マダムkaoriの23SSパリコレ日記 ドリス ヴァン ノッテンに胸を熱くしたパリコレ3日目。
Fashion 2022.10.05
「どんな世界にあってもファッションは希望となりうる」
そんな胸熱くなるパリコレdaysをおくる、マダムkaoriこと塚本香さん。
左岸から右岸へ、右岸から左岸へと大忙しの3日目がスタート!
9月28日 今日はパリコレ・プロムナード
まだまだ3日目、コレクションウィークは前半戦ですが、今日はランウェイショーに展示会も加わって、ホテルのある左岸から右岸へ移動、左岸へ戻って再び右岸へという大忙しのスケジュールでした。
でも、ショー会場に入るときは青空だったのに、終わって外に出たら雨、なんてお天気がくるくると変わった昨日までとは打ってかわって、快晴のパリ。右へ左へとセーヌ河を渡るのも橋から美しい街並みが眺められるので、全然苦にならない! 絶好の自転車日和でもあったのですが、近くのVelibのステーションの自転車がすべて出払っていたこともあり、今日はパリコレ・プロムナードと決めて、セーヌの両岸からレポートをお届けします。
まずは、左岸、モンパルナス墓地にも近い15区の会場で行われたドリス ヴァン ノッテンから。タイムスケジュールでは午後になるのですが、泣きそうになるくらい心震わせるショーは本日のハイライト、ここから語らずにはいられません。
ドリスにとってもウィメンズでは2年半ぶりのフィジカルでの発表となる2023春夏コレクションは「闇から光へー」がテーマの3部構成。そっけないコンクリート打ちっぱなしのランウェイが暗闇に包まれるといよいよショーがスタート。
ファーストルックとして登場したのはオーバーサイズの構築的な黒のジャケットとショートパンツ。張りのあるメッシュ素材でフロント部分をたたんでピンで止め、立体的なフォルムを作り出している。ここからオールブラックの世界が続きます。カッティングの計算されたジャケットやコート、ラッフルやプリーツが揺れるドレスやスカート、しなやかな曲線を描くペプラムジャケットなど、素材を変えシルエットを変え、黒の美学を追求。
こんなにも多彩で雄弁な黒があるんだ、と感動していると、突然2部のペールパステルに転換。色褪せたようなニュアンスのあるピンクやペパーミントグリーン、ラベンダーなどで暗闇から解き放たれた繊細な色の世界が表現されます。それもワントーンではなく、複数の色が交差するカラーミックスのコーディネートが優しく美しい。
そして最後はドリスならではの花が咲き乱れるガーデンへ。ドリスのアイコンともいえるフラワープリント、今回はこれまでのアーカイブからいくつかのパターンをピックアップ、拡大したり縮小したり、色や素材も変えてまったく新しい花柄として再構築したそう。色は淡く甘く、素材はふわふわと軽やかに。ラッフルやプリーツ、フリンジのディテールがモデルたちの動きに合わせて揺れる。異なる色、異なる柄を合わせて完成したルックはファッションの花園。見ているだけで誰もが幸せな気持ちになれる、そして着る人を祝福してくれる服です。花と光に包まれたフィナーレは拍手喝采の嵐でした。
ドリスが連れていってくれた「オプティミズムの祝祭」。ショー冒頭のオールブラックのルックもダークサイドの黒ではなく、色をなくすことでシルエットにフォーカス、クチュールのような服の美しさを讃えています。そして、色と花は服を着る喜びに満ちあふれて。どんな世界にあってもファッションは希望となりうる。それがドリスからのメッセージ。胸を熱くして会場を出ると、パリ左岸の青空が眩しかった。ここにいられることがただ幸せです。
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さて、続いてセーヌを渡って右岸からのレポートです。スケジュールを振り返れば2つのショーに3つのプレゼンテーションと、右岸で過ごした時間の方が長かった一日。
パリでは初めて見ることになるThe Rowのショー。会場はヴァンドーム広場やオペラ座ガルニエ宮にも近いまさにパリの中心にこれから正式オープンするパリ・オフィス。まだ完成していないとのことですが、中庭もある古い建物で内装も歴史を感じさせます。
回廊のように続く部屋をランウェイにスタートした2023春夏は、メアリー=ケイトとアシュレーのオルセン姉妹がずっと表現している静謐な世界そのもの。ミニドレスのように着た白シャツとボックスシルエットのジャケットのファーストルックから、ふたりのシグネチャーであるミニマルなスタイルが続きます。
色も黒、白、ベージュ、ブラウンのニュートラルカラー。34体とルック数は多くないけれど、どれもがパーフェクトな美しさ。最高の素材、最高の仕立てで、着る人に自信を与えてくれる服。完成度の高いテーラリングに加えて、きちんと仕立てたオーバーサイズジャケットの前見頃だけをカット、肩に引っ掛けるように着るユニークなアウターやフロントのボタンを布をつまむようにかけてウエストをシェイプしたコートなど彼女たちらしいツイストを加えたアプローチも。
黒と白、両方で展開したビスチエドレスはたっぷりの布を帯のように結んだバックスタイルが印象的。思わず目を奪われたのは2体だけ登場したクロシェレースのシリーズ。彼女たちの提案するミニマリズムはいつもモダンかつロマンティック、素直に着たいと思わせてくれる。新オフィスでの新コレクション発表に乾杯!
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もうひとつのショーはアンダーカバー。デザイナーの高橋盾さんにとっても2年半ぶりのパリでの発表になります。選ばれた会場は19世紀後半に建てられたネオゴシック様式の教会、通称パリ大聖堂。
チュールのフリルで縁取られたスラッシュが走るパンツスーツのシリーズに始まり、フィナーレはスーパーボリュームのミニ丈のイブニングドレスという今季のコレクション。「Stereotype」というテーマに、固定観念や偏見にとらわれないという高橋さんの揺るぎない信念が伝わってくる。
いまの世界へのメッセージでもあるし、ランウェイに登場した服もいわゆるスーツやトレンチコート、スリップドレスと言われるアイテムだけれど、従来とは違う自由なアレンジで私たちの認識を打ち砕いてくれる。
アンダーカバーのランウェイを初めて見たのはたぶん25年以上前、場所は確か代官山の地下スペースで切りっぱなしのタータンチェックの服が記憶に残っています。そのとき感じた痛いくらい剥き出しのパワーはそのままに、でも、パリで見る最新コレクションは時間とともに熟成されたアンダーカバー流のエレガンスを漂わせている。
高橋さんの本質は変わらず、でも同時にそれに縛られず、明日を見つめている。フィナーレに流れたパティ・スミスのメランコリックな歌声にそんな思いが広がってきました。今回のパリコレまでの道のりが長く重いものだったとしても、今日ここで美しく昇華されたのだから。
まずい! 3つのショーだけでこんな長い日記になってしまった。展示会も話し始めるとキリがないので、ワンコメントずつでお届け。メゾン・アライア、ディオール メゾン、ロジェ・ヴィヴィエの3つですが、いずれも引き続き右岸から。
プレタながらコレクション発表はオートクチュールウィークにしているメゾン・アライアの2023年春夏の新作展示会へ。アベニュー・モンテーニュ近くに20年にオープンしたブティックの3階がショールーム。マーク・ニューソンがデザインした照明や家具が配された内装はブティックに負けないくらいモダンでおしゃれ。
ディオール メゾンのテーブルウエアの新作発表は、今年3月にリニューアルオープンしたばかりのパリ本店「モンテーニュ30」のガラス張りのサンルームで。ムッシュ ディオールが愛した花のモチーフやクルーズコレクションとリンクしたアンダルシア風のプレートやグラスがセットされたアール・ド・ヴィーヴルにうっとりします。
パリの古いお屋敷で毎シーズン繰り広げられるロジェ・ヴィヴィエの夢のような新作プレゼンテーション”La Maison Vivier”。新作のテーマごとにお部屋を分けて展示、その一つ一つがファンタジーのよう。ロジェ・ヴィヴィエ本人のお気に入りモチーフだったボウ、アイコニックなバックル「ベル・ヴィヴィエ」、マレーネ・ディートリッヒが愛用したストラスヒール、アルチザンたちの技術へのオマージュなど、今シーズンはメゾンのヴィジョンへのトリビュートを捧げるコレクション。ピンク、オレンジ、ピスタチオグリーンなどのカラーパレットにビーズやシトラスがロマンティックに輝いている。新作はもちろん、ヴィヴィエ氏が作ったという靴がモチーフの切り絵アートが初めて展示されているのですが、メゾンのアイコンを想起させるものばかり。このグラフィック感覚が歴史あるメゾンのクリエイティビティの土台であることを教えてくれます。
最後はまた左岸のホテルへ。エッフェル塔の輝く時間にようやく本日のスケジュールは終了。お疲れさまでした。そして、コレクションはまだまだ続きます。
Vol1.ファッションジャーナリスト塚本香の23SSパリコレ日記スタート!
Vol2.Blackpinkのジスに遭遇! 感激のパリコレ2日目へ。
ファッションジャーナリスト/エディトリアルディレクター。
1991年より「フィガロジャポン」の編集に携わる。「ヴォーグ ジャパン」のファッションディレクターを経て、2003年「フィガロジャポン」編集長に就任。その後、「エル・ジャポン」編集長、「ハーパーズ バザー」編集長とインターナショナルなファッション誌の編集長を経験し、今年からフリーランスとして活動をスタート。このコロナ禍までは毎シーズン、パリ、ミラノ、ニューヨークの海外コレクションに参加、コレクション取材歴は25年以上になる。
Instagram:@kaorinokarami
text & photography: Kaori Tsukamoto