モンテーニュ通り30番地、ディオールの夢の城を訪ねて。

Fashion 2022.04.20

1946年12月15日、クリスチャン・ディオールはこの場所にオートクチュールメゾンを開いた。それから75年を経た現在、伝説のアドレスが21世紀の衣を纏って蘇った。アトリエ、ブティック、レストラン、ギャラリー……。ディオールのすべてがここに集結する。

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Dior-30_montaigne-04.jpg© CHRISTIAN DIOR
モンテーニュ通り30番地の邸宅から出発したメゾンは、ニュールックの成功とともに32番地とフランソワ・プルミエ通りの建物に拡大。1953年当時のパンフレットに使用されたデッサン。

Dior-30_montaigne-02.jpg© Association Willy Maywald / ADAGP, Paris, 2022
30番地のサロンで行われていたオートクチュールのショー。椅子席のゲストに加え、階段にもぎっしりとメゾンにゆかりの人たちが詰めかけた。1950年頃の写真には、ムッシュ ディオールの友人だったジャン・コクトーも。

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Diorama

ラ ギャラリー ディオールのエントランス。3階に向かう真っ白な螺旋階段の周囲をぐるりと囲むディオラマに息をのむ。ドレスに帽子、バッグ、靴、香水瓶……。実際のクリエイションから3Dプリントで作られたミニチュアのオブジェたち。階段を上るに従って、白から赤、イエロー、ブルー、パープルからグレー、さらには黒へ色彩を変えるディオラマは、訪問者を次第に夢の世界へと没入させていく。「これは、ディオールが創り出した驚くべき作品の量を表現しています。ディオラマの魔法がディオールのクリエイションの扉を開く。扉の向こうには歴史遺産である実物の作品が展示されているのです」とセノグラフィを手がけたナタリー・クリニエールは語る。見学者をディオールの世界に誘い込む、広大なイメージ空間だ。

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La Galerie Dior
メゾンの歴史とスタイルを堪能できるギャラリーの魅惑。

ディオラマに迎えられて螺旋階段を上ると、そこは創設者クリスチャン・ディオールの世界。彼の物語と代表作を筆頭に、ここから75年にわたるメゾンのクリエイションが繰り広げられていく。創設者が情熱を傾けた庭をテーマにした展示室「魔法の庭園」で花のドレスに溜息をついたら、「アリュール ディオール」で歴代アーティスティック ディレクターとともに時代を遡る。次に現れるのは、ムッシュ ディオールのオフィスとオートクチュールのキャビン(楽屋)だ。まるでフィルムを逆回ししているような構成が、メゾンの過去と現在を体感させる。真っ白なトワルに囲まれた「夢のアトリエ」ではオートクチュールアトリエの職人による手仕事も披露。「パリ」「舞踏会」「ミス ディオール」など、テーマ別の13の展示室が、メゾンの物語をさまざまな角度から語りかけてくる。

 

Le Bal Dior
ムッシュ ディオールは、子どもの頃から仮面舞踏会に魅せられていた。シーズンごとに彼が世に送り出したドレスは、まさにオートクチュールの夢を形にしたもの。そのエスプリはもちろん後継者にも引き継がれ、マリア・グラツィア・キウリも、初めてのオートクチュールで仮面舞踏会にインスパイアされたコレクションを発表した。以来、毎シーズン美しいドレスが発表されている。高い天井を生かした展示室では、天使の舞う絵画から雲の浮かぶ空、星座の輝く夜空など、多彩に表情を変える幻想的なプロジェクションを背景に、ディオールのドレスが舞踏会を繰り広げる。歴代クリエイションが一堂に会し、時代を超えたディオールのスタイルを体感できる空間だ。

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L’Allure Dior
マリア・グラツィア・キウリ、ラフ・シモンズ、ジョン・ガリアーノ、ジャンフランコ・フェレ、マルク・ボアン、そしてイヴ・サンローラン。創設者を引き継いだ歴代アーティスティック ディレクターの作品が、ポートレートとショーの写真の投影されるスクリーン前に並んでいる。現代から過去へと時を遡ると、目の前に創設者のオフィスが現れる。当時のままに再現された仕事机に座るムッシュ ディオールの姿が容易に想像できる。

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Dior-30_montaigne-07-3.jpg© SIPA
1947年にオープンした小物ブティック「コリフィシェ」。トワル ドゥ ジュイを壁にめぐらせた装飾は、マリア・グラツィアの現在のコレクションにも通じる意匠だ。

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Les Jardins Enchantés
ムッシュ ディオールとメゾンの創生期を語る最初の展示室「クリスチャン・ディオール1905–1957」に続き、夢の世界に見学者を誘うのは、「魔法の庭園」。ムッシュ ディオールの花への愛は、ノルマンディのグランヴィルで育った子ども時代に生まれた。それは彼のクリエイションに大きなインスピレーションを与え、初期には花びらのように膨らんだスカートに代表される「ファム フルール」のシルエットを生む。シルエットだけではない。プリント、刺繍、布地による造形まで、花をモチーフにした表現は、メゾンのスタイルを語るに欠かせないテーマ。歴代アーティスティック ディレクターの手によって、時を超え、場所を変え、常に見えない糸のようにクリエイションを繋ぎ続けてきた。展示では、紙細工の花々をちりばめて昼の庭園、夜の庭園を演出。ライティングの微妙な動きで、ドレスはまるで庭園を散策する女性たちのような生き生きした表情を見せる。

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Les Ateliers du Rêve
下のモノクロ写真は1950年頃のアトリエの様子。壁際には顧客の体型に合わせて補正したボディがずらりと並び、作業台ではたくさんのお針子たちがせっせと縫い針を進めている。かつてムッシュ ディオールが「蜂の巣」と呼んだアトリエは、夢のドレスが生まれる場所。リノベーションを終えた30 モンテーニュには、フルー(ドレス)とタイユール(テイラード)のオートクチュールアトリエが戻り、ハイジュエリーのアトリエも加わった。「夢のアトリエ」の展示では、オートクチュールのルックの最初のトライアルである白いキャンバス地の“トワル”と、ムッシュ ディオールによるデザイン画に囲まれて作業台が置かれ、実際に職人が仕事をしにやって来る。半透明の天井には、まるですぐ上の階で人が歩いているように足跡の投影がある。それは、この場所に本当にアトリエが存在し、職人が働いていることを感じさせるためのイリュージョンなのだ。

Dior-30_montaigne-12.jpg© Bellini

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Paris
「パリの空気はクチュールの空気だ」と、ムッシュ ディオールは語っている。パリとパリジェンヌは、彼にとって尽きることのないインスピレーション源。パリジェンヌのプティットローブノワール(黒いプチドレス)をスタイルのマニフェストだと見なしていた彼は「昼の女王たち。栄光、ミューズ。私たちが望み、愛し、崇める女性たち。エレガントな女性たち。“パリジェンヌ”……」という言葉も残している。オットマン、レース、レザーなど、さまざまな表情を見せる黒、ミッドナイトブルーやパープルのドレスたちは、シックなカクテルソワレを思わせる。エッフェル塔やサクレクールが光のラインで浮かび上がるパリの夜景のデザインを背景にして展示されている。

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Au Coeur de la Création
ムッシュ ディオールの時代の姿のまま扉を閉ざされ、手つかずで残されていたキャビン(楽屋)。30番地のサロンでオートクチュールのショーが行われていた時代、モデルたちはここで準備をし、着替えてサロンへと歩みを進めた。決して広くないキャビンゆえに、ボリュームのあるドレスは中2階に収納され、下にいるモデルたちに上から手渡されたという。下のモノクロ写真は1957年春夏オートクチュールコレクションの様子。トリアノン ドレスの着用を準備中のモデルのドゥニーズが、中2階からパンプスを受け取っているのがわかる。このキャビンが残されていたフロアはブティックのある2階だったので、ギャラリーの展示順路のどこに入れ込むかが悩みどころだった。ナタリー・クリニエールは「3階のムッシュ ディオールのオフィスと一緒に見せたかったので、床に開口を設けてガラスをはめ込み、上から覗き込んでもらうことにしました」とレイアウトの工夫を語った。

Dior-30_montaigne-09-2.jpgCredits: © Jacques Rouchon / Roger-Viollet

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Boutique & Restaurant
「店」の定義を超えて、ここは「ディオールの家メゾン」

「この場所を作ったのはムッシュディオール。私たちは彼の“メゾン(家)”にいるのです」
ラ ギャラリー ディオールのセノグラフィを担当したナタリー・クリニエールはそう語る。モンテーニュ通り30番地に生まれ、隣接する建物を加えて現在の姿になったディオールの本拠地。75年を経て刷新されたこのアドレスには、ドレスを縫い上げるアトリエがあり、ブティックがあり、歴史を展示する場所がある。そんなグローバルなプロジェクトの中でナタリーがディレクションしたのは、ディオールのメゾンであることを感じさせる親密なギャラリーだ。

作品は見学者と同じ高さに展示されている。その等身大の感覚が親近感を生む。あちこちにムッシュ ディオールの言葉が飾られ、歴代アーティスティック ディレクターたちの声も流れる館内には、ディオールの哲学を示す名言にあふれている。
「展示の中で″声”に出合えることにより、メゾンが生きてきた歴史、これからも生き続けていくことを感じてほしい。またムッシュ ディオール自身の言葉が語られることも大事です。ここは彼のメゾンですから」
メゾンの中心は、キャビン(楽屋)と創設者のオフィス。
「ムッシュ ディオールのオフィスがあることで、彼がここに現れるのを待っているような空気が生まれます。当時のままのキャビンも、私たちがいま、彼のメゾンにいると感じるための大事な構成要素なのです」

Dior-30_montaigne-14.jpgいまやシンボルとなったトワルの並ぶ壁と螺旋階段。

創業時代から受け継がれるエスプリを感じさせる場所がギャラリーなら、伝統と革新を融合し、エレガントでありながらダイナミックないまを体現したのがブティック。19世紀の邸宅の流れを汲む新古典様式と現代のピュアなラインの融合は、建築家ピーター・マリノの仕事だ。

Dior-30_montaigne-13.jpg2階のプレタポルテ、ドレスのコーナー。どの部屋も趣を違えていて、ピーター・マリノの選んだ家具やアートが花を添える。

メインエントランスを入ると、目の前に現れるのは、明るく広々したスペース。奥には緑あふれる中庭があり、螺旋階段を囲んで、いまやシグネチャーとなった白いトワルのインスタレーションが出迎えてくれる。2フロアにわたるブティックは、ウィメンズとメンズのプレタポルテから、小物、ジュエリー、テーブルウェア、フレグランスにコスメティックとコーナーごとにインテリアの趣を変えている。ピーター・マリノは、家具はもちろん、現代アーティストの個性的なアート作品をセレクトし、各コーナーに展示している。

Dior-30_montaigne-17-1.jpg創設者が愛したリンゴの木とバラのある庭園は4階に。

Dior-30_montaigne-17-2.jpg© JOEL ANDRIANOMEARISOA
ブティックにはいたるところにアートが飾られ、ソファや肘掛け椅子のコーナーも豊富。

Dior-30_montaigne-17-3.jpg1階の中庭はパティスリーバー。

中庭を望む1階と2階に、レストランとパティスリーがあるのも見逃せない。パリで最も話題のシェフ、ジャン・アンベールが提案するのは、グルマンだったムッシュ ディオールにちなんだメニュー。彼はヘリテージ部門に通い、ムッシュの著書『La Cuisine Cousu-main(手縫いの料理)』や、故郷ノルマンディの味やメゾンのコードを解釈して、伝統と現代が溶け合うこのアドレスにふさわしい料理を提供する。ディオールのロマンティックなテーブルウェアで楽しむ食事も、パリ好きにとって旅のメインの目的になりそうだ。

Dior-30_montaigne-15.jpgレストラン「ムッシュ ディオール」を率いるのは、今年プラザアテネで1ツ星を獲得したジャン・アンベール。ギ・リモーヌが考案した赤い壁は、ディオールのアーカイブとアーティスト所蔵ビジュアルから数千の画像を組み合せたオマージュだ。

Dior-30_montaigne-16.jpg料理は右から、ムッシュ ディオールのシンボル、星をかたどったショコラのスイーツ「Tarte au Chocolat」、彼がドーヴィルで初めて食べたという好物のキャビアを加えた卵料理「OEuf Christian Dior」、ムッシュの故郷ノルマンディでたくさん水揚げされるヒラメの一皿「Turbot à la Cubaine」

Dior-30_montaigne-18.jpg© BRIGITTE LACOMBE

Nathalie Crinière / NC Agency を主催する内装、展示デザイナー。世界中の著名美術館で展覧会のセノグラフィを多数手がける。『クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ』展の装飾も担当。

30 Montaigne
30 モンテーニュ

30-32, avenue Montaigne
75008 Paris
www.dior.com/fashion/stores/en_int/france/paris/30-avenue-montaigne

ブティック:
tel: 33-(0)1-57-96-19-47
営)10:00〜20:00(月〜土)11:00〜19:00(日)
無休

レストラン ムッシュ ディオール:
tel: 33-(0)1-40-73-53-63
営)11:30〜20:00(日曜~19:00)

ラ ギャラリー ディオール:
11, rue François 1er 75008 Paris
tel: 33-(0)1-82-20-22-00
営)11:00〜19:00(入館は17:30まで)
休)火、1/1、5/1、12/25
料)一般12ユーロ

*「フィガロジャポン」2022年6月号より抜粋

photography: Adrien Dirand, Andrea Cenetiempo, Charles Negre, Kristen Pelou editing: Masae Takata (Paris Office)

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