美しい服の理由。 永遠のミューズに捧げたディオールのコレクション。

Fashion 2021.11.10

一着の服によってもたらされる高揚感や喜びは、何ものにも代えがたい。その服に込められた力は、いったいどこから来るのだろう。クリエイションの原点やメゾンのアティチュード、ものづくりの哲学など、私たちが愛してやまないファッションの物語を紐解いてみよう。今回は、ディオールの話。

DIOR
[ とある女性の佇まい ]

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2021AWコレクションにインスピレーションを与えた、ミッツァ・ブリカールという女性のスタイル。端正なドレスシャツ、アイコニックな「バー」ジャケット、チュールのスカートから透ける露わな肌……。スタイルの仕上げに、レオパードのスカーフを頭に巻き、絶対的なエレガンスを纏って。ジャケット¥572,000、シャツ¥165,000、チュールスカート¥638,000、ショーツ¥121,000、頭に巻いたスカーフ¥58,300、首に巻いたスカーフ¥29,150、ネックレス¥132,000、ニーハイブーツ¥223,300/以上ディオール(クリスチャン ディオール)

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ミッツァ・ブリカールの物語

クリスチャン・ディオールのオートクチュール界における10年間。その成功の裏に、写真家セシル・ビートンの表現によるところの「運命の三美神」の存在があった。ふたりが技術面で彼を支え、3人目の女性は彼にインスピレーションを与えるミューズだったのだ。その見事な色彩のセンス、巧みな小物使い、裏地に至るまで細部への拘り……彼は彼女に絶対的信頼を置いていた。

「エレガンスを唯一の存在理由にしている、いまどき稀に見る女性」—— 彼がこう書き残したそのミューズとはミッツァ・ブリカールである。メゾンの集合写真でも、ショーのリハーサルでも常にムッシュの隣にいるのが彼女。それも、まるでオートクチュールの顧客のようなアリュールで。ミッツァは彼の意見に真っ向から反対することもできた。そのエキセントリシティと繕わない所にも彼は惹かれていたらしい。

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ヴェールでミステリアスに顔を覆い、豹の毛皮をまとってポーズをとるミッツァ・ブリカール。「洗練された女性であればあるほど似合う」と、クリスチャン・ディオールがレオパードモチーフについて生前語っていた言葉が、セシル・ヴィートン卿が撮影したこの写真に重なる。

ディオールとアーティスト仲間たちとの集いが、彼女と彼の出会いの場だったそうだ。芸術を含め、教養あふれる女性だったと、かつての同僚も証言している。1900年、パリに生まれた彼女がいつ、なぜ本名ジェルメーヌ・ルイーズからミッツァと名乗るようになったのか、最初の結婚相手は本当にロシアのプリンスだったのか、手首に巻いたシルクのスカーフの下には秘密が隠されている……など、彼女の生い立ちも私生活も謎に包まれたままだ。

以前はクチュールメゾンMolineux(モリヌー)で働き、ディオールのメゾンではクチュリエのミューズでもあり、また帽子のデザインも任されていた。オテル・リッツに暮らし、仕事場に姿を見せるのは正午をまわってから、といった伝説を持つさそり座の女ミッツァ。レオパード柄を自分のシックな装いに好んでいたのは確かなことで、ヴェール付きのレオパードのターバンは、ディオールと仕事をする時も彼女の頭に。彼がオートクチュール界で初めてこのアニマル模様をとりいれたのも、ミッツァの存在があってのことだ。1947年、彼の初のショーで発表された花冠シルエットのシルクシフォンのドレスに、豹の斑点が優美に揺らめいていた。

ホルストやルイーズ・ダール・ウォルフといった1950年代の花形写真家が彼女を被写体に選んでいるが、なかでも彼女のすべてが込められて入るのが当時のセレブリティの誰もが撮影されたいと切望したセシル・ビートンによるモノクロ写真だろう。美しい顔立ち、パーフェクトなアイメイク、官能的な唇、しなやかな指先、グラマラス、近寄りがたいほど圧倒的な存在感、ミューズ然としたオーラ……。レオパードのファーコートを纏い、華奢な首から常に大きくはだけていた胸元へと流れ落ちているのは、豊かなジュエリーコレクションの中でも特にお気に入りだったという何連ものパールのネックレス。「豪華で洗練されたもの。彼女はこの唯一の原理にのみ忠実である」と、ディオールが評したミステリアスな女豹がそこにいる。

彼女は彼亡き後も、メゾンのクリエイションに影響を与え続けている。ジョン・ガリアーノ、ヴィクトワール・ドゥ・カステラーヌ……。今年、フォール 2021で、マリア・グラツィア・キウリは彼女を讃えたコレクションを発表した。鋭い眼光のレオパードが静かに優雅に這い歩くように、モンテーニュ通り30番地のメゾンのいたるところに、ミッツァのエスプリがいまも漂っているのだろう。

●問い合わせ先:
クリスチャン ディオール 0120-02-1947(フリーダイヤル)

*「フィガロジャポン」2021年10月号より抜粋

photography: Mitsuo Okamoto styling: Tamao Iida hair: Yusuke Morioka (Eight Peace)  makeup: Nobuko Maekawa (Perle Management) text: Mariko Omura

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