幻想画家ルドン晩年の、楽園のように鮮やかな絵画たち。

Culture 2018.02.12

孤高の画家が晩年に覚醒した、ビビッドな色彩と装飾性。

『ルドンー秘密の花園』

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『眼をとじて』1900年以降。岐阜県美術館蔵。ニンフやオルフェウスを思わせる神話的な人物が目を閉じて瞑想する静謐な光景。

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『グラン・ブーケ(大きな花束)』1901年。三菱一号館美術館蔵。花瓶からあふれ出る花々はどこか動物的な面立ちを持つ。

 世紀末が生んだ幻想の画家オディロン・ルドンは、印象派と同時代を生きながらも、終生にわたり内面世界に光を当てた特異な画業で知られている。ボルドーの裕福な家庭に生まれたが、生後すぐに葡萄農家へ里子に出され、病弱で内向的な彼は寂しい少年時代を過ごした。青年期に出会った植物学者クラヴォーの影響で、ボードレールやエドガー・アラン・ポーの文学に触発され、さらに放浪の画家ブレスダンやファンタン・ラトゥールの指導を得て版画に着手、「黒」の画家として注目される。初の石版画集『夢のなかで』の頃から、当時研究が進んでいた夢や無意識といった精神世界に足を踏み入れ、人の頭や目玉を持つ植物やほくそ笑む蜘蛛など、不穏な暗さととぼけた愛嬌のある生き物を描いていた。

 50歳を過ぎてからは打って変わって豊かな色彩を用いるようになる。本展では植物に焦点を当て、美術愛好家であったドムシー男爵の城館の食堂を飾った最大級の装飾画『グラン・ブーケ』と、オルセー美術館が所蔵する同じ食堂の15点の壁画が一堂に会す。相続税を美術品コレクションで物納できるフランスの納税制度により、連作が散逸しなかったことは素晴らしい。

 パステル画特有のマットな質感の中に、やわらかなグラデーションと微妙な光沢を滲ませたルドンの絵画は、画面の隅々までずっと目を凝らしていたくなるほど幻惑的だ。どこにも組せず孤高の道を歩んだ画家が、晩年になって覚醒した装飾性が艶やかに咲き乱れている。そこには植物と動物が一体となって永遠を生きる、楽園の様相が表現されているともいえるだろう。

『ルドンー秘密の花園』
会期:2/8~5/20
三菱一号館美術館(東京・丸の内)
10時~18時(祝日を除く金、第2水曜、5/14~18は~21時)
休)月(2/12、26、3/26、4/30、5/14は開館)
一般¥1,700

●問い合わせ先:
tel:03-5777-8600(ハローダイヤル)
http://mimt.jp/redon

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*『フィガロジャポン』2018年3月号より抜粋

réalisation : CHIE SUMIYOSHI

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