Netflixの履歴でわかる、あなたの心理。

Culture 2020.05.14

外出制限の影響で動画配信サイト、「Netflix(ネットフリックス)」の会員数が急増中。まるで長年連れ添った夫婦のように、他人の預かり知らない視聴者の好みを知り尽くしている。ネットフリックスの間には他人の預かり知らない習慣が定着している。哲学学者と精神分析家が利用者の習性を分析する。

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哲学教授と心理学者兼精神分析家が動画ストリーミングサイト利用者の習性を徹底分析する。photo : iStock

世界中で外出制限や外出自粛が続くなか、多くの人が気晴らしに動画配信サービスを利用している。最大手であるネットフリックスは、2013年のフランス進出以来、私たちの生活を大きく変えた。いかがわしい広告をやりすごしながら60秒間待って、(ようやく)「セックス・アンド・ザ・シティ」の続きをネットで鑑賞していた時代は遠い昔。M6局『La Trilogie du samedi(土曜日のトリロジー)』のお気に入り番組を録画し忘れてビデオデッキに悪態をついたことも、もはや記憶の彼方だ。

昔は良かった、というのは必ずしも正しいとは限らない。いまは日曜やバカンス中だけでなく、家で過ごす普段の夜も、いつでもネットに接続して、"ネットフリックス・アンド・チル”が楽しめる時代だ。ただしリモコン(あるいはメニュー)の使い方は人それぞれ。そこで、ネットフリックスのありがちな利用の仕方をタイプ別にまとめてみた。哲学学者で『Nos vies en séries(人生は連続ドラマのようなもの)』の著者であるサンドラ・ロジエと、心理学者で精神分析家、『Et si les écrans nous soignaient ?(スクリーンが私たち癒していたとしたら?)』の著者ミカエル・ストラとともに、私たち利用者の心理を読み解いてみよう。

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実は恋愛ドラマが大好き。

恋愛ドラマはアイスクリーム並みの人気だ。ネットフリックスでは『ノッティングヒルの恋人』や『プリティ・ウーマン』といった名作恋愛映画も配信されているが、オリジナル恋愛ドラマも続々と登場している。王子さまに恋するジャーナリスト、外見は魅力的だがいけ好かない起業家と仕事をするビジネスウーマン……お決まりのシナリオでも視聴率は高い。「ロマンティックでセクシュアルな恋愛ドラマは、ハーレクイン小説代わりです」と哲学学者のロジエは分析する。とっくの昔に高校を卒業している視聴者が、中高を舞台にしたロマコメにまで熱中する。「思春期の世界や初恋へのノスタルジーは永遠です」と心理学者のストラは語る。

だがネットフリックスが革新的なのは、性差や性的指向、また人種や身体に関わる規範に縛られることなく、複数のアプローチで恋愛を描いている点だ。「視聴者が身近だと感じるような筋書きで、どんな人でも感情移入できるように配慮されています。太り気味の男子やのっぽの女子など、登場人物のタイプもさまざまです」とロジエは語る。現代性とシンプルなシナリオ、その絶妙の配合が「癒し」、さらには「抗うつ」効果をもたらしているとストラは分析する。「『ブラック・ミラー』のような、自分たちが生きる社会の闇に目を向けさせるディストピア系のドラマシリーズも人気がありますが、視聴者は気楽に見られるものも求めているのです」

何を選んだらいいかわからない。

ドラマ『ウィッチャー』の最新シーズン、映画『マリッジ・ストーリー』……。毎月、おびただしい数の新しいコンテンツが「新作」欄に登場し、観たい作品のリストはどんどん長くなるばかり。「選択肢が多すぎると、かえって何も選べなくなる」とストラは言う。ネットフリックスでの動画視聴はスーパーでの買い物と共通点がある、と彼は分析する。「何時間もかけてレシピを探し、アドバイスを求め、調べ上げてから買い物に行く人もいれば、スーパーの売り場で適当に目に付いたものを買う人もいます。後者の場合は消費行動に意欲が伴っていませんから、買ったものが気に入らないことは大いにあり得ます」

ロジエによると、このタイプの視聴者は「自分の心地いい場所から一歩も出ないで済む」ネットフリックスのレコメンド機能に頼るのではなく、むしろいままで見たことのないものを選ぶようにするといいと指摘する。「夢中になれるドラマは、それまで自分の頭に描いていたジャンルでないことが多いものです」

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ぬいぐるみを抱き締める代わりに、ドラマや映画を見る。

ときには、この作品は絶対に期待を裏切らないと確信を持ってクリックすることもある。なぜかというと、細かいシーンまで覚えているくらい何度も見た作品だから。ネットフリックスのラインナップには、『ジュラシック・パーク』『フォレスト・ガンプ』『ジュマンジ』といった1990年代の名作映画も並んでいる。こうした映画を飽きずに繰り返し見るのは、子どもにとってのぬいぐるみと同じような作用があるからだとストラは言う。「こうした作品を見ると、通常、子どもの頃に家族と一緒に見た記憶が呼び覚まされます。プルーストのマドレーヌのような慰めの機能があるのです」と、ストラは指摘する。

どうやらTVシリーズに対する思い入れは、ぬいぐるみへの愛着より強いようだ。その例としてロジエが例に挙げるのは、6人のニューヨーカーが繰り広げる波乱万丈の友情物語を描いたコメディドラマ「フレンズ」。視聴者は問題だらけの恋愛模様を自分のことのように悩んだり、神経質な態度や軽率な振る舞いに苛立ったりしながらも、結局は長所も短所もひっくるめて登場人物を愛してしまう。「これも私たちの人生を豊かにしてくれる共同の探求の一形態です。視聴者は登場人物のことで気を揉み、登場人物もある意味で私たち視聴者のケアをしているわけです」とロジエは語る。フィクションの世界から離れて、ドラマのファン同士の間で繋がりができることで、こうした帰属意識がさらに強化されることは言うまでもない。

“シリアルキラー”系に魅かれる。

ドラマシリーズ「YOU ―君がすべて―」は、若い女性につきまとう男の子が、彼女を守るという口実で人殺しまで犯してしまう話だ。「ロマンティック」だと思ってしまったあなたも安心してほしい。サイコパスに魅かれるからといって、あなたが悪人というわけではない。それどころか、ここから人間の本性についてのちょっとした教訓を導き出すことができる。「こうしたドラマで扱われているのは、歪んだ倫理観の持ち主でありながら、いっぽうで豊かで複雑な心を持った、両面性のある人物です」とロジエは分析する。「倒錯的な人物が魅力的なのは、私たちが規則という圧力のせいで越えることのできない一線を、彼らが越えて行くからです」とストラは付け加える。

視聴者の興味を掻き立てるのは刑事ドラマだけではない。1989年に、誘拐、強姦、殺人などの罪で電気椅子による死刑が執行されたアメリカ人テッド・バンディや、グレゴリー事件に代表される幼児誘拐事件のような、有名な犯罪を主題にしたドキュメンタリーも数え切れないほどある。「のぞき見願望はいまに始まったものではありません」とストラは言う。「子どもの頃に、両親の寝室の秘密を暴きたいと思ったことがあるように、大人になると、事件の内幕を知りたい気持ちとなって現れます」。また、テロ事件が頻発する不安な社会状況がこの好奇心をさらに強化している。「人間には情報を知る欲求があります」とロジエは指摘する。「犯罪ドキュメンタリーを見て、万が一に備えているという人もいます」

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ドラマシリーズを一気に見る。

「ストレンジャー・シングス」シーズン3の配信が始まった日、友人や母親からの電話に一切出ず、週末の間ずっと、嫌というほどビンジウォッチング(イッキ見)を楽しんだあなた。「これは心地いい幻覚体験です。ひとつの世界に引き込まれているのですから」とロジエも認める。ただ実を言えば、「次のエピソード」ボタンを押すのが億劫でも、自動的に続きを再生してくれるネットフリックスの仕掛けが、ビンジウォッチングを助長しているのも確か。「視聴者は過剰さに陶酔するわけですが、ネットフリックスのおかげで、罪悪感もフラストレーションも感じないで済んでいるのです」とストラは指摘する。ストラによると、依存症というより、この場合は過剰行動と呼ぶのが適切だという。イッキ見を続けているとどうなるのか? 期待したほどおもしろくもないし、結局これといったものが得られるわけではない……。ふたりの専門家はむしろ、ひとつかふたつエピソードを見たら、次までに少し時間を置いて、きちんと考えることをすすめる。「続きを見るかどうかではなく、やめる決心をするためです」とロジエは言う。

パートナーがいない時に、ひとりで先に続きを見てしまう。

この数年の間にカップルの生活の中にも入り込んだネットフリックス。いまや、ストリーミングは二人一緒の楽しみになった。「ドラマを一緒に見ることで、ある意味、過去を共有したことになります」とロジエは説明する。ただ、パートナーが忙しい時、待ち切れずについ先にドラマの続きを観てしまうことも。これは“ネットフリックス・チーティング”と呼ばれ、ネットフリックスが17年に実施した調査によると、フランス人利用者の45%が1度はこの究極の罪を犯したことがあるという。

究極は言い過ぎだが、"不誠実”ではあるとストラは言う。「浮気願望の表れとはいいませんが、ちょっとした裏切りではありますから、パートナーが傷ついても無理はありません。あなたとすべてを共有する気はない、と相手に告げるようなものです」。家庭の平和のためには、たとえ先にひとりで見てしまっても内緒にし、エピソードを二度楽しむのがおすすめだ。

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texte : Tiphaine Honnet (madame.lefigaro.fr)

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