する人も、家族やパートナー、友人とヴァカンスに出かける人も、いつもより時間をかけて映画や音楽、本にじっくり浸ってみては? それぞれのジャンルのプロが、2019年に最も心に響いた名作を厳選。音楽を愛する3人が、今年もっとも衝撃を受けた作品はこの3枚!
完成度が高すぎる、プリンスのデモ音源。
『オリジナルズ』プリンス
選・文:内本順一(音楽ライター)
プリンスがほかのアーティストに提供した楽曲の、プリンス自身によるオリジナル・デモ音源を集めたこのアルバムには、いくつかの意味で衝撃を受けた。まずクオリティ。これをデモ音源と呼んでいいのか?と思わずにはいられないほど、どれもあまりにも完成されていたのだ。
ワーナー ¥2,640
それからプリンスのボーカル。ケニー・ロジャースに提供した「ユーアー・マイ・ラブ」は彼にしては比較的低い声できちんとメロディをなぞりながら歌っていて、こういう歌い方をすることもあるんだ!?という意外性があったし、ザ・タイムに提供した「ジャングル・ラブ」は歌い手のモーリス・デイのキャラと声質にこんなにも寄せて歌っていたのかと驚きながらニヤけてしまった。あらためてプリンスのボーカル表現の幅に衝撃を受けた作品でもあったわけだ。さらには録音時期。ここに収録されたデモは1曲を除いてどれも81年から85年までに録音されたもの。つまり『戦慄の貴公子(Controversy)』『1999』『パープル・レイン』『アラウンド・ザ・ワールド・イン・ア・デイ』と革新的な傑作を続けて出していた時期であり、なおかつプリンスはツアーもやり、映画も撮りながら、これだけの提供曲も作っていたのだ。天才と言うしかない。
プリンスが自身の目覚ましい活動の傍ら、若きアーティストたちのために提供した楽曲の、プリンス本人によるオリジナルデモ音源集。15曲中14曲が未発表トラック。
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中国語で歌い上げる、ジャジーなネオ・ソウル。
『平庸之上 Beyond Mediocrity』9m88
選・文:栗本斉(音楽&旅ライター)
数年前に竹内まりや「Plastic Love」のカバーをYouTubeで発表して話題だったのは知っていた。しかし、そもそも何と読むかもわからないアーティスト名もあって色モノだと思い込んでおり、このアルバムを聴いた瞬間に大いに反省。クオリティの高いジャジーなネオ・ソウルに仕上がっていて本当に驚いた。
Pヴァイン ¥2,640
台湾出身、ニューヨークの大学で学んだということもあって、中国語をソウルフルなグルーヴに乗せることに成功しているのが衝撃的。台湾はおしゃれな音楽が急激に増えているが、その急先鋒と言ってもいいだろう。全体的に90年代のアシッド・ジャズやヒップホップ・ソウルなどを思わせる音作りだが、逆にそこがとても新鮮。昨年にはすでに来日公演を実現させ、今年はサマーソニックにも出演していたほどの実力なのに、まったくノーチェックだったことに、これまた大いに反省した。
2019年にはサマーソニックにも出演、注目を集めた台湾出身アーティスト9m88(ジョウエムバーバー)の待望の日本デビュー盤。
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“伝説”として語り継がれるライブを収録。
『ホームカミング』ビヨンセ
選・文:伊藤なつみ(音楽ジャーナリスト・編集者)
“Beychella”とまで呼ばれた、ビヨンセがHBCU(*)に敬意を表し、マーチングバンドなど率いて展開した2018年のコーチェラ・フェスティバルでの壮大なパフォーマンス。その時の模様はネットフリックス配信ドキュメンタリー映画『HOMECOMING ビヨンセ・ライブ作品』という形で記録され、今年公開されたが、これはそのライブ音源として発表されたものだ。
ソニー・ミュージックレーベルズ 配信中
大規模な野外ステージでの迫力に満ちたパフォーマスと熱狂を体感できるうえに、2013年のフェミニスト宣言、16年の「スーパーボウル」におけるブラックパンサー党トリビュートに続き、これまでの歴史を背負い、新たな黒人女性像を構築し時代を牽引していこうとする、すなわちアクティビスト宣言をしたといっても過言ではないアルバムになっていることに圧倒される。夫婦愛・同志愛で繋がる夫ジェイ・Zとの共演や、シスターフッドの象徴として旋風を巻き起こしたデスティニーズ・チャイルドとしてのヒット曲も収録。衝撃を受けた1枚であり、エンパワーメントに注力するビヨンセから最強の刺激をもらえる。
*HBCU:Historically Black Colleges & Universitiesの略で、「歴史的黒人大学」の意味。歴史的に差別と抑圧の対象となっていた黒人に、高等教育の機会を与えるために作られた大学群。
2018年のコーチェラでのビヨンセの伝説のライブ音源を40曲収録。ジェイ・ZやJ.バルヴィン、デスティニーズ・チャイルドのメンバーも参加。