11月になるとイギリスでは各社のクリスマス広告がオンエアされて話題となる。なかでもデパート、John Lewis & PartnersのCMは独自のアプローチで定評があり、今年もまた大きな注目を集めている。
街のあちこちでクリスマスのイルミネーションが輝くなか、一人の中年男性が人気のない駐車場でスケードボードにトライしている。かなりの初心者らしく失敗ばかり。でもそれは一体何のために?
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どこにでもいそうな普通の男性が主人公。
理由は最後にわかる。男性がパートナーと暮らす家のドアベルがなり、扉を開けるとソーシャルワーカーとともにスケートボードを抱えたティーンエイジャーの女の子、エリーが不安な面持ちで立っている。男性はエリーを養子として迎え入れるのに際し、彼女との共通の話題作りのために懸命にスケートボードの練習をしていたのだ。
「ザ・ビギナー(初心者)」と題されたこのCMは広告会社adam&eveDDBが、長年John Lewisとパートナーシップを持つチャリティ団体「Action for Children」と「Who Care? Scotland」の協力の元、専門家のアドバイスを受けながら作りあげたものだという。
「クリスマスには誰もが心温まるストーリーを求めています。そしてそれ以上に大切なのは少しでもより良い世の中になるように声をあげることと私たちは考えています」とJohn Lewisのエグゼクティブ・ディレクター、ピッパ・ウィックスは語る。
ディレクター・オブ・カスタマーのクレア・ポイントンはCMに込めた意味をこのように説明する。「私たちは『家族』をとても大切に考えています。そして『家族』にはさまざまなかたちがあります。その一つでありながらも見逃されがちな一家を、一年でもっとも重要とされるこのシーズンのキャンペーンの中心人物に選びました。CMの最後でエリーが訪れた家は優しさが溢れています。そして、そこに暮らす男性がエリーのためにとった行為こそ、私たちがもっとも不可欠と考えていることなのです」。
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フォスターペアレンツとなるカップルの家を初めて訪れたエリーの心もとない表情を見て、英国中の人々が彼女を抱きしめてあげたくなったはず。
チャリティ団体「Who Cares? Scotland」のCEO、ルイス・ハンターはこのCMについてこうコメントする。「豊かさに満ち溢れた伝統的なクリスマスを楽しむ人たちの一方で、孤独を感じながら寂しく過ごす人も大勢います。John Lewisがそこにスポットをあてて、多くの関心を引き共感を呼んでくれたことを嬉しく思います」。
この時期John Lewisは物資の寄付やイベントへの招待を通して、施設にいる子供たちやクリスマス時に施設から独り立ちする若者をサポートしている。またCM内に登場するテディベアやスケートボードなどは実際に店頭やネットでも販売。売り上げの25%は「Action for Children」と「Who Care? Scotland」に寄付されることになっている。
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エリーを迎え入れるために室内の飾り付けをする二人。クリスマスツリーの下にある「ルイス・ベア」(30ポンド)の売り上げの25%はチャリティに寄付される。
CMの最後に「イギリスでは10万8000人以上の子供たちが施設で暮らしています」と字幕が映し出される背後で、自分のスケートボードを手にした男性とエリーのふたりのこんな会話が聞こえる。
エリー「Wow!それかっこいいね」
男性「君のボードほどじゃないよ」
エリー「シールがいくつか貼ってあるだけだよ」
男性「私のにもシールを貼るといいかな」
エリー「うん、そう思うよ」
涙ぐましいほどの努力をしていたのにもかかわらず、エリーの前ではさりげなく振る舞う男性の姿が微笑ましい。
text:Miyuki Sakamoto
在イギリスライター。憂鬱な雨も、寒くて暗い冬も、短い夏も。パンクな音楽も、エッジィなファッションも、ダークなアートも。脂っこいフィッシュ&チップスも、エレガントなアフタヌーンティーも。ただただ、いろんなイギリスが好き。