有名経営者が、マッチングアプリで選んだ女性の素顔。

Culture 2021.05.29

馬越ありさ

自己紹介って簡単にできるようで、案外自分のことを分かりやすく説明するのは練習がいるもの。ましてや字数制限のあるアプリのプロフィール欄で、千載一遇のチャンスを掴むとなれば、一言一句たりとも疎かにはできません。ウケると思って書いたことがハマらなかったり、意外な趣味に反応をもらえたり……。 マッチングアプリを通じて見えた悲喜劇を、ライターの馬越ありさが綴ります。

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画像はイメージ photo:123ducu_istock

詩織さん(32歳)保険会社勤務の場合

「有名人と付き合えた理由ですか……?本当に分からないんですよね」

困惑しているのだろうが、それが読み取れないほど詩織さんは表情が乏しい女性だった。よく見ると目鼻立ちは整っているものの、華やかさに欠けるのはパーツが小作りなせいだろうか。ここ数年よく見かけるスポーツサンダルを履いているが垢抜けた印象にはならず、使いこまれたブランドバックが親近感を抱かせる。

「私が目立つタイプではないから、よほどのテクニックを使ったと思われがちなんですけど……。マッチングした時には、彼がメディアにもよく出ている経営者だってことは、知らなかったんです」

こちらが戸惑っているのを察してか、マッチングアプリで有名経営者と付き合った経緯を話してくれた。

「私は横浜の郊外で生まれ育ちました。行こうと思えばいつでも都心に行けたせいか、メディアで展開されているキラキラした生活に、幻想を抱くこともなく大人になった気がします」

抑揚のないしゃべり方で続ける。

「大学から入った、いわゆるお嬢様女子校での経験を通じて、身の丈を学んだところもあります。エスカレーター方式で下から上がってきた子たちは別世界の人という感じで。インカレのサークルに入ってみたりもしたんですけど、あからさまに可愛い女の子だけ優遇されているのを見て、傷ついたりもしました。でも、気持ちを切り替えて、ひとりでも生活できるようにならなきゃと必死になって就職活動をして、大手の保険会社に内定が出た時は、すごくうれしかったです」

悲しかったこともうれしかったことも、詩織さんは同じトーンで話す。

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有名経営者が惹かれたプロフィールとは?

「大手の保険会社といっても一般職なので、ひとり暮らしをしたらそんなに贅沢もできなくて。実家暮らしの同期の子たちが、毎月のようにホテルのアフタヌーンティー巡りで同期会をしているのに参加する気になれなくて、ひとりでラーメン屋さん巡りをしたりしてました」

ともすると自分勝手と煙たがられそうな行動だが、同性に敵対心を抱かせない外見が功を奏しているのだろう。同期との関係は良好で、たまには……と参加した同期会でマッチングアプリの話を聞き、興味を持ったそうだ。

「合コン三昧なんだと思っていた子が、アプリをやっていることに驚きました。みんながやっているというハイスペック限定のアプリは気後れしちゃうので、利用者数の多いアプリに登録してみたんです。これといった特技もないのでプロフィール欄を書くのに苦労しましたけど……」

趣味はラーメン屋さん巡りと、マンションの購入を検討していた時期だったのもありマンションの内見、と書いたそうだ。

「ありきたりなプロフィールのせいか、“いいね!”をくれた方のプロフィールを見ても、勇気を出して会ってみたいと思える方がいなくて。こちらからも”いいね!”をしようと検索してみたんです。条件はいたって普通。年収1,000万円なんてフィルター、かけてないですよ」

早々に、韓流俳優のような爽やかな顔立ちの写真に目が留まる。プロフィールにはメーカー勤務・年収700万円とあった。

「イケメンで堅実なサラリーマンだなんて……とダメ元で”いいね!”をしてみたんです。マッチングして、彼からメッセージがきて驚きました。初めての顔合わせの時に、何系のラーメンが好きなの? と聞いてくれたり、自分がマンションを購入した時のことを、参考になればって話してくれたり……。きちんとプロフィールを見て会いたいと思ってくれたんだと伝わってうれしかったです」

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「普通の女の子が好き」という言葉の、本当の意味

数回のデートを経て交際に発展。しかし、5回目のデートで、彼からプロフィールが嘘だったと謝られたという。

「一瞬、パニックになりました。けれど、すぐに彼が、自分が取材されている記事を見せてくれて。余計に混乱しましたけどね」

言葉とは裏腹に、淡々とした口調の詩織さん。きっと彼の前でも、困惑すら伝わらないリアクションだったのだろう。

「彼は、騙すつもりはなかったと謝ってくれました。本当のスペックを書くと、インスタがスムージーや海外の高級ホテルの写真で埋め尽くされているような女の子から”いいね!”がたくさん来てしまい、辟易としていたそうです」

得意気にならずに話す口調から、控えめな性格がうかがえる。

「そういう派手な女の子が苦手なのは分かったけれど、何で私が良かったのか、聞いてみたこともあるんですよ。そうしたら、『感情が安定しているところが好き』って言われました。……確かに、私、嫌なことがあっても、怒る方が疲れちゃって。他人は他人という感じで、やり過ごしちゃうんですよね。だから、束縛もしませんし」

経営者として日々決断を下すプレッシャーと戦いながら、彼女の機嫌も取るのは辛いと聞くと納得だ。

「結局、彼の人を試すような態度や拗らせっぷりに付き合いきれなくなって、別れてしまいましたけどね」

棚ボタのように付き合えたハイスペックな彼氏にも依存や執着をしない姿勢が、彼を魅了したのかもしれない。

次回は6月5日公開予定

馬越ありさ

東京都出身。慶應義塾大学を卒業後、メーカーで販売促進に従事しつつ、ライターとしても活動。

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