スウェーデンの美しき王子夫妻の型破りな愛の物語。

Culture 2021.09.03

2015年6月13日、スウェーデン王子カール・フィリップソフィア・ヘルクヴィストの挙式がストックホルムのドロットニングホルム宮殿の王家の礼拝堂で執り行われた。王子の奮闘の甲斐あって、危険な経歴をもつ婚約者に対する偏見を払拭し、結婚に至ったふたり。交際発覚から11年続く、型破りな愛の物語を振り返る。

【写真】カール王子夫妻のおとぎ話のような結婚物語。

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2015年6月13日土曜、カール・フィリップ王子とソフィア・ヘルウヴィストは、ドロットニングホルム宮殿内の王家の礼拝堂で結婚式を挙げた。(ストックホルム、2014年12月10日)
photo:Abaca

8月14日に第3子となるジュリアン王子の洗礼式を祝ったばかりのスウェーデンのカール・フィリップ王子とソフィア妃。ふたりはいまや3人の男の子の親だ。アレクサンダー王子は2016年4月19日、ガブリエル王子は2017年8月31日生まれ。

今日ではスウェーデンで最もグラムールなカップルと思われている王子夫妻だが、ふたりの愛の物語は必ずしも諸手を挙げて歓迎されてきたわけではなかった。

2010年8月。王室家政長官局は、やや困惑した様子がうかがえるわずか3つのフレーズで、カール16世グスタフ国王とシルヴィア王妃の息子と「数カ月前に出会ったご令嬢」ソフィア・ヘルクヴィストとの交際を認める声明を発表した。

スウェーデンのカール・フィリップ王子が王国中で話題のこのホットな女性に夢中になっているといううわさは事実だった。妖精のような雰囲気を漂わせるこの女性はスウェーデン国民にとって見覚えのない人物ではなかった。

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リアリティー番組から王室へ

ソフィア・ヘルクヴィストは自分が人目を引く容姿の持ち主であることを早くから理解していた。バーで働きながらモデルとしてのキャリアを開始したのは18歳のとき。2年後にはスウェーデンの男性誌の人気投票で1位となり、2004年ミス・スリッツのタイトルを獲得。このとき撮影された写真で、彼女はトップレスの胸に大蛇を抱いてポーズを取っている。青い瞳のブルネット美女は怖いもの知らずだった。2005年、ソフィアはテレビのリアリティ番組「パラダイス・ホテル」の出演者に選ばれる。情熱的な性格と誰もが憧れるボディ、そして強靭な意志で、彼女はファイナルまで勝ち進み、全国的な知名度を得る。しかし彼女を疑問が襲う。このきらびやかな世界は本当に自分に合っているのだろうか? と。

数カ月後、国民的人気者となった彼女は濃いサングラスで目元を隠し、人知れずアメリカへ渡った。ニューヨークでヨガ講師養成コースに参加し、数カ月の訓練の後に、マンハッタンにヨガセンターを構える。彼女は大人しい女性に生まれ変わったのだろうか? そうでもなさそうだ……。ゴシップ雑誌によると、ヘルクヴィスト嬢はアメリカ滞在中、ヨガのレッスンのかたわら、ポルノ界のスターことジェナ・ジェイムソンと親交を深めたという。

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反対されて強まったカップルの絆

しかし2009年6月、ボースダードでのスウェーデン・オープンの開催を記念したパーティで、彼女はヨーロッパ王族のなかで最も魅力的な王子のひとりに出会う。褐色の巻き毛、ノワゼット色の瞳、甘く低い声、悩殺のほほ笑み。30歳の誕生日を迎えたばかりのカール・フィリップ王子を狙う女性は多かった。

夏の夜にスウェーデンの首都にある人気クラブ “ペペ・ボデガ” のVIP専用ダンスフロアで、彼の目は見ず知らずのこの24歳の若い女性に釘付けになった。

この晩、カール・フィリップが友人たちに誘われてクラブへ行くことを承知したのは、10年以上もの間交際を続けてきた、PR会社に勤務する控え目な恋人、エマ・ペルナルドとの大恋愛を忘れるためだった。王子の仲間うちでは、破局が決定的なものであることを信じる人はひとりもいなかった。ただの“小休止”だろう。ふたりは絶対にまたよりを戻すに違いない……。しかしそれが間違いだったことは、その後の経緯を見れば明らかだ。王子はソフィア・ヘルクヴィストに魅了され、ページをめくった。

すぐさま“スキャンダラスな”彼女の過去が浮かび上がる。家庭の主婦を赤面させ、王室の熱心な支持者たちが眉をひそめるような写真を、雑誌がこぞって掲載する。

しかし若いカップルにとってダメージとなりかねない状況は、ふたりの絆をさらに強いものにした。騒動の渦中でカール・フィリップとソフィアはその後も変わることのない固い信頼関係で結ばれる。おそらく本人はまだ知らないが、魅力に溢れるヘルクヴィスト嬢はすでにプリンセスとなる道を歩みはじめていた。確かに茨の道だが、彼女はその途上で味方にも出会う。なかでもふたりの状況に心を砕いていたのがヴィクトリア王女だ。

スウェーデン次期国王の彼女は、元専属スポーツトレーナーのダニエル・べストリングと恋に落ち、10年近くに及ぶ努力の末に、ようやく愛する人との結婚にこぎつけたのだ。

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王たちの学校へ

2011年4月、最初の勝利が訪れた!

若いカップルはユールゴーデン島のアパートで同棲生活を始める。しかしプリンセスに昇格する前に、ヘルクヴィスト嬢はまず自らのイメージを管理し、懸命に勉強しなければならなかった。

週に数回、女性実業家のバルブロ・エンボンとアリス・トロール=ヴァハトマイスター伯爵夫人(1970年代にシルヴィア王妃の家庭教師を務めた女性)の指導のもと、さまざまな慈善活動に従事した後、ソフィアは王家のメンバーとしてふさわしい教養を身につけるために特訓を受ける。歴史、地理、政治、行儀作法、話し方、エチケット……。

「王子の恋人」はスタイリストのカミラ・アストランドにも紹介された。前髪も、へそピアスも、右腕に刻まれた花のタトゥーも、日焼けサロンも金輪際禁止。カジュアルな服装はお役御免。かわりにオーソドックスなアンサンブルが用意される。効果はてきめんだった。

2012年5月22日、エステル王女の洗礼式に出席するため、ローズグレーのドレスに身を包んだソフィアは、ドロットニングホルム宮殿の王家の礼拝堂に足を踏み入れた。確かに彼女はまだカール・フィリップの隣に座ってはいない。

しかし事情に通じた王室ウォッチャーたちは、こうした厳粛な場に彼女が列席することには、象徴的な強い意味合いがあると知っていた。新聞各社も婚約発表は間近と報道した。しかしその後も、進展は見られなかった。王子は自分の選択にまだ確信を持っていないと意地悪を言う人もいれば、カール・フィリップ王子は妹のマデレーン王女の結婚の方が先と考えているという意見も出た。

10月25日、宮殿からマデレーン王女の婚礼の日取りが発表された。ベルナドッテ王朝の末っ子と婚約者のアメリカ人金融投資家、クリストファー・オニールとの挙式は2013年6月8日に執り行われる。このときもソフィアは王室礼拝堂に集った参会者の列にいた。新郎新婦が誓いの言葉を交わす瞬間、彼女は涙を抑えきれなかった。この幸せはもうすぐ自分のものに?

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新しいプリンセスとして

そう信じたソフィアは間違っていなかった。2014年6月27日、ヴィクトリア王女とマデレーン王女のときと同様に、カール16世グスタフ国王は最終的にふたりの結婚に同意する。国王は「カール・フィリップ王子とソフィア・ヘルクヴィスト嬢の」婚約を祝福する声明を発表。結婚式は2015年6月13日に決まった。

王室のフェイスブック公式ページには、挙式の日取りとともに婚約者の写真も掲載された。ブルネットのロングヘアにティナ・テルンクヴィスト(ヴィクトリア王女の元専属デザイナー)によるロイヤルブルーのドレスを纏った彼女の姿に、やや先走って、キャサリン妃と比較する声も聞かれた。いずれにせよ、ウィリアム王子の妻のように、ソフィアもこれからは新しいプリンセスとして遇されることになる。

ケンブリッジ公爵夫人は婚約の際に故ダイアナ妃の持ち物だった大粒のサファイアを譲り受けたが、ソフィアに贈られた宝石にも感動的なエピソードがある。婚約発表から数時間後、王宮の庭で急遽行われた記者会見の場で「カール・フィリップ王子が自ら指輪のデザインをしてくれた」と若々しい婚約者は語った。輝かしい太陽のもと、今回はフランス人デザイナー、ロラン・ムレの赤いドレスに身を包んだソフィアは完璧だった。わざとらしい微笑や扇情的なポーズは過去のもの。しとやかに腕を伸ばし、左手の薬指にはめた美しいソリテールを披露した。

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ソフィア・ヘルクヴィストには自らのイメージを洗練させるためのハードな訓練が待っていた。歴史、地理、政治、行儀作法、話し方、エチケット・・・。「王子の恋人」はスタイリストのカミラ・アストランドにも紹介された。

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王子の婚約者として完璧

カメラの前の恋人たちは幸せに満ち溢れていた。「6月中旬に結婚式を行えることになり、私たちはとても嬉しく思っています。この時期のスウェーデンは本当に素晴らしい。私たちにとって重要な日です。私たちはとても幸せです」と、抑制の効いた、しかし自然な口調で彼女は述べた。

交際のきっかけについて、彼女はこう語った。「カール・フィリップは私がこれまで出会ったなかで最も謙虚な方です。最初から彼のそういうところに惹かれました」。その後、ソフィアは決然とした口調で、設立したばかりの慈善団体の運営が当面の優先課題だとして、今後はそれに多くの時間を割くつもりだと語った。彼女が立ち上げた “プロジェクト・プレイグラウンド” は、南アフリカのケープタウン郊外にあるランガ地区の孤児たちの援助を目的とする組織だ。

ダニエル王子やクリストファー・オニールのように、ソフィアもスウェーデン王室の新メンバーとして、自らの役割に相応しい振る舞いを身につけた。7月14日には、土砂降りの雨の中、何千人もの観衆が集まったヴィクトリア王女の37歳の誕生日を記念した祝賀行事に列席。これ以後、ヘルクヴィスト嬢は王室のあらゆる儀式に参加することになる。

9月末には、和やかな微笑を浮かべる国王と王妃に見守られ、ストックホルム大聖堂で行われる恒例の国会開会式にも出席した。カール・フィリップ王子は神聖不可侵の公式儀礼に背いて婚約者と腕を組んで会場に入り、王室メンバー専用スペースの自分の隣の席に彼女を着席させて、列席者たちを驚かせた。

しかしふたりが強烈な印象を与えたのは、12月10日に行われたノーベル賞授賞式だ。勲章で覆われたタキシードをびしっと着こなしたスポーツマン体型の婚約者と並んで、未来のプリンセスが授賞式会場であるコンサートホールの巨大なドームの下に現れると、そうそうたる顔ぶれの参会者が一同に息を飲んだ。スウェーデン王室の年間行事のなかでも最も華やかなこのイベントに初出席した彼女は、まばゆいばかりの美しさだった。

彼女が纏っていたドレスは、ストラスが刺しゅうされたフランボワーズ色のブラウスと、トレーンが華やかなボリュームたっぷりのチュールのスカートのアンサンブル。妖精のような繊細さと現代性を併せ持つ装いだった。大きめのシニョンでヘアをすっきりとまとめたソフィアは歩くというより、浮いているという言葉が相応しい、まるで足が地面に触れていないかのような軽やかさ。

これまで以上に仲睦まじく、愛情溢れるふたりの恋人たちは授賞式の間中、互いに一時も目を離さない。授賞式後の豪華な晩餐会の席では、招待客たちがドレスはテストだろうとささやき合う。彼女のウェディングドレスのために作られた数多くの試作品のひとつに違いない。ソフィアはおとぎ話に出てくるような正真正銘のプリンセスドレスを希望しているらしい。つまり、ふたりの恋物語を象徴するようなドレスを。

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新しい時代

そのドレスはまさに妖精のようだった。スウェーデン人クリエーター、イダ・シューステットがデザインしたのは、レースの袖と長いトレーンがアクセントになった、真っ白なサテンのドレス。ヘアにはダイアモンドの鏤められたダイアデムが輝く。キャサリン妃のウェディングドレスを彷彿とさせる装いだった。

感動する王室ファミリー、奇妙な剣の儀式、熱狂する人々の歓声のなかで交わされた熱烈なキス。2015年6月13日に執り行われたカール・フィリップ王子とソフィアの結婚式は大成功を博した。ソフィアには、スウェーデン王女とヴェルムランド公爵夫人という2つの称号が授与された。5年後、夫妻は結婚5周年を記念して、これまで公開されていなかった結婚式の写真をインスタグラムに投稿している。

 

 

 

それは夢の生活の始まりだった。慈善団体への後援や各種授賞式への出席に追われる日々。ただし夫と共に玉座に昇るという大事業はそこには含まれていない。確かにカール・フィリップ王子は一時、つまり王子が誕生してから7カ月間、王位継承順位第1位という地位にあった。その後1980年に憲法が改正され、性別に関係なく国王の第一子に王位継承権が与えられる、絶対長子相続性が導入された。その結果、カール・フィリップ王子の姉のヴィクトリアが王位継承順位第1位に。英国でも同様の改正が2015年、シャーロット王女誕生の直前に施行されることになる。

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“より自由な人生”

2016年4月19日、夫妻に第1子、セーデルマンランド公爵アレクサンダー王子が誕生する。弟のダーラナ公爵ガブリエル王子は2017年8月31日に誕生。ただ小さな王子たちの将来は絢爛豪華な宮殿暮らしとは(やや)縁遠いものとなりそうだ。

2019年10月7日、彼らの祖父であるカール16世グスタフ国王は王室制度の改正を発表する。国王夫妻と、皇太子であるヴィクトリア王女とその家族、夫のダニエル王子とエステルとオスカルのふたりの子どもたちに王室の規模を縮小するという内容だ。アレクサンダーとガブリエルを含め、それ以外の国王の孫たちについては、称号や王位継承順位は維持されるものの、「殿下」という敬称は以後は用いられない。公務やタブロイド紙に追われ、延々とつくり笑いを浮かべ、自由に職業を選択することもままならない生活から孫たちを解放するための英断だった。

カール・フィリップ王子とソフィア妃は夫妻の公式インスタグラムで国王の決断を支持し、子どもたちが「より自由な」人生を送ることができることの喜びを表明した。

王室ファミリーとは距離を取りつつも、カール・フィリップ王子とソフィア妃は依然として公の業務に積極的に取り組んでいる。とくに新型コロナ感染症によるパンデミック下でもロックダウンが実施されなかったスウェーデンで、王子夫妻は様々な活動を行った。飲食業界関係者と面会する(手洗いと肘タッチの挨拶は必須)、軍隊が設置した野戦病院を(戦闘服で)ヴァーチャル訪問するなど、カール=フィリップ王子は精力的に公務をこなしている。

 

 

ソフィア妃も負けていない。3日間の研修を経て、若きプリンセスはストックホルムのソフィアヘメット病院のヘルスケアアシスタントとしてボランティア活動に加わった。「ソフィアヘメット病院の名誉院長として、スウェーデン国民がコロナ禍に苦しんでいるなかで、自らも援助を行いたいと希望された」と王宮報道官のマルガレータ・トルグレンはフランス通信社に語った。

「このような厳しい時期に手助けができることは大きな喜びです」とインスタグラムにソフィアはメッセージを寄せた。スウェーデンの建国記念日の6月8日には、晴れやかな表情のソフィアが、息子たちと手をつないで、ストックホルムのジュルガーデン王立公園で国旗をはためかせる夫を見守っていた。女王のような貫禄を漂わせて。

text:Bertrand Deckers, Yan Bernard-Guilbaud (madame.lefigaro.fr)

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