ドキュメンタリー映画で世界のいまを考える。#05 『ハニーランド』で考える、サステナビリティと資本主義。

Culture 2020.06.18

この春~初夏にかけて、特に充実するドキュメンタリー作品のなかから注目作をピックアップし、併せて観たい作品も紹介する短期連載。第5回のテーマはサステイナブル。


選・文/立田敦子(映画ジャーナリスト)

明るい未来を約束する、サステイナブルな生活とは?

『ハニーランド 永遠の谷』

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父から受け継いだ伝統的な手法で養蜂を行う。北マケドニアの首都スコピエから、たった20kmしか離れていない土地で営まれる奇跡的な生活。

安全に暮らしていく。それが贅沢だとつくづく思い知らされる昨今、今年のアカデミー賞でドキュメンタリー映画賞、国際長編映画賞(旧外国語映画賞)に異例のWノミネートを果たした『ハニーランド』は、とても胸に迫る作品だ。北マケドニアの首都スコピエから20kmほど離れた谷に、年老いた病気の母親と住む養蜂家の女性ムラトヴァ。電気も水道もないその場所で、彼女は父から受け継いだ伝統的な方法で蜂蜜を採り、街で売りさばいて生計を立てている。ある日、隣に家畜を連れたトルコ人の一家がキャンピングカーでやって来る。いわゆるノマド的な生活の彼らは、彼女の極上の蜂蜜に目をつけ商売をしようと目論む。だが、生産性を追求した強引な採蜜は、ムラトヴァの蜂さえも死に至らしめてしまう。

ムラトヴァが断崖絶壁を命綱なしにするする登り、蜂の巣を採りに行く冒頭のシーンから、時が止まったかのような自然の美しさと圧巻の映像に魅了される。こんなにも自然と調和して生きることは可能なのか、と心を動かされる。だが、その奇跡的な世界へ土足で踏み入った侵入者に嫌悪感を覚えた時、私たちはこの無作法な一家こそ、資本主義に生きる我々のメタファーだと気付くだろう。

私たちが、生産性重視の生き方とともに失ったものは何か。ムラトヴァのシンプルで誠実な生き方は、それを教えてくれる。

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3年にわたって撮影された400時間に及ぶ素材を編集した美しい映像は、それだけで癒やしになる。

『ハニーランド 永遠の谷』予告編。

新作映画
『ハニーランド 永遠の谷』

●監督/リューボ・ステファノフ、タマラ・コテフスカ
●原題/Honeyland
●2019年、北マケドニア
●86分
●配給/オンリー・ハーツ
●6/26(金)より、アップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺ほかにて公開
http://honeyland.onlyhearts.co.jp

©2019, Trice Films & Apollo Media

※映画館の営業状況は、各館発信の情報をご確認ください。

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併せて観たい作品①:『TOMORROW パーマネントライフを探して』(2015年)

地球を未来に繋ぐ方法を探る、フランス人女優の旅。

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サステイナブルな未来を築くために最も大切なことのひとつに、子どもたちの教育がある。photo : © Under The Milky Way/Everett Collection/amanaimages

私たちがいまのライフスタイルを続ければ、人類は滅亡する。学術雑誌「ネイチャー」に掲載された論文に衝撃を受けたフランス人女優メラニー・ロランが、ジャーナリストのシリル・ディオンとともに、その解決策を求めて世界中を旅する様子を追ったドキュメンタリー。

工場の閉鎖で職を失った住民たちが自給自足の生活を始めたデトロイト、フランスで最も成功したパーマカルチャー(*)の農場があるル・ベック・エルアンをはじめ、食、経済、持続可能なエネルギー、教育など多面的に理想的なライフスタイルを追求する。世界中を回って対話した人々は、農夫、エコノミスト、建築家、哲学者などさまざま。ロランの旺盛な好奇心と行動力に、元気とやる気をもらえる。

*パーマネント(永続性)、アグリカルチャー(農業)、カルチャー(文化)を組み合わせた言葉。

旧作映画
『TOMORROW パーマネントライフを探して』

●監督・出演/シリル・ディオン、メラニー・ロラン
●原題/Demain
●2015年、フランス映画
●120分

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併せて観たい作品②:『未来の食卓』(2008年)

オーガニック先進国に学ぶ、食べるということ。

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牧歌的なフランスの田舎町にも、生産性重視の近代的農業がもたらした弊害があった。photo : © First Run Features/Everett Collection/amanaimages

牧歌的な雰囲気のフランスの田舎町は一見、大都会よりもずっと恵まれた環境に見える。だが、農作物に使われる殺虫剤や化学肥料などが土壌や水を汚染し、それを食べ物から摂取する子どもたちの人体に影響を与えているとしたらどうだろう?

『未来の食卓』は、南フランスのバルジャック村で実施された学校の給食をすべてオーガニック化するというプロジェクトをカメラで追うことで、環境汚染の深刻さを訴えかける。実際に、小児がんや神経症などの実例には胸が痛む。2008年にフランスで公開されるや否や、予想以上の大ヒットとなったことからも、この問題が農業国フランスにとってどれだけ重大かがわかる。オーガニック先進国に学ぶことは多い。

旧作映画
『未来の食卓』

●監督/ジャン=ポール・ジョー
●出演/エドゥアール・ショーレ、ペリコ・ルガッスほか
●原題/Nos Enfants Nous Accuseront
●2008年、フランス映画
●112分

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texte : ATSUKO TATSUTA

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