芸術と手仕事が対話するディオールのオートクチュール。

Fashion 2022.07.16

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ベージュや生成りのベースに、黒や緑の糸がわずかに混ざるもののほぼ同系色の糸で手仕事が施されたコレクション。©︎Laure Sciacovelli

7月4日、ロダン美術館にてディオールの2022~23年秋冬オートクチュール・コレクションが発表された。マリア・グラツィア・キウリが今回コラボレーションをした女性アーティストは、1982年にウクライナに生まれたOlesia Trofymenko(アレシア・トロフィメンコ)だ。キエフの国立美術建築アカデミーで学んだ彼女は、現在もそこに暮らし、芸術活動を続けているという。絵画と刺繍を組み合わせて描いた彼女の作品「生命の木」を見たマリア・グラツィアはそれをこのクチュールコレクションの出発点とし、またロダン美術館の庭園内のショー会場のセットデザインも彼女に依頼した。ウクライナの伝統に刻まれた要素と記憶をトロフィメンコが本質的でパーソナルな表現法で織り交ぜて作り上げたウクライナの風景は、インドのチャーナキア工房とその工芸学校の刺繍によって描かれたブーケと交互に並べられて、新しい神話の世界が会場に築かれたようだった。

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左:パリ7区、ロダン美術館の庭園に建てられたショー会場。右:トロフィメンコの作品とチャーナキヤ工房のサヴォワールフェールが共鳴した会場内。photos:Adrian Dirand

トロフィメンコの「生命の木」はコレクションのエンブレムとしてさまざまなルックに登場。「空を支え、枝や根を通して地球と空を繋げるように、生命の木はすべての形式のクリエイションの橋渡しを担います」とマリア・グラツィアは語っている。発表されたコレクションの68体のシルエットには、生命の木の枝、幹、そして根は、時間をかけた手仕事でさまざまな方法で落とし込まれていた。コットン、シルク、撚り糸を用いた刺繍が施され、レースやギピュールからなる組紐のパッチワークが飾られ、またスモックやプリーツで立体感を表現して……と。次々と登場するモデルたちが纏う1着1着が、職人仕事による至高のエクセレンスを高らかに誇っていた。

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左:レースをパッチワークした東欧の民族衣装のようなファースト・ルック。右:ショーの締めくくりは、枝をギピュール・レースのはめ込みで表現したモスリンのドレス

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左:コットンベージュのジャケットには組紐風の刺繍が施され、「バー」スカートはリボンで立体的にバスクが仕上げられている。右:カットワークを施した2色のフェルトのパネルを一松に配したコート。

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左:「バー」ジャケットは大胆にスモックを施したファブリックで建築的に仕立てられた。右:身頃にスモックが施され、枝モチーフが刺繍されたドレス。

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左:「生命の木」が刺繍されたドレスとコート。右:マリア・グラツィアのフォークロアと伝統への思いを反映したタータンに、花のガーランドの刺繍。

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左:軍服のディテールを想起させる刺繍がほどこされたウールドレス。 右:ムッシュ ディオールが1949年春夏コレクションのためにデザインした、アイコニックな「ミス ディオール」モデルを再解釈したシルク・ジャカード地のドレス。その昔数えきれないほどの花を鉱石のはめこみで描いたテーブルや花々を織り込んだタペストリーの“ミル・フルール(千輪の花)”が作られたが、このドレスに刺繍で''ミルフォオリ''が表現された。

生成りのレースのパッチワークによるシャツとスカートの組み合わせが東欧の民族衣装を思わせるルックでスタートしたコレクション。今回、とりわけ注目したいのは刺繍で、さまざまな国の民族的モチーフが再解釈されて施されていた。東ヨーロッパに限らず、インドやイタリアといった地域からのクラフトマンシップを採用し、またインスピレーションを得て……。「生命の木」を介して、文化も宗教も異なる多様な地域の職人やアーティストたちの繋がりがこのコレクションにおいて表現されたのである。きりっとしたヘアメイクのモデルたちを装っていたクチュールピースからは、刺繍という言葉がイメージさせる甘さ、愛らしさ、華やぎを超えた崇高さが漂っていた。ビーズやスパンコールといった光る素材ではなく、今回は糸が刺繍の主役である。職人たちの力が集結され、オートクチュールを支えるアトリエ。その仕事をフルに活用させ、職人仕事を讃えるコレクションをつくりあげたマリア・グラツィアはモードを超えた視点でアトリエを鳥瞰する。

「素材やフォームが生み出される内省の空間であるアトリエというのは、現実の社会にも通じます。今日人間であることは何を意味するのかをいま一度考えさせる場所です。伝承され、学び、改良される行為が繰り返されています。生命の木は、伝統と手仕事に焦点を当てて、つかの間でも私たちがバランスを取り戻すことができるようにという呼びかけであり、警告なのです」

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ルーマニアのスカートがインスピレーション源。フォークロアのテクニックをアトリエが駆使したシルエットには、手仕事の卓越が凝縮されていた。photo:(右)Sophie Carre

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白い布が複数の異なるテクニックの手刺繍によってまるでレースのように。photos:Sophie Carre

 

https://www.dior.com/ja_jp/fashion/ウィメンズファッション/オートクチュール-コレクションショー/2022-2023-秋冬-オートクチュール

ディオール オートクチュールコレクション一覧へ

●問い合わせ先:
クリスチャン ディオール
0120−02−1947(フリーダイヤル)
www.dior.com

 

editing: Mariko Omura

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