カルチャーベスト2019 MOVIES #01 映画通が選ぶ、今年いちばん幸せに包み込まれた3本。

Culture 2019.12.22

年末年始は心も身体もゆっくり休めながら、新しい年を迎えるためにエネルギーを蓄える時期。自宅で過ごす人も、帰省する人も、家族やパートナー、友人とヴァカンスに出かける人も、いつもより時間をかけて映画や音楽、本にじっくり浸ってみては? それぞれのジャンルのプロが、2019年に最も心に響いた名作を厳選。映画通3人が、今年いちばん幸せに包み込まれた作品を教えます。

別世界に住むふたりが、同志になっていく。

『グリーンブック』

選・文:立田敦子(映画ジャーナリスト)

クラブの用心棒をしているイタリア系白人のニューヨーカー、トニーと裕福な黒人の天才ピアニスト、ドクター・シャーリー。まったく別の世界に住むふたりが、出会い、まさかの友情を育む。物語の核となっているのは“気付き”だ。

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天才ピアニスト、シャーリー(マハーシャラ・アリ・左)と彼の運転手を務めることになるトニー(ヴィゴ・モーテンセン・右)。

教養はなく粗野だが、ハートの温かいトニーは、シャーリーというひとりの人間と知り合うことで、黒人への偏見を払拭し、人種差別の無意味さと酷さを痛感していく。家族と縁遠いシャーリーは、トニーの家族への愛情深さに触れ、人の温かさや人生の豊かさに目覚める。差別意識や恐れは、相手を知らないことから起こる拒否反応のようなもの。人種差別が根強く残る1960年代の南部を一緒に旅することによって、ふたりはある意味、闘う同志のようになったのだろう。奇跡のような実話は、観終わった後に温かな幸福感に包まれる。マハーシャラ・アリのノーブルさ、ヴィゴ・モーテンセンの人間味。ふたりの実力派俳優の見事な演技も必見。

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ふたりは「グリーンブック」(黒人用旅行ガイド)を頼りに、差別が色濃く残るアメリカ南部での演奏ツアーに出発する。

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『グリーンブック』

舞台は1960年代のアメリカ。ガサツで無教養な白人用心棒トニーが、孤高の天才黒人ピアニストのシャーリーと、差別が色濃く残る南部を目指してツアーする。正反対のふたりは衝突を繰り返しながら、次第にお互いを認め合っていく。第91回アカデミー賞で作品賞、助演男優賞、脚本賞の3冠を獲得。


●監督/ピーター・ファレリー
●出演/ヴィゴ・モーテンセン、マハーシャラ・アリほか
●2018年、アメリカ映画
●本編130分
●DVD¥4,180、Blu-ray¥5,280
発売・販売:ギャガ
© 2019 UNIVERSAL STUDIOS AND STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

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ティーンエイジャーの知的冒険がもたらすワクワク感。

『ワイルドツアー』

選・文:金原由佳(映画ジャーナリスト)

この作品は三宅唱監督が山口情報芸術センター(YCAM)のアーティスト・イン・レジデンスで山口に滞在中、映画プロジェクト「YCAM Film Factory」に参加した、演技経験のない中高生たちと作ったもの。YCAMが実施している、地元の植物のDNAを解析し植物図鑑を作るワークショップに参加する中学生の恋愛風景を瑞々しく撮影したものだ。

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「山口のDNA図鑑」というワークショップにファシリテーターとして参加している大学1年生のウメ(右)は、中学3年生のタケ(中)とシュン(左)を連れ、自分たちが暮らす街のさまざまな場所に生える植物を調べていく。

日本映画が地方を描く時、陳腐なまでに都会と比べて“何もない”が描かれる中、今作の中高生はスマートフォンを片手に冬の野に繰り出し、興味のまま、荒れ地を分け入り、見知らぬ植物を採集し、映像で記録し、そのDNAを調べ、データ化していく。そこには圧倒的に豊かな自然があり、生態系がある。子どもの頃から見慣れていた風景が、カメラを通して見つめ直すことで一変するワクワク感が記録され、そういう能動的で知的な冒険を三宅監督はタイトルにあるとおり、“WILD TOUR”と名付ける。ティーンエイジャーの持つまばゆいばかりの万能感と初々しい初恋の模様に身悶えして、この一年ずっとこの作品に励まされた!

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「ぜひ彼らと『発見のよろこび』を共有してほしい」と三宅監督は語っている。

『ワイルドツアー』

山口情報芸術センターの研究開発チーム、YCAMインターラボと三宅唱監督が協働し、約8カ月の滞在制作を経て完成した青春映画。出演する中高生たちが監督とともに脚本や演出を考えながら撮影した、彼ら自身の成長の記録でもある。現在DVD化準備中。


●監督/三宅唱
●出演/伊藤帆乃花、安光隆太郎、栗林大輔ほか
●2018年、日本映画
●67分
©Yamaguchi Center for Arts and Media [YCAM]

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心を洗い清める現代の聖人を、瑞々しい映像で描く。

『幸福なラザロ』

選・文:久保玲子(映画ジャーナリスト)

切り立った崖で隔てられた陸の孤島、前時代的な農業を営む集落。太陽に灼かれた村民たちの顔つき、老人たちに刻まれた皺。粒子の荒い、陰影の中に浮かび上がる人々と風景がヨーロピアン・ビスタサイズのスクリーンに浮かび上がる時、パゾリーニ、ネオリアリズモ時代のフェリーニやヴィスコンティら、イタリア映画の黄金期の映画に再び出会えたような至福に包まれて陶然となった。

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スーパー16mmフィルムで撮影された映像の美しさにも注目。

しかし次第に、この村の農民たちは誰も外の世界を知らないまま、公爵夫人の小作人として中世さながらの生活を強いられていることがわかってくる。実在の事件に衝撃を受けた注目のアリーチェ・ロルヴァケル監督が聖人ラザロを現代に蘇らせたファンタジー。経済に翻弄され文化や歴史を失っていく世界を憂い、瑞々しい幻想的な映像でもって人間本来の生きる目的を見つめさせ、汚れ疲れた心を洗い清めようとする心美しき女性監督の祈りが聞こえてくるよう。

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ラザロを演じたアドリアーノ・タルディオーロ(左)は本作で俳優デビュー。イタリア映画界を代表する女優のひとりであり監督の実の姉、アルバ・ロルヴァケル(右)も出演。

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『幸福なラザロ』

イタリアの小さな村で、小作制度の廃止を知らされずタダ働きする、純朴な青年ラザロ。搾取の実態を知った村人たちは出て行くが、ラザロにある事件が起き……。第71回カンヌ国際映画祭脚本賞ほか数々の賞に輝いた、若き才能アリーチェ・ロルヴァケル監督の最新作。


●監督・脚本/アリーチェ・ロルヴァケル
●出演/アドリアーノ・タルディオーロ、アニェーゼ・グラツィアーニ、アルバ・ロルヴァケルほか
●2018年、イタリア映画
●本編127分
●DVD¥4,290
発売:キノフィルムズ/木下グループ
販売:ハピネット
©2018 tempesta srl ・ Amka Films Productions・ Ad Vitam Production ・ KNM ・ Pola Pandora RSI ・ Radiotelevisione svizzera・ Arte France Cinema ・ ZDF/ARTE

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