ウクライナに思いを馳せて......バレンシアガ、感極まるファッションショー。
Fashion 2022.03.07
まるで吹雪の中での避難行のような演出のなか、モデルたちがランウェイを歩く。バレンシアガのデムナは明らかに、今回の秋冬コレクションをウクライナに捧げている。
ショーの開始1時間前、バレンシアガのデムナ(現在はプライベートでしか苗字を名乗らないことにしているそうだ)はインスタグラムに、「このショーは説明不要です。勇気、レジスタンス、そして愛と平和の勝利に捧げます」という言葉で始まるメッセージを投稿した。ウクライナ侵攻が始まって以来、デムナはバレンシアガのインスタグラムアカウントにウクライナの国旗の画像だけを掲げ、難民への食糧支援をする国連WFP(世界食糧計画)への寄付を呼びかけるなど、立場を鮮明にしている。ジョージア出身で、1990年代に祖国の戦乱を逃れた体験を持つだけに、おそらくウクライナ侵攻に最も心情的に肩入れしているファッションデザイナーと言えよう。今回のショーをキャンセルすることもデムナの頭をよぎったそうだ。しかし、キャンセルすることは、これまでも苦しめられてきた悪に屈服し、譲歩することだと考え直し、ショーを決行した。
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吹雪の中の黒
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午前11時のコンコルド広場。バットマンが乗るバットモビールさながらの形をしたテスラにゲストたちが乗り込むと、車の列はバレンシアガの2022-2023年秋冬コレクション会場のル・ブールジェのコンベンションセンターに向かった。天気も良く、明るい気分で到着した観客を待ち受けていたのは厳寒の会場だった。広い円形の建物内のランウェイは雪に覆われている。会場内では女優のアデル・エグザルホプロスやルイーズ・ブルゴワン、歌手のイズーやアヤ・ナカムラ、テレビドラマ「ユーフォリア/EUPHORIA」で有名なアレクサ・デミーらの姿が見えた。ちょっと離れたところではキム・カーダシアンがバレンシアガのロゴ入りガムテープをベタベタ貼ったような黄色のジャンプスーツ(このルックはショーに登場した)を着ており、イザベル・ユペールとサルマ・ハエックが青と黄色のビッグTシャツが置かれた座席に座っていた。
デムナの声でウクライナの詩が朗読されるとピアノ曲「The Ghosts of Lonely Destinies」が流れ、ショーが始まった。2列目に座っていた女性が泣き出した。ランウェイを囲むガラスの壁の向こうでモデルたちが吹雪の中、風にあおられながらとぼとぼと進んでくる。男性も女性も、手にはゴミ袋のような大きなバッグを持っている。女性はアシンメトリーな袖がついたフリュイドロングドレスやラテックススーツにパンプス、男性はフードがついたビッグコードにヒールのあるフィッシャーマンズブーツ。白い雪に映るシルエットの黒さが強い印象を残した。
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再解釈されたアイコニックなシルエット
バレンシアガにお馴染みのサングラスやニーハイブーツ、ゴールドのForce Bイヤリング、Hourglassバッグなどが登場、その一方でダブルウェスタンブーツが特異な存在として打ち出される。弁護士の法服のようなビッグブラックドレス、花柄プリントのオーバーオール。オーバーサイズもスリムラインも登場するが無論、従来とは異なる読みが必要だ。いつものようにデムナはブランドを象徴するシルエットをリデザインし、再解釈する。タートルネックのトップスやパーカーは、部分的にダメージ、縮小、伸ばし加工がされている。バレンシアガのロゴ入りガムテープのようなものがバギーパンツやオーバーコートのベルトとして使用され、ジャケットやトレンチコートは、丸めて持ち運びしやすいようにシワ加工を施してある。
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青と黄色の旗
中盤からはスポーツウェアとテクノ色が強まった。「Be Different」と書かれたスウェットシャツに目が行く。さらにデニムのトータルルックの女性モデルでは、ジーンズを加工して作ったトップスに注目が集まった。そして伸縮性ニット製のシンプルなタオルをスカーフのように体に巻きつけた男性モデル。全体的にエモーショナルだったショーの最後で感動のレベルがさらにアップした。ジャケットとトレーニングウェアで全身黄色の男性モデル、巨大なトレーンが付いたロングサックドレスで全身スカイブルーの女性モデルが登場し、ラストルックを飾ったのだ。黒や白を経ての黄色と青が何を意味するか、説明は不要だろう。
text: Marion Dupuis (madame.lefigaro.fr)