必見、川久保玲にフォーカスした、メトロポリタン美術館の展覧会。
Fashion 2017.05.09
ドキュメンタリー映画『メットガラ ドレスをまとった美術館』の原文タイトルにもなった「The First Monday in May」(5月の第一月曜日)は、ファッション界にとって、一年のうちでもっとも重要な日のひとつ。去る5月1日(月)、ニューヨークのメトロポリタン美術館を会場に、世界各地から招待された俳優、モデル、ファッションデザイナーなどのセレブリティが大集合した華やかなメットガラ(コスチューム・インスティテュート・ベネフィット)が開かれ、その様子は瞬時に世界中にSNSなどを通じてシェアされたので、すでにご存じのひとも多いはず。
そのメットガラ後、5月4日(木)から、メトロポリタン美術館のコスチューム・インスティテュートが開催するのは、「Rei Kawakubo/Comme des Garçons Art of the In-Between」だ。「in-betweenness ー 境界線を超越するもの」をテーマに、コム デ ギャルソンを率いる川久保玲のクリエイションを検証する内容となっている。存在の内部、あるいは存在と存在の中間 ー 自己/他者、客観/主観、ファッション/アンチファッション ー に身を置く川久保玲の作品は、美やテイスト、そして突き詰めればファッション性というものの既成概念に大きな変革を迫る。本展覧会は、従来の回顧展ではなく、ひとつのテーマ展として、コスチューム・インスティテュートが、1983年のイヴ・サンローラン以来初めて開催する現役デザイナーの個展となる。それだけ川久保玲の軌跡は、ファッション界において異端であり、革新的であり、ひとの目を惹きつけずにはいられないものであるという証拠だろう。
Rei Kawakubo(Japanese, born 1942)for Comme des Garçons(Japanese, founded 1969); Courtesy of Comme des Garçons.
Photograph by ©︎Paolo Roversi; Courtesy of The Metropolitan Museum of Art
毎シーズンのコレクションで、テーマやインスピレーション源を語ることもなく、ほとんどインタビューを受けることもない、寡黙なこのデザイナーは、欧米の美的価値基準がスタンダードとなっているファッション界にとっては、神秘的で、不可解で、その短い受け答えは、ときに禅問答のようだ。それでもなお絶大な尊敬を集めているのは、川久保玲が誰もなし得なかったことー、それは1980年代、黒のパレットにより「無」の概念を表現したり、特大サイズの服によって表現された「間(ま)」の概念だったり、もはや伝説となった1997年春夏の「ボディ・ミーツ・ドレス ー ドレス・ミーツ・ボディ」コレクション(通称「こぶと腫瘍」コレクション)で、世間の度肝を抜いたりーを、たったひとりで成し遂げ、今なお情熱的に新たな挑戦・実験を試みているからだ。
「アートとファッションの境界を取り払うことを通して、川久保さんは私たちに服に対する意識改革を促します」とメトロポリタン美術館の館長であり、CEOのトーマス・P・キャンベルは語っている。「(当館学芸員の)アンドリュー・ボルトンがキュレートする、しばしば彫刻のように見える作品を集めるこの展覧会は、現代文化におけるファッションの役割について、私たちの考えに大きく変革を迫るものとなるでしょう」。コスチューム・インスティテュート主任学芸員のアンドリュー・ボルトンも「川久保玲は過去40年間において、もっとも重要かつ大きな影響力を持つデザイナーです」と語り、「ファッションを常に創造、再創造、異種交配を繰り返し継続していく場として提示することにより、川久保さんは現代の美意識を定義してきました」と述べる。
Rei Kawakubo(Japanese, born 1942)for Comme des Garçons(Japanese, founded 1969), Body Meets Dress - Dress Meets Body, spring/summer 1997; Courtesy of Comme des Garçons.
Photograph by ©︎ Paolo Roversi; Courtesy of The Metropolitan Museum of Art
本展覧会では、川久保玲がパリでショーをスタートした1980年初期から最新コレクションまで、コム デ ギャルソンのレディースウェアから約140点をセレクト。「Fashion / Anti-fashion」「Design / Not design」「Model / Multiple」「Then / Now」「High / Low」「Self / Other」「Object / Subject」そして「Clothes / Not Clothes」という8つのセクションに分けて展示する。自身のデザインを東洋/西洋、男性/女性、過去/現在といった二極性の内部、あるいはその中間に置くことによって、川久保玲はそうした人工的に作られ、硬直化した二元論を覆そうとするだけでなく、それを分解し、溶解させてしまう。こうした側面を反映するために、衣装を展示するボディーは、展示物と観客の間に物理的なバリヤを設けず、観客の目線に合わせて設置し、観客と展示物との間の通常の距離をなくすことを試みている。
秋までにニューヨークを訪れる予定があるなら、ぜひこの展覧会を訪れて、服を通じながらも、ファッションという枠を超越し、私たちの凝り固まった既成概念に大きな衝撃を与える作品を実際に目撃してほしい。いや、この展覧会を観るためにニューヨーク旅行を計画してもいい。それだけの価値があるものだからだ。
Rei Kawakubo(Japanese, born 1942)for Comme des Garçons(Japanese, founded 1969); Blood and Roses, spring/summer 2015; Courtesy of Comme des Garçons.
Photograph by ©︎ Paolo Roversi; Courtesy of The Metropolitan Museum of Art
Rei Kawakubo(Japanese, born 1942)for Comme des Garçons(Japanese, founded 1969), 18th Century Punk, autumn/winter 2016-17; Courtesy of Comme des Garçons.
Photograph by ©︎ Paolo Roversi; Courtesy of The Metropolitan Museum of Art
Rei Kawakubo(Japanese, born 1942)for Comme des Garçons(Japanese, founded 1969), Cubisme, spring/summer 2007; Courtesy of Comme des Garçons.
Photograph by ©︎ Craig McDean; Courtesy of The Metropolitan Museum of Art
Rei Kawakubo(Japanese, born 1942)for Comme des Garçons(Japanese, founded 1969), Inside Decoration, autumn/winter 2010-11; Courtesy of Comme des Garçons.
Photograph by ©︎ Craig McDean; Courtesy of The Metropolitan Museum of Art
Rei Kawakubo(Japanese, born 1942)for Comme des Garçons(Japanese, founded 1969), The Infinity of Tailoring, autumn/winter 2013-14; Courtesy of Comme des Garçons.
Photograph by ©︎ Collier Schorr; Courtesy of The Metropolitan Museum of Art
●関連する記事:『メットガラ』ファッションは芸術たり得るか?
Rei Kawakubo / Comme des Garçons Art of the In-Between
(川久保玲/Comme des Garçons 間(はざま)の技)
会期:~2017年9月4日(月)
会場:The Met Fifth Avenue(1000, Fifth Avenue, NY)
Tel 1-212-535-7710
開館時間:10:00~17:30(日~木) 10:00~21:00(金、土)
入館料:大人25ドル
http://www.metmuseum.org/
texte:NATSUKO KADOKURA