川邊りえこが指南、日本文化入門。前編

心を伝える、筆で書く文字の力。

特集

書のお稽古を中心に、日本文化を伝えるサロン「日本雅藝倶楽部(にほんみやびごとくらぶ)」を主宰する川邊(かわべ)りえこさん。長い年月をかけて確立してきた作法やしきたりが形骸化し、その意味を忘れかけている日本人も多いなか、川邊さんのサロンでは社会の第一線で活躍する人々が和の心を学んでいる。今回はフィガロ読者のために、身近な熨斗(のし)袋の書き方と選び方を川邊さんに指南していただいた。


熨斗袋の表書きを自分の字でしたためてみる。自分らしさを大切に、心を込めて。

冠婚葬祭や日常のちょっとしたお金のやり取りなど、TPOに応じて熨斗袋を使い分けるのはもちろんのこと、表書きだけでも筆を使い、自信を持って自分の字で書けるようにしておくと、相手に心が伝わる、と川邊さんは言う。

「まずは表書きの意味を簡単におさらいしましょう。結婚祝いなどの祝儀袋に使う『寿』は豊穣を祈る文字で、転じて命が長いこと、命そのものを表すようになりました。『ことほぎ』を語源とし、祝福を意味しますが、幸福を招き入れるという想いも込められています。一文字で存在感を表すようにバランスを心がけて書きましょう」

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「筆で書いた文字には、印刷の文字とは違う個性や趣きが伝わることがあります」と川邊さん。

次にご祝儀によく使われるのが「御祝」「祝」だ。

「いわうの『い』は不吉なものを避けて吉事を招くことを表します。かつては『祈る』『祭る』『あがめる』の意味も持っていました。多くの場面で使われるものなので、ぜひ練習してみてください」

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川邊さんが考案した書道具「雅藝文房十實」。硯、筆、水差し、筆置きなど好みの色や形をコーディネートできる。

特別な場面でなくともぜひ活用したいのが、心づけ。西洋でいうチップに当たるものだが、かつては家庭に出入りする手伝いの方や職人さん、旅館や料亭などで感謝の気持ちを表すものとして日常的に使われてきた。

「心づけやお年玉などを贈る時にも、文字が印刷された袋ではなく、心を込めて自分の字で書き添えることで気持ちが伝わります。相手の年齢や袋の意匠に合わせて文字のデザインや趣きを変えてみましょう。立て替えていただいたチケット代は『御立替 御礼』、『会費』や『お見舞い』なども一筆添えて渡すことで、印象はぐっと変わります。

お返しに用いるときは『寸志』(目上から目下へ)、『松の葉』(目下から目上へ)などの表現があり、いずれも『ほんのわずかな気持ち』を込めたもので、現代なら『心ばかり』がカジュアルな表現としてよく用いられます」

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熨斗袋は紙質やスペースなど制約があるため、安価なもので実際に練習するとよい。バランスをとりながら、文字の中心を意識して。

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上手な文字より、自分らしい文字を心がけて。

金封の文字は縦書きが基本。改まって筆をとる機会は少なくなっているが、題目と自分の名前だけは練習しておくといい。

「筆や筆ペンで書くことに慣れていなくても、まず自分の名前をバランスよく書くことを身に付けてください。日常生活で最も書く機会が多いのが自分の名前です。自分の名前さえ美しく書ければ熨斗袋はもちろんのこと、芳名帳などのサインにも自信が持てます」

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姿勢を正し、しなやかな筆で柔らかな和紙に文字をしたためる……そこから日本人としての佇まいが生まれる。

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筆を持つのは小学校の書道以来の編集者が書いた練習の一例。ぎこちない文字が、川邊さんの一言アドバイスで2回目(右)は見違えるような仕上がりに。

原則は楷書だが、自分の個性を生かした行書は、文字が苦手な人でも達筆に見せることができ、自分らしさを表現できる、と川邊さん。「お手本はあくまで参考程度で、まずは自分らしい文字で書くことを心がけてください。自分の字を生かしながら書きやすい形にくずし、個性的な文字にしてみましょう。正式なものが必要な場合は、百貨店や文具専門店で熨斗袋を購入すると、表書きを書いてもらえるので、まずは心づけから挑戦してみるのもおすすめです」

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多くの言葉を尽くした手紙や、絵文字や略語を駆使したメールでは伝えられない想いがある。筆で書くたった一語がその想いを代弁してくれるとしたら……。自分の美意識に従って、まずは書くことから始めてみたい。

〈川邊りえこさんおすすめの店〉

贈答のマナーも相談できる、頼れる老舗。

江戸時代から続く鳩居堂は、お香や画用品、はがき、便箋、金封、ポチ袋など、和の道具や小物を揃える老舗。金封の種類も豊富で、婚礼用からデザイン性に富んだ水引を使った商品まで、用途に応じて取り揃えているほか、水引の意味や地域によっての使い分けなども教えてくれる。「従業員の方の知識が素晴らしく、わからないことを質問すると丁寧に教えてくださいます」と川邊さん。


東京鳩居堂 銀座本店
Tokyo Kyukyodo Ginza Honten

東京都中央区銀座5-7-4
tel:03-3571-4429
営)11時~19時
休)1/1~1/3、ほか不定休あり ※直近では4/6が休日
www.kyukyodo.co.jp

川邊りえこ Rieko Kawabe
書道家、美術家。日本文化を伝える啓蒙活動として1995年より会員制の「日本雅藝倶楽部」を東京と京都で主宰。98年からは日本の職人によるものづくり、日本の素材を提案する「にっぽんや工房」を運営。2018年には社団法人雅藝日本文化協会を設立し、日本の美とこころの深層を探求し、その魅力を世界へ伝えるための活動をスタートさせた。著書に『雅藝草子』『ことたまのかたち』『熨斗袋』(すべて工作舎)がある。
*日本雅藝倶楽部では、非会員向けコースとして1時間の書道体験を開催している。熨斗袋や芳名帳に自分の名前を書くためのレッスンで、個性に合わせたサイン作りを指導してもらえる。
www.miyabigoto.com/information.html

>>後編はこちら。

【関連記事】
いま、大人が和菓子に恋するということ。
〈Things to Do! 2020〉展覧会で和を愛でる。
「フィガロジャポン」2017年2月号「和っていいな。」

photos, direction vidéo et montage : AYA KAWACHI, réalisation : JUNKO KUBODERA

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