時代と旅するルイ・ヴィトンのトランク、
パリのカルナヴァレ美術館に勢ぞろい。
Culture 2010.11.19
大村真理子の今週のPARIS
荷造り用木箱製造兼荷造り業者。長い職業名である。19世紀中ごろというのは、クリノリンで広がるオートクチュールのドレスを女性たちがきていた時代である。彼女たちが旅するとき、トランク(荷造り用木箱)が必要なのはもちろんだが、旅に持って行く品を梱包する人も必要とした。若いルイ・ヴィトンがジュラ地方からパリに辿りつき、仕事をしていたのは、こうした職業を営む店のひとつ。きめ細やかな仕事をするルイを信頼し、梱包を任せたのが、顧客だったナポレオン3世妃ユージェニーという当時の一種のファッション・リーダーである。ルイ・ヴィトンが1854年に自分の店を持つことを励ましたのも彼女なのだ。カルナヴァレ博物館で現在開催中の『VOYAGE EN CAPITALE Louis Vuitton and Paris』展で、会場に入るや目のとまる場所にユージェニー后妃の絵がかかっているのはこうした背景があってのこと。
展覧会のポスターのビジュアルにも使われているルイ・ヴィトンのトランクを積み上げたエッフェル塔は、ラルティーグが1978年に撮影した写真!!
©Jacaues-Henri Lartigue/ Ministere de la Culture-France/AAJHL
キャンバス地の変遷。
©Collection Louis Vuitton / Antoine Jarrier
ルイ・ヴィトンの1号店は、オートクチュール・メゾンが軒を並べていたラペ通りのすぐ近く。ここからモノグラム・キャンバスで有名になるブランドの歴史が始まるのだ。花と星形で構成され、ルイ・ヴィトンの代名詞のようなモノグラム・モチーフ。会場ではルイ・ヴィトン家のキッチンの模様タイル、紋のついた日本の着物を展示し、モノグラムの誕生の"秘密"にたっぷりとスペースを割いている。モノグラムの考案は2代目ジョルジュのアイデアである。グレーのトワル"グリ・トリアノン"で覆ったトランクがあまりにも模造されたので、それでは誰も真似のできない模様を!と。
会場では、モノグラム誕生秘話が明かされる!?
© Louis Vuitton / Patrick Galabert
持ち主のイニシャルを入れてパーソナライズした1925年製のトランク。
©Louis Vuitton / Naotoka Kumagai
20世紀のリッチな趣味人のひとり、シャルル・ド・ベストゥギ。旅先のスティッカーで覆われた彼のトランクは、旅日記も兼ねているよう。ストライプのトランクは、彼が生まれる前に作られていたものだ。
©Louis Vuitton / Antoine Jarrier
ルイ・ヴィトンのトランクの好評の理由は、技術の革新がもたらすハイクオリティはもちろんのこと、さらに時代を先読みしたクリエイティヴィティということがいえる。すばらしいトランクの歴史は、移動手段の変遷に等しいのだ。馬車の旅の時代には雨をはじくように蓋を膨らませたトランクだったが、船の旅の時代を予見してデザインしたのは上が平らなトランク、そして自家用車の旅には・・・・・・という具合に。この展覧会ではこうした旅行用のハードトランクに加え、帽子ケース、化粧道具ケース、ティーケースなど過去のラグジュアリーなスペシャルオーダーも見ることができる。その中には、アニエールにあるルイ・ヴィトンのアトリエの150周年の記念のコラボレーションとして、現代アーティストのダミアン・ハーストが2009年に注文した外科医手術道具を納めるトランクも。迫力あるブルーと黒のトランクは、見応え十分。
1911年に製作されたクチュリエ、ポール・ポワレのトランク。水玉(ポワ)と線(レ)の判じ絵で彼の名前が描かれている。
©Louis Vuitton / Patrick Gries
左:バローダのマハラジャの特別オーダーのティーケース。1926年製。右:ジャンヌ・ランヴァンによる1925年の化粧道具入れ。
©Louis Vuitton / Patrick Gries
ダミアン・ハーストの特別オーダーがこれ!
© Louis Vuitton / Patrick Galabert
なお、この展覧会を記念して、『100 Legendary Trunks』が発売された。伝説のトランク100点をまとめた本は、眺めているだけで旅に出られる。アーム・チェア・トラベラーの書棚に欠かせぬ1冊となりそう。
1896年に誕生したオリジナルのモノグラム・キャンバスの上にホテルラベルが貼られた豪華ハードカバー付きのデラックス版はルイ・ヴィトンの店舗、またはlouisvuitton.com上でのみ販売。日本語版『伝説のトランク100 ―ルイ・ヴィトン―』も11月20日より発売。¥26,250(税込)
© Louis Vuitton
496ページからなる本には、イラスト、写真が満載。
© Louis Vuitton archives / MICH
開催中~2011年2月27日
Musee Carnavalet
23, rue de Sevigne 75003 Paris
Tel 01 44 59 58 58
開)10時~18時
閉)月、祭
料金:7ユーロ
http://www.carnavalet.paris.fr