Things to Do! 2020 鮮烈な映画&読書体験を通して、世間が決めた枠について考える。

Culture 2020.02.10

「こうあるべき」と世の中で言われていることって本当にそうですか? 自身の心とカラダで感じ考えることの意義を、いまこそ見つめ直したい。


2019年は「あいちトリエンナーレ」「KAWASAKIしんゆり映画祭」での『主戦場』上映中止など表現の自由の危機が叫ばれ、監督の是枝裕和、白石和彌らも抗議の声を挙げた。その白石と現代日本を痛烈に風刺した『麻雀放浪記2020』でタッグを組んだ齊藤工もまた表現者として、忖度ずくめの映画映像界の現状に喝を入れるべく、共鳴する監督たちと『COMPLY+−ANCE コンプライアンス』を発表。世に出回る活字や映像が、いかに誰得かわからぬ忖度に支配されているかをストレートに描くことで、差し出される情報を漫然と受け止めるのでなく、自分の目で耳で確かめることの重要さを訴える。

ロサンゼルス在住の新進女性監督HIKARIが、ベルリン国際映画祭パノラマ部門の観客賞と国際アートシネマ連盟賞をダブル受賞した『37セカンズ』は、オーディションに現れた女性との出会いによって大きく羽ばたいた。当初、下半身不随の女性の恋物語と性をメインテーマにしていたが、監督自身が主演女優・佳山明の声とパーソナリティに魅せられ、彼女自身の生い立ちを取り入れて、新たなステージへと踏み出す成長物語へと舵を切った。そんな映画は観客にも、既成概念の枠を踏み越え、対象と向き合う素晴らしさを促してくれる。

さらに固定観念からの偏見と衝撃的なぶつかり合いを綴って一気に読ませるのが、開高健ノンフィクション賞を受賞したルポルタージュ『聖なるズー』。自らを“ズー”と呼ぶドイツの動物性愛者(ズーファイル)たちを探し当て、動物と対等に生きる人々の声を丹念に聞き取ってゆく。考察の過程は、パートナーから性的なものを含むDVに長年苦しめられた著者、濱野ちひろ自身のトラウマとの対峙の記録ともなり、胸に響く。著者の言葉を借りれば、まさに「世界を覆う常識の膜に穴を穿つ」読書体験を約束する。

---fadeinpager---

“障がい者”からひとりの女性のドラマへ。

『37セカンズ』

2002xx-ttd-53-03.jpg

少女漫画家のゴーストライター、ユマは下肢が不自由。自作を世に発表しようとアダルト漫画編集部に持ち込むが、経験なく描いたエロじゃつまらないと言われてしまう。悩んだユマは出会いを求めてマッチングサービスを利用し……。LAで映画を学んだ監督HIKARIがヒロインと周囲の成長を描く。大東駿介、渡辺真起子、板谷由夏らがヒロインの魅力を支える。

『37セカンズ』
監督・脚本/HIKARI
出演/佳山明、神野三鈴、大東駿介、渡辺真起子ほか
2019年、日本映画 115分 
配給/エレファントハウス、ラビットハウス
新宿ピカデリーほか全国にて公開中
http://37seconds.jp

---fadeinpager---

そんな忖度って、必要でしょうか?

『COMPLY+−ANCE コンプライアンス』

2002xx-ttd-53-01-2.jpg

新進女優が番組用のインタビューを受けるが、コンプライアンス遵守と称し、女優(『カメラを止めるな!』の秋山ゆずき)に逐一コメントの言い換えを求められ……。俳優、監督、写真家とマルチな活躍を見せる齊藤工が企画、原案、撮影、脚本、監督を兼任しながら、総監督としてコンプライアンス問題に切り込む。その他、ゲスト監督に鬼才・岩切一空、飯塚貴士。

『COMPLY+−ANCE コンプライアンス』
監督・企画・原案・共同脚本・撮影/齊藤工
出演/秋山ゆずき、平子祐希、大水洋介ほか
2019年、日本映画 70分
配給/SPOTTED PRODUCTIONS
2月21日より、アップリンク吉祥寺&渋谷ほか全国にて順次公開
https://complyance.tokyo

---fadeinpager---

動物性愛と向き合うノンフィクション。

『聖なるズー』

2002xx-ttd-53-03-2.jpg

濱野ちひろ著 ¥1,760 集英社刊

どうしても “獣姦”という忌まわしいイメージがつきまとう動物性愛について、動物を人間と対等に位置付け、パートナーとして生きる道を選んだ動物性愛者(ズーファイル)たちを丹念に取材した驚くべきノンフィクション。冒頭で著者を取材に向かわせた過去のトラウマを告白し、その対峙の姿勢もスリリングだ。

madame-figaro-japon-cover-350-20200120.jpg

Things to Do! 2020
世界はしてみたいコトであふれている。

いよいよ2020年。新しい年にやってみたいこと、目を向けてみたいことがたくさんある。トレンドがガラリと変わるファッションとメイク、新しい旅先や
おいしいレストランの発掘、部屋の模様替え、これから出合う本や映画……2020年という年を楽しみながら、好奇心のままに、まだ見ぬ世界への冒険へと繰り出そう。

 

『フィガロジャポン』2020年3月号より抜粋
Amazon

※この記事に記載している価格は、標準税率10%の税込価格です。

【関連記事】
カンヌで絶賛された監督が描く、人間味ある北欧の妖精。
インタビュー|世界の映画祭で注目される、河瀨直美監督作をいま一度。
「齊藤工 活動寫眞館」について

texte : REIKO KUBO

Share:
  • Twitter
  • Facebook
  • Pinterest

フィガロワインクラブ
Business with Attitude
キーワード別、2024年春夏ストリートスナップまとめ。
連載-パリジェンヌファイル

BRAND SPECIAL

Ranking

Find More Stories