Culture 連載
Dance & Dancers
フィンランドのダンスカンパニー、テロ・サーリネン・カンパニーの
日本初上陸公演『MORPHED-モーフト』
Dance & Dancers
ダンスは、時として自分でも知り得なかった自分、を発見させてくれることがある。今まで眠っていた感覚をゆさぶり起こし、新たな自分の感覚・想像力に灯をともすのだ。わざわざ遠くへ旅立たなくても、未知の世界へと運んでくれる、そういう点では他の舞台芸術や小説などにも共通する部分は多いけれど、あえて他の芸術表現と違う点を述べるとしたらそれは、音楽や空間を駆使したトータルな演出で創られたものである、という点ではないだろうか。
■人間としての"深さ"をダンスを通して培う、フィンランド文化
来日する海外ダンスカンパニーの公演を観る愉しみは、まさにここにある。異なる環境・文化の中で自然に培われてきた感性が軸になっていれば当然、表現のモチーフやアプローチも異なっているだろうし、反対に文化を超えて共通する概念などを発見できた時の感慨深さも、ひとしおである。
今回初来日を果たす、テロ・サーリネン・カンパニーの公演が楽しみな理由も、ここにある。

photo:Heikki Tuuli
テロ・サーリネン・カンパニーは、フィンランドを代表する振付家、テロ・サーリネンが率いる、ヘルシンキのアレクサンダー劇場・終身専属カンパニー。国境を越えヨーロッパ中から注目を集める、ダンス・カンパニーである。フィンランド国内の名だたる賞をはじめ、フランス文化省などからも受賞・表彰を受けている。興味深いのは、このカンパニーが理念として掲げている「ダンスという身体表現を通じて普遍的な人間としての価値を高めることを目指す」ということ。自らの体を通してさまざまな事象に対する理解を深めることが、生きる上でいかに大切であるか―。情報、とりわけ(書いて字のごとく)表層的にキャッチできる視覚情報の洪水に晒されている現代人にとって、改めて大切なことではなかろうか。そうした意味で、このカンパニーがフィンランド教育・文化省及びヘルシンキ市から支援を受けている、ということにも注目したい。
■ダンサー・振付家、テロ・サーリネンとは?
テロ・サーリネンは、フィンランド国立バレエ団でバレエダンサーとしてのキャリアを積んだ後、西洋のコンテンポラリーダンスはもちろん、大野一雄のもとで舞踏を、日本舞踊なども学び、独自の舞踊表現を模索。テロ・サーリネン・カンパニーを1996年に設立し、自身のカンパニーだけでなくネザーランド・ダンスシアターⅠ、バットシェバ舞踊団、リヨン・オペラ座バレエ団、フランス国立マルセイユバレエ団、スウェーデン/ヨーテボリ・バレエなどなど世界の著名なダンスカンパニーやバレエ団から作品を委嘱されている。幅広い身体表現から吸収した知識・感覚を活かした特有のバランス感覚で語られる身体言語を核に、空間演出による視覚効果、ライブ演奏による音楽との融合も、高く評価されている。

photo:Mikki Kunttu
■男性だからこそ表現できる、生命力と躍動感溢れるエモーショナルな世界
今回のカンパニー初来日公演で上演される『MORPHED-モーフト』は、2014年のヘルシンキ・フェスティバル(絵画、アート、音楽、ダンスなど多彩な芸術を街中で上演するヘルシンキ最大のアートフェスティバル)で初演されたもの。カンパニーの男性ダンサーだけで表現されるこの作品は初演されるや否や大きな反響を呼び、"地を揺るがすような経験だった""どの人間も他人と分かち合うであろう感情について、ダンサーたちは多様で深遠な表現でそれを我々に見せてくれた"などとマスコミで評価されている。
この作品でコラボレーションしている作曲家で指揮者のエサ=ペッカ・サロネンはこう言っている、「私にはこの作品が男性のアイデンティティを扱っているように感じられました。男の人生。男性にとってのミッド・クライシス、人生にはいつか終わりが来るという現実を自覚することです」と。

テロ・サーリネン。photo:Tania Ahola
彩の国さいたま芸術劇場の同じ公演のインフォメーションではこの作品のプロモーション映像もアップされているが、エサ=ペッカ・サロネンの音楽、中でも『ヴァイオリン協奏曲』に、男性ならではのたくましく鍛え上げられた肉体がからむように挑んでいるのが印象的だ。加えて、男同士の身体が、舞台美術のロープが、からみ、反発し合い、やがて融合していく。さながら、ロープが風か嵐のようにも見え、男性たちの身体は宿命のようなそれと拮抗したり、受け入れたり......。そこには男性ならではの硬質さと、エモーショナルさが独自の哲学的世界を描き出しているようにも思える。
厳しくも美しい北欧という特殊な環境が、気持ちを自然と心の内側へと向かわせるのかもしれない。などと、想像しつつ、今回の来日公演ではどんな異文化と出会え、共感できるのか、楽しみにしているひとりである。
●テロ・サーリネン・カンパニー『MORPHED-モーフト』
日程:2015年6月20日(土)、21日(日) 15:00〜(全2回公演)
会場:彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
料金:〈一般〉S席¥5,000、A席¥3,500 〈U25〉S席¥3,500、A席¥2,000
問い合わせ先:彩の国さいたま芸術劇場チケットセンター Tel.0570-064-939
www.saf.or.jp/