フェミニズムについて、あらためて知りたい。柚木麻子に聞く6冊。【いま知りたいことを、本の中に見つける vol.10】
Culture 2025.09.03
知りたい、深めたい、共感したい──私たちのそんな欲求にこたえる本を26テーマ別に紹介。各テーマの選者を手がけた賢者の言葉から、世界が変わって見えてくる贅沢な読書体験へ!
vol.10は「フェミニズムについて、あらためて知りたい」をテーマに、作家・柚木麻子が選んだ6冊を紹介。フェミニズムを学ぶ前と後では読了後の感じ方が違う? あの頃読んでいた本もあらためて読むとフェミニズムだったのかもしれない。
選者:柚木麻子(作家)
フェミニズムについて、あらためて知りたい。
「あ、あの本フェミニズムだったかもしれない...!」そう思うことが、年々増えてきている。小学生の頃、夢中になって読み漁ってきた、図書館のアメリカの少女小説シリーズだったり、2000年代には存在した、元気いっぱいな恋に仕事に奮闘するヒロインの翻訳小説を主に出しているレーベルの文庫だったり。その時は飲み干すように読んで、自らの養分としてきたそれらが、フェミニズムを学んだ四十代になってページをめくると感じ方が違ってくる。今回はそんな夢中で読んだ後で、抵抗する力がむくむく湧いてくる6冊を!
シャツ¥90,200、ショーツ¥74,800/ともにエス エス デイリー(ドーバー ストリート マーケット ギンザ)
1. 『ふたり暮らしの「女性」史』
伊藤春奈著 講談社刊 ¥1,980
著者は、女性ふたりで暮らした様々な人物の足跡を、その息遣いや生活のリズムまで、丁寧にたどりながら、この国がいかに家族単位で人間を区切り、押さえつけてきたかを、つまびらかにしていく。その視点に、一切の「こうあってほしい」という決めつけがなく、女性たちの戦争協力や家父長制度から逃れられない面も、切り捨てず美化せず、それでいて敬意をもって描く視点に、ただただ胸打たれる。
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2. 『ヴィレット』
シャーロット・ブロンテ著 青山誠子訳 白水Uブックス 上下巻各¥2,200
ジブリであれ朝ドラであれ、女性がたった一人で知らない街にやってきて、自分の得意不得意を見極め、知恵やコミュニケーションを駆使して、住む場所と暮らしを整えていく描写が大好物。天涯孤独のルーシーの物語は、ある意味『ジェーン・エア』よりその面白さがギュッと詰まっている。ルーシーが初めてロンドンを一人で自由に歩き回りながら、生きる喜びがどんどん高まっていく箇所は、何度読んでも飽きることがない。
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3. 『おんな二代の記』
山川菊栄著 岩波文庫 ¥1,188
明治大正昭和初期の日本女性史を調べるようになると、教育関係であれ権利運動であれ高確率で登場する山川菊栄。しかも本人の論文も他人の目に映る彼女もほぼ印象が変わらないという稀有なキャラクター。ちなみに、今調べてる50年代の保育運動でも、まだ保育園が日本に根付いていない時代に、現代を予見するような鋭い発言をしていて驚く。本書はそんな菊栄とその母、青山千世の二代にわたる自叙伝。菊栄が母を見つめる眼差しが、家族というより同志に向けるそれで、すこぶる楽しげなのが良い。
4. 『別の人』
カン・ファギル著 小山内園子訳 エトセトラブックス刊 ¥2,420
この作品に登場する性暴力の被害者たちは、必ずしも助け合えないし、理想的な連帯はできない。それぞれ後ろめたさも弱さもある。ただ、聞こえてくるたくさんの「声」が、読者自身に、被害者にとって告発しにくい社会を作ってはいないか? むしろ加害者側の意識を内面化していないか?と問いかけてくる。性暴力被害者にばかり誹謗中傷および過度な期待が集まる今こそ、読みたい。
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5. 『PARIS The Memoir』
パリス・ヒルトン著 村井理子訳 太田出版刊 ¥2,970
2000年代は「お騒がせセレブ」としてゴシップ誌の常連だったパリスが、今の価値観だと、完全に性被害者でミソジニーに染まったメディアの犠牲者だとわかる自伝。当時は理解がすすんでいなかったADHD当事者としての苦悩も。パーティー三昧の日々で出会った、不仲を騒がれた女友達やノリで出演したコメディ映画について、なに一つ否定しないし、恥じることもないパリスの寛容さに感服。
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6. 『焼き芋とドーナツ
日米シスターフッド交流秘史』
湯澤規子著 KADOKAWA刊 ¥2,420
産業革命をささえた女工の物語というと、男性識者による悲劇のみのイメージが横行するが、著者は、都市で自活の道を得た女性たちが、何を買い、何を選んだかという点に注目し、歴史からこぼれおちた女たちの時間を国を超えて星座のように結んでいく。タイトルにもなっている女性労働者たちの愛したおやつは、いまなお権威的視点からは冷笑されがちだが、文化と連帯をつかさどってきた重要なキーワードだと学ばされる。
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2008年、「フォーゲットミー、ノットブルー」でオール讀物新人賞を受賞し、10年に同作を含む『終点のあの子』(文春文庫)でデビュー。最新作は『あいにくあんたのためじゃない』(新潮社刊)。
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*「フィガロジャポン」2025年9月号より抜粋
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