Things to Do! 2020 "心地よくない"音楽に魅せられて。

Culture 2020.05.15

私たちを勇気づけるのは、心地いいリズムや言葉だけではない。いま現代人の魂に響く音楽とは。

まずは耳に心地いい音楽、というものの定義を位置づけよう。たとえばそれは、リラックスした状態でリズムに身を任せ、その耳がノイズと感じる範疇から遠距離にある軽やかな和声や主旋律、ソングライターのメッセージ性をある種の糖衣でコーディングした普遍的とされる歌詞が、立ち止まることなく通りすぎていくようなものだとする。では、世界的に分断が進み、冷笑と虚無感が市井の空気にはびこっているいま、時代の実像を映し出し、時代に求められている音楽は、単に心地いいだけのそれではないだろう。

全世界で2億4800万以上のユーザー数を誇る音楽ストリーミングサービスSpotifyが、2019年で最も再生されたアーティストランキングを発表した。その第1位は65億回以上の再生を記録したポスト・マローンで、2位はビリー・アイリッシュ。

この2トップのアーティスト性と音楽性が屹立している場所は、ポップミュージックの光輝に照らされている日なたではなく、陰影を色濃く帯びている側にある。そういう意味でもSpotifyのランキングは時代のリアルを映し出している。

世界中のリスナーが気軽にアクセスし再生できるサービス、SoundCloudを最大限に駆使し、白人ラッパーとしては異例のスピードでスターダムに駆け上がっていったポスト・マローン。

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全米で2019年最大のヒット作となったニューアルバム『ハリウッズ・ブリーディング』でも顕著だったが、もはやラップミュージックの共通言語となったトラップのビートを主体に、通奏低音のように帯びた虚無感や諦観をトピックにした、“誰とも分かち合えないスターの孤独”をダークサイドからダイナミックに解放している。結果的にその音楽像はポップやロックにも接近し、賛否両論を巻き起こしながら、ぶっちぎりのセールスを獲得している。

ジャンルにとらわれないメソッドを自在に操るアートバンド、The1975もおもしろい。

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ボーカルのマシュー・ヒーリーを筆頭に、抜群に洗練されたセンスがそのまま楽曲に反映されている。昨年8月にリリースされた「ピープル」は、まるでマリリン・マンソンが憑依したようなサウンドとMVのビジュアルに度肝を抜かれた。

いま、最も来日公演が期待されている18歳の超新星がビリー・アイリッシュだ。

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実兄であるフィネアス・オコネルがプロデュースするポスト・ダブステップであり、トラップ以降の低音を強調したベースミュージックをあまりに美しく、重く昇華したサウンドプロダクション。そして10代の女の子がベッドルームで吐き出すような鬱屈した実像を、どこまでも気高い音楽表現としてアウトプットするビリーのボーカリストとしての圧倒的なカリスマ性は、同世代のみならずまさに老若男女のリスナーを魅了している。ポストとビリーの音楽がはらんでいる緊張感はおおいなる中毒性に変換され、私たちを揺さぶる。時代を象徴すると同時に誰にも似ていないアーティストであるふたりが、ファッションアイコンとしても影響力を持っているのもまた必然と言えるだろう。

いっぽう、日本国内でもアンダーグラウンドシーンを中心に刺激的な音と姿勢を持つアーティストたちが頭角を現し、求心力を高めている。バンドでは、誰よりも真摯かつ熱情的に音楽と向き合おうとし、人間力が一塊となった独創的なオルタナティブミュージックを体現するGEZANがいる。

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彼らがオーガナイズする投げ銭制のフリーイベント『全感覚祭』は、ファッションやアートも巻き込むカルチャーの渦になった。 8人のMCから成る川崎の工業地帯出身のヒップホップクルー、BAD HOPは、日本にもリアルなゲットーがあり、音楽に救われ、音楽で成り上がっていく絵空事ではないサクセスストーリーを、最先端のヒップホップサウンドの上でハードコアに描き、18年に武道館公演を即完させ、翌年11月にはアメリカの豪華プロデューサー陣を迎えレコーディングを実施。

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その最新EPをApple Music限定でリリースし、規格外の存在感を示した。

ソロアーティストでは長谷川白紙の才能が際立っている。

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21歳の現役音大生である彼がDTM(デスクトップミュージック)で創造する音楽は、同時代性に富みながら無軌道なビートとコードを走らせ、不穏な高揚感をハレーションさせるようにして不可思議なポップネスに満ちたピアノの音色と歌を紡いでいる。コーネリアスの小山田圭吾も絶賛する彼の音と歌は、20年以降さらに大きな注目を集めるに違いない。

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Things to Do! 2020
世界はしてみたいコトであふれている。

いよいよ2020年。新しい年にやってみたいこと、目を向けてみたいことがたくさんある。トレンドがガラリと変わるファッションとメイク、新しい旅先やおいしいレストランの発掘、部屋の模様替え、これから出合う本や映画……2020年という年を楽しみながら、好奇心のままに、まだ見ぬ世界への冒険へと繰り出そう。

 

『フィガロジャポン』2020年3月号より抜粋
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texte:SHOICHI MIYAKE

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