マダムKaoriの2023SSパリコレ日記 ファッションジャーナリスト塚本香の23SSパリコレ日記スタート!

Fashion 2022.10.01

2年半ぶりにパリコレ取材にやってきました。パンデミックのためにここ数年はデジタルというこれまでとは違う表現方法で新しいシーズンのコレクションを発表してきたデザイナーたち。でも、コロナ禍が収束に向かうに合わせて、方法を探りながらもフィジカルなランウェイが復活。前シーズンはすっかり元に戻った感がありましたが、日本から取材に来るのはまだまだ難しかった。で、満を持しての今シーズン、2023年春夏コレクションに参戦します。
このコロナ禍で改めて感じたファッションの力。どんな逆境にあってもデザイナーたちは創造することをやめず、希望や夢や未来を描き続けた。そんなパワーを自分も肌で感じたくて、いまここに来ています。これからの10日間、どんなドラマが繰り広げられるのか、久しぶりの生ランウェイの模様をお届けします。もちろん、大好きな街、パリの私的時間も合わせて。


9月26日 久しぶりのパリへ

パリに滞在するときはプライベートでもビジネスでも左岸のサンジェルマン界隈と決めてます。定宿もあることはあるのですが、今回はサンジェルマンから少し離れた7区のサン・ドミニク通りのホテルにステイ。前に泊まったときにこの通りの雰囲気がすっかり気に入ってしまったから。気取らない町の商店街のようで、カジュアルなレストランやカフェも多いし、おいしそうなブーランジェリーもホテルから1分の範囲内になんと3軒(日本にも上陸した人気の”LIBERTE(リベルテ)"ができていたのにびっくり!)、スーパーマーケットもあって、ともかく過ごしやすい。通りを歩いているとエッフェル塔が見えるのも旅気分を盛り上げてくれます。

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サン・ドミニク通りを歩いていると毎日エッフェル塔に出合える。
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左:ビストロやカフェが軒を連ねる。左右の小径にもエスニック系からフレンチまでなんでもあります。右:人気のブーランジェリー、リベルテもお目見え。店は小さいけれどケーキも揃ってます。店内にはイートインスペースも。

コレクション初日はスローペースなので、ホテル周辺を散策してから、ずっと行ってみたかったブルス・ドゥ・コメルス-ピノー・コレクションへ。ブルスはケリングのCEO、フランソワ・ピノー氏が収集してきた現代アートコレクションを展示する美術館として2021年5月にオープン。

500年の歴史ある建物を、外観はそのままに、内部を建築家の安藤忠雄氏が再構築したということですが、壮麗なガラスドームに覆われた円形の展示スペースに立つとそのことがよくわかります。円形の空間の内側に打ちっぱなしのコンクリートでできた円筒がそびえ、展示室がその周りを取り囲むように作られている。ここに立つとまず建築の素晴らしさに圧倒されます。

展示される作品は、テーマを設定してキュレーションされることも作家別、グループ別に展示されることも。この日は「UNE SECONDE D ‘ETERNITE」という企画展が開催中で、中央のホールにはフィリップ・パレーノの巨大なインスタレーション、側面のギャラリーとサロンにはロニ・ホーンとフェリックス・ゴンザレス・トレスの作品が共鳴するように展示され、1階、2階にある5つのギャラリーにはキャリー・メイ・ウィームズの写真からイレーン・スターテヴァンのドレスのオブジェまでさまざまなタイプの作品が並び、それぞれにこのテーマをリフレインしているよう。

窓の外にパリの街の屋根が見えるギャラリーは普通の美術館とは違う時間を体験できます。ピノー氏のコレクションは1万点に及ぶと言われているので、いつ来ても新しい発見がありそう。

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500年の歴史を持つブルスの建物は1889年の万博に合わせていまの姿になったという。
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ロトンドと呼ばれ吹き抜けの円形スペース。安藤忠雄氏のコンクリートの壁に囲まれて、フィリップ・パレーノの巨大なインスターレーションが。
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左:イレーン・スターテヴァンの「Gober Wedding Gown」が展示された2階のギャラリー5。壁にはシェリー・レヴィーンの36枚の写真が並ぶ。右:ロニ・ホーンの「Well and Truly」とフェリックス・ゴンザレス・トレスの光のアートワークが不思議なハーモニーを奏でる。

現代アートを堪能した後は、いよいよ今回のファーストショー、CFCLのスタート。会場のパレ・ド・トーキョーの床にはブルーのカーペットが敷き詰められ、クリスタルの球体やペットボトルの化石がオブジェのように点在しています。

そのランウェイに登場したのは、ヒューマノイドのような不思議な動きを繰り返すダンサーとジェンダーレス、サイズレスなモデルたち。すべてが今季のテーマである「Blueprint」を象徴していると言えます。宇宙から地球を見つめるように、Knit-wareで未来の設計図を描きたかったと語るクリエイティブディレクターの高橋悠介さん。

そんな未来のための衣服は、再生ポリエステルでハイゲージに編み上げたジャケットだったり、ブランドのアイコンともいえるシームレスなニットドレスだったり。色のトーンは黒、白、グレーなどのベーシックカラーに目の覚めるようなオレンジや赤、ターコイーズブルーやグリーンが差し込まれて。印象的だったのはドレスの軽やかさと透け感。イヴ・サンローランのシースルーコレクションに触発されたという言葉どおり、そこはかとないパリのエレガンスが漂ってきます。

その美しさを支えるのがプログラミングデーターから直接ドレスを出力、ゴミの排出量を抑えた製作プロセスというのもCFCLならでは。高橋さんの設計図では、エレガンスとテクノロジーが一体になっていることが伝わってきます。

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ドレスを着るのにジェンダーは関係なし。ただ美しい服を纏うだけ。
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身体に心地よくフィットするニットドレス。このビビッドなオレンジが印象的でした。
ずっとループのように続くランウェイの合間にデザイナーの囲みインタビュー。いつもながら流暢にコンセプトを語る高橋さんの足元は、来年6月発売のアシックスとのコラボレーションシューズでした。
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左:よどみなく、熱く、今シーズンのコンセプトを語るクリエイティブディレクターの高橋裕介氏。右:高橋氏が履いているのが来年6月に発売予定というアシックスとのコラボレーションシューズ。CO2排出量を最大限削減したという。

夕方には雨も止んだので会場からの帰りは今回トライしてみたかったレンタサイクル”Velib(ヴェリブ)”に初乗り。自転車でセーヌを渡ってまだまだスローペースのパリコレ初日は終了。これから続くだろうハードスケジュールに備えて、パリでしか会えない友人たちと秋の味を満喫した夜でした。

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パリのレンタサイクル、Velibに初挑戦。今や街中に1700か所ものステーションがあるとか。ホテル近くにも見つけました。
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友人が案内してくれた14区のネオビストロで、秋のキノコ料理を堪能。

次回に続きます)

2023年春夏コレクション公開中!

Kaori Tsukamoto
ファッションジャーナリスト/エディトリアルディレクター。

1991年より「フィガロジャポン」の編集に携わる。「ヴォーグ ジャパン」のファッションディレクターを経て、2003年「フィガロジャポン」編集長に就任。その後、「エル・ジャポン」編集長、「ハーパーズ バザー」編集長とインターナショナルなファッション誌の編集長を経験し、今年からフリーランスとして活動をスタート。このコロナ禍までは毎シーズン、パリ、ミラノ、ニューヨークの海外コレクションに参加、コレクション取材歴は25年以上になる。
Instagram:@kaorinokarami

 

text & photography: Kaori Tsukamoto

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