ドキュメンタリー映画で世界のいまを考える。#07 ドキュメンタリー映画で体感する、世界最高峰の美術館。

Culture 2020.07.17

この春から夏にかけて、特に充実するドキュメンタリー映画からおすすめをピックアップする短期連載。第7回のテーマ「美術館」。世界に名だたる至宝をじっくり鑑賞したり、美術館の数奇な運命をひも解いたり、そこで働く人々の美術愛にフォーカスする3作をご紹介!


選・文/細谷美香(映画ライター)

描かれた人物の息遣いが聞こえてくるよう。

『プラド美術館 驚異のコレクション』

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ナビゲーターは名優、ジェレミー・アイアンズ。日本語吹き替え版は今井翼が務める。

昨年、開館から200年を迎えたマドリードのプラド美術館。スペイン王室の審美眼によって選ばれたコレクションが揃う美術館に、初めてカメラが入った。ベラスケスやゴヤの名画にググッと限界までカメラが寄った瞬間、描かれた人物の息遣いが聞こえてくるようで、映画で絵画を観る喜びを全編から感じられる作品だ。

絵画の解説のみならず、プラド美術館がこれまでたどってきた歩みが紹介され、美術と歴史の森に分け入る感覚が味わえるのも、この映画の魅力のひとつだろう。スペイン内戦時に美術品の疎開が行われ、旅の間に損害を受けたのは暴力を描いたものだけだったという、象徴的なエピソードも描かれている。館長や200周年記念事業に関わった建築家のノーマン・フォスター、学芸員や保存・修復部門の責任者、写真家や女優ら幅広い人物の愛あるインタビューを収めることで、プラド美術館を多角的に紹介することにも成功している。

絵画と歴史が織り成すストーリーへと優雅に格調高く手招きしてくれる案内人は、ジェレミー・アイアンズ。美はどんな時もどんな人にとっても平等であり、国籍も言語も超えて私たちにさまざまなことを語りかけてくる。かつて館長だったピカソの「芸術は日々の生活の埃を、魂から洗い流してくれる」という言葉が胸に響くドキュメンタリーだ。

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略奪品は1点もなく、エル・グレコ、ディエゴ・ベラスケス、フランシスコ・デ・ゴヤら巨匠の作品が揃う。

『プラド美術館 驚異のコレクション』予告編。

新作映画
『プラド美術館 驚異のコレクション』
●監督・共同脚本/バレリア・パリシ
●ナビゲーター/ジェレミー・アイアンズ
●原題/Il Museo del Prado – La corte delle meraviglie
●2019年、イタリア・スペイン映画
●92分
●配給/東京テアトル、シンカ
●ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマ、新宿シネマカリテほかにて7/24(金)から公開
www.prado-museum.com

© 2019 – 3D Produzioni and Nexo Digital

※映画館の営業状況は、各館発信の情報をご確認ください。

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併せて観たい作品①:『ナショナルギャラリー 英国の至宝』(2014年)

あふれる愛でギャラリーを支える人々に密着。

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時を超えてきた絵画に新たな息吹をもたらす緻密な修復作業の様子もじっくりと映し出す。

『チチカット・フォーリーズ』を皮切りに、『パリ・オペラ座のすべて』など数々の名作を世に送り出してきたキュメンタリー作家、フレデリック・ワイズマン。ナレーションもBGMも付けないいつものスタイルで、ダ・ヴィンチやミケランジェロの名画が揃うロンドンの国立美術館の素顔を切り取っている。

“絵とあなたの関係性”を見つけてほしいと語る学芸員、手当てをするように作業をする絵画修復士、展示する際の最高の照明や角度を幾度も調整し、ときには予算やマーケティングの問題に頭を悩ませるスタッフたち。惜しみない美術への愛でナショナルギャラリーを支える人たちを中心とした親近感あふれる舞台裏に光を当て、美術館という場所だけが持つストーリーを伝えている。

旧作映画
『ナショナルギャラリー 英国の至宝』
●監督/フレデリック・ワイズマン
●原題/National Gallery
●2014年、フランス・アメリカ映画
●181分

© Zipporah Films/Everett Collection/amanaimages

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併せて観たい作品②:『エルミタージュ美術館 美を守る宮殿』(2014年)

美で埋め尽くされた宮殿をとらえた、めくるめく映像。

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世界最大級のエルミタージュ美術館。ロシア最高峰の警備がついている場所にもカメラが潜入している。

ルーヴル、メトロポリタンと並び、世界三大美術館のひとつといわれるロシアのエルミタージュ美術館。女帝エカテリーナ2世のコレクションから始まり、彫像から宝飾品まで2000部屋に300万点の美術品を所蔵するに至った歴史を紐解いていく。

美術館の豪華絢爛な建物自体が威厳を放ち、思わずため息が出る美しさ。素晴らしい美術品が人々に公開されてきた歴史の裏側に、いかに多くのドラマチックなできことがあったのか。戦争や革命の時代にもまさに“美を守る宮殿”であり続けた美術館そのものが、まるでひとつの生命体のように思えてくる。アレクサンドル・ソクーロフ監督が美術館を舞台に90分ワンカットで撮った『エルミタージュ幻想』と併せて鑑賞することもおすすめしたい。

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旧作映画
『エルミタージュ美術館 美を守る宮殿』
●製作・監督・脚本/マージー・キンモンス
●出演/ミハイル・ピオトロフスキー、レム・コールハース、アントニー・ゴームリーほか
●原題/Hermitage Revealed
●2014年、イギリス映画
●83分
●DVD発売元/ファインフィルムズ DVD販売元/ハピネット ¥4,290

Hermitage Revealed ©Foxtrot Hermitage Ltd. All Rights Reserved. 

※この記事に記載している価格は、標準税率10%の税込価格です。

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texte : MIKA HOSOYA

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