母娘共演が実現! カトリーヌ・ドヌーヴ最新主演作。

Culture 2020.05.19

大事なモノを捨てて訪れる、人を爆発的に解放する瞬間。

『アンティークの祝祭』

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佇まいに少女性を残す白髪の老女が、自分を守ってきたモノという「鎧」を脱ぐ。その解放感が艶やか! 老いと若さが溶解し、記憶の欠片がスパークする。

出演映画ほぼすべてが主演作品、デビュー時からほぼ毎年、出演映画がある稀有な俳優カトリーヌ・ドヌーヴの最新作が『アンティークの祝祭』だ。

ある日突然、自分の死期が近いことを自覚した老婦人クレールは考えた。自分の人生のすべてが詰まった家を片づけよう、家具も収集してきたアンティークもすべて処分しよう。クレールは、早速、人を頼んでガレージセールを開くことに。疎遠だったひとり娘マリー(ドヌーヴの実の娘キアラ・マストロヤンニ)がどんなに思いとどまらせようとしても、クレールの勢いはとまらない。

故人の思いが宿る物々は、残された者にとって、故人を偲ばせる大事なモノであると同時に、どう対処してよいものか大いに悩むモノにもなる。自分の死を予感したクレールが、手元にあるすべてのモノをきれいさっぱり“片づけたい!”と思った、その気持ちはとてもよくわかる。自分の片づけを済ませておけば、残る家族に余計な負担をかけずに済むことになるから。

それにしてもクレールの勢いの凄まじさは娘ならずとも、ぎょっとする。あげくに屋敷そのものもどんな方法でか片づけられてしまうのではないか、と思えるほどなのだ。大事にしてきた家具やアンティークを手放すことで、クレールは心の掃除をしているようにも見える。モノから解放され、モノを手放したとき、クレールは人生からも悩みからも真に自由になるだろう。いくつかの伏線が、クレールが最後に手にする自由を花火のように彩っていたことに気づかされるクライマックス! ああ、クレールみたいに死を予感できたら、それは幸せだ、と思う。

文/永千絵 映画エッセイスト

高校生の頃から雑誌『スクリーン』などに連載。著書に『いつもの場所で』、『親子で映画日和』(ともに近代映画社刊)ほか。2017年、『父「永六輔」を看取る』(宝島社刊)を上梓。
『アンティークの祝祭』
監督・共同脚本/ジュリー・ベルトゥチェリ
出演/カトリーヌ・ドヌーヴ、キアラ・マストロヤンニほか
2019年、フランス映画 94分
配給/キノフィルムズ、木下グループ 
シネスイッチ銀座ほか全国にて近日公開
※公開予定については、公式サイトをご確認ください。
http://clairedarling.jp/

*「フィガロジャポン」2020年6月号より抜粋

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