マダムKaoriの2023-24AWパリコレ日記 3月4日のパリコレは、ギャルソン・ファミリーデー!
Fashion 2023.03.31
「フィガロジャポン」をはじめ、数々のモード誌で編集長を歴任されたファッションジャーナリストのマダムKaoriこと塚本香さんが、2023-24秋冬ファッションウィークに参戦するため今季もパリへ。ギャルソン・ファミリーデーとも言える、アツい2日目が始まります。
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1日目
3月4日 右岸を東へ西へ。
パリコレ取材2日目の朝。空はどんよりと曇っています。アンニュイなこの街にはぴったりの冬景色ですが、ともかく寒い! 厚手のコートが必須の気温なので、古いセリーヌのテーラードコート(ちょっと重いけど)を着て9時前にはホテルを出発。朝イチのジュンヤワタナベに始まり、ノワール ケイ ニノミヤ、コム デ ギャルソンと3つのショーがあるギャルソン・ファミリーデーともいえるスケジュールに、エルメス、そして久しぶりにパリコレ参戦のアレキサンダー・マックイーンも加わって、ファッションの熱量を感じるアツい一日になること間違いなし! その合間にRe-seeの予定も組み込んでいるので、右岸を東へ西へと行ったり来たり。幸いにも車をチャーターしているので移動はスムーズにできそうですが、ランチの時間がとれるかは微妙だし、日記はショーに集中してそのパワーを一気にお届けします。
まずはジュンヤ ワタナベから。ショー会場はルーヴル美術館近くのオラトワール・デュ・ルーヴル教会。レッド・ツェッペリンの曲『カシミール』が出発点という今回のコレクション、ランウェイに流れたのもこの曲のみ。ヴォーカルのロバート・プラントがモロッコのサハラ砂漠を旅したときの感情を表現した曲と言われていて、時空を超えて旅する放浪者の心が叙情的な言葉で綴られています。ゴールドチェーンのフェイスマスクやフードで顔を覆ってショーの冒頭に登場したオールブラックのコートドレスの6人は、そんな旅人を体現する現代のノマドたち。オールブラックといってもさまざまなパーツの組み合わせになっていて、ところどころにワンタッチベルトやドローストリングがあしらわれ、サバイバルのための機能服のよう。
ショーの冒頭には6人のモデルが登場。ゴールドチェーンのフェイスアクセサリーが印象的。
その後もファーストルックからフィナーレまでランウェイには、服のパターンとは違うパーツを合わせた脱構築的なアイテムが次々に現れます。それぞれのパーツは本来はバッグを作るためのもの、それを組み合わせて1着の服として完成させるのが今回のチャレンジ。ライダース風やフィールドコート風のアウターもあれば、ラッフルが揺れるようなドレスやウエストシェイプのジャケットも。黒のエコレザーが主役のルックはタフでパワフルで、でもときに優雅さすら感じさせます。自分の場所を求めて荒涼とした道を逞しく美しく進む女性たちへの讃歌。渡辺淳弥さんのそんな思いが『カシミール』の歌詞に重なる気がします。
肩に装着したパッドやワンタッチベルトが防護服のよう。photo:Imaxtree
ランウェイに登場したマスクはバッグメーカー、インナーラームとのコラボレーション。photo:Imaxtree
これもすべてバッグのパーツ。ラッフルのように優雅に揺れる。photo:Imaxtree
素材はエコレザー。ジップやストラップのディテールを効かせて。photo:Imaxtree
タフでエレガント。ジャケットの曲線シルエットに注目。photo:Imaxtree
シェアリング風のコートで広大な砂漠を進みます。photo:Imaxtree
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朝イチの余韻を引きずりながら、J.W.アンダーソンとイザベル・マラン、2つのRe-seeを回って、お昼には本日2つ目のノワール ケイ ニノミヤのショーのスタートです。今回のテーマは「Noir in Blooming」、その言葉どおりのファーストルック、花のロンドに心が舞っていきます。ランウェイに登場したのは、頭まですっぽり覆うピンクの花絨毯のようなベースにホログラムの花を重ねたコクーンシルエットのドレス。ホログラムの花はワイヤーでベースに取り付けられていて、モデルが歩くたびに揺れて煌めいています。会場全体が静寂に包まれ、そして感動のため息が。
全員が息をのんだファーストルック。煌めく花々のギャザリング。photo:Imaxtree
ポリウレタンのメッシュにつけたモール糸が花畑のようなケープドレスやシルバーチェーンの花をあしらった黒のメッシュドレスなど、その後も花の服は続きます。でも、二宮 啓さんがBloomingという言葉に込めたのは、開花ということだけでなくなにかが生まれる瞬間に炸裂するエネルギーのようなもの。そんな満開全開のノワールは全27ルック。オブジェのようなヘッドピースは前シーズンに引き続き、陶芸家の桑田卓郎さんの作品。ただし今回はセラミックではなく、こちらも新たな素材による造形の開花。二宮さんのコレクションにはいつも原始の力といいたくなる不思議なパワーを感じます。縫製をせず編んだり繋いだりという手法ゆえか、コクーンに代表される有機的フォルムゆえか、大袈裟ですが、生命の誕生に立ち会っているような気分。美しく咲いたファッションの花は、その力とともに前へ進もうと呼びかけています。
花のカタチを超えた花。ピンクのフェイスペイントは陶器のような質感。photo:Imaxtree
桑田卓郎さんのヘッドピースとスパンコールのリボンが共鳴する。photo:Imaxtree
巨大な花モチーフは光を発散するブラックとパープル。photo:Imaxtree
服の構造については説明不能なのですが、個人的に大好きなルック。photo:Imaxtree
アブストラクトな彫刻のようなスカートは、アクリルの輪をリボンで結び合わせて。photo:Imaxtree
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9区のロエベ本社でのRe-seeから4区のエルメスの会場に移動してその近くでクイックランチ、の予定が、到着したのがショー開始の15分前。泣く泣くランチはあきらめて、早めに会場に入ります。
フランス国家憲兵隊の建物のなかに作られたランウェイは床も壁もシートも全面しっとりと穏やかなオークカラー。エルメスのモダンラグジュアリーな世界に一気に引き込まれます。
ショーのトップに登場したのは、その背景と美しいグラデーションを描くブリックレッドのニットのセットアップ。手に持ったバッグもブーツも、そして乗馬帽もすべて同色のワントーンコーディネート。でも、ニット、スエード、サテンという異素材を組み合わせて、しかもニットの凹凸の編み地がそこにニュアンスを加えている。
全面オークカラーに染まったショー会場。壁には森の木漏れ日のようなパターンが。
冬の森のファーストルックは木肌を写したシルクニットのセットアップ。photo:Imaxtree
その後もマホガニー、タン、アンバー、チェストナット、カーキなど、陰影のあるカラーパレットが続きます。ガウンのように軽やかなコート、膝丈パンツ、キルティングジャケット、プリーツドレスなど、落ち着きのある色調ながらアイテムはフレッシュでアクティブ。ストールを巻き付けてる? と思ったアイテムは、センターでクロスして結ぶスカーフコートということ、なんともエルメスらしいですね。
この秋冬は「冬の深い森での散歩」がイメージ、前シーズンに続くアウトドアテイストが展開されています。ファーストルックをはじめとしたニットの表面の模様は木の樹皮を表現したものとか。そう言われてみると会場の壁や床の微妙なモチーフも日の光が森の中に差し込んで揺らめいているよう。アーティスティックディレクター、ナデージュ・ヴァネ=シュビルスキーの描く冬物語は、メゾンのクラフトマンシップとセンシティブなデザインが融合したエルメスならではの洗練を語りかけます。ウェアだけでなくバッグにも目を奪われるランウェイでしたが、それは明日のRe-seeのレポートをお楽しみに。
エルメスらしい贅沢なアウトドアスタイル。コートと一体化したバッグという新提案。photo:Imaxtree
プリーツも多数登場。形状記憶でここでも木の質感を表現。photo:Imaxtree
エルメスらしい新アイテム、スカーフコートをコートのインに。photo:Imaxtree
しなやかなディアスキンのパンツスーツ。ハーネスをつけたバーキンに視線集中。photo:Imaxtree
ワントーンコーディネートも素材を変えて繊細な色のグラデーションを。photo:Imaxtree
今シーズンのイブニングウエアは繊細なプリーツのドレス。モダンかつシックに。photo:Imaxtree
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毎シーズン、コム デ ギャルソンのショーはパリコレのハイライトのひとつ。ドキドキもするし、なぜか緊張します。私にとっては、ただ発表される服を見るのでなく、川久保 玲さんのエネルギーを吸収する場所でもあります。
今回のテーマを川久保さんは「Return to the Biginning」とも「Starting Point」とも話していますが、説明を聞くと「ゼロに戻ってリセットして、また前へ進む」ということ。ブランドの原点に立ち返りながらも、そこからまた新しいものを作り出すことがリセットの真意。
ステンドグラスの美しいアメリカンカテドラルで発表されたコレクションは11章のオムニバス形式。まず最初にパンクな「Love in a Void」が流れて4人のモデルが登場。みんな折り紙を折ったようなスクエアなトップスにサークルやチューブで飾られたボリュームスカートというルック。その4人がランウェイを歩き終えると曲はぷつんと切れて、ジャズの「Freidly Galaxy No.2」に変わり、今度は布を折りたたんだような黒のベースから白いラッフルやプリーツがあふれ出るドレスを纏った2人のモデルが現れる。彼女たちが下がると、また曲が変わり、次はピンクのドレス、赤のドレスとケープという2人のモデルがまたランウェイに、という具合。それが繰り返され、大きなチューブをグラフィックに配した黒、赤、紺のドレスを纏った3人が登場してフィナーレを迎えます。
ショーのオープニング、第1章。折り紙を思わせるスクエアなトップス。photo:Imaxtree
最大級のモノトーン。白のラッフルやプリーツが増殖するように。photo:Imaxtree
衝撃のピンク、突然の赤。ヘッドピースは先シーズンに続き、Gary Card(ゲイリー・カード)とValeriane Venance (ヴァレリアンヌ・ヴナンス)が手がけた。photo:Imaxtree
音階も曲調も異なる11曲、その曲ごとに登場する11 セット25ルックはなんの脈絡もないように孤立して、でも圧倒的な存在感の連続。これまで誰も見たことのない新しい服です。まさに、リセットから生まれたコム デ ギャルソンの最新形。ウールやサテンなどベーシックな素材を使う、既存のパターンのないところから服のカタチを作る、というブランドの出発点に立ち返ることで、さらに自由なクリエイションに向かっているような気がします。バックステージの川久保さんの表情もどこか清々しく感じられて。「最初に戻るほうが地球のためにもいいでしょう」という言葉が印象的でした。
コム デ ギャルソンの原点はベーシックな素材を使うこと。サテンやシフォンもそのひとつ。photo:Imaxtree
ボリュームとテクスチャーの表現。フェイクファーもこれまで多用してきた素材。photo:Imaxtree
素材も色も違うフィナーレの3体のドレス。自由にフォルムと戯れるように。photo:Imaxtree
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心に響くショーのオンパレードという今日一日もいよいよラスト。久しぶりに生のランウェイで見るアレキサンダー・マックイーンに向かいます。先シーズンはロンドン、22-23秋冬はニューヨークで発表していたマックイーンがパリに戻ってきました! そのショーのトップを飾るのはコルセット付きの黒のコンビネゾンを堂々と着こなしたナオミ・キャンベル。彼女の貫禄だけでなく、そのシルエットは完璧、ため息が出るような美しさです。その後も黒やピンストライプのパンツスーツ、ジャケットを再構築したようなスリークドレスやコンビネゾンが次々に登場します。メインカラーはブラック。ところどころに差し込まれる赤と蘭のモチーフが艶やかなインパクトを残して。
完璧な仕立てのコンビネゾンを纏って、オープニングに登場したナオミ。左耳と指には蘭モチーフのアクサセリー。photo:Imaxtree
サヴィルロウを思わせる端正なダブルブレストのテーラードスーツ。photo:Imaxtree
ピンストライプのジャケットを解剖して再構築、アシンメトリーなドレスに。photo:Imaxtree
赤が鮮烈なニットドレス。大胆なカットが身体をより強く意識させる。photo:Imaxtree
シャープなテーラリングに官能的な蘭のモチーフをのせて。photo:Imaxtree
ショーノートに書かれた今回のテーマは「Anatomy/人体解剖学、服の解剖学、花の解剖学」。クリエイティブディレクターのサラ・バートンは「マックイーンの出発点であるサヴィルロウに立ち返った」と語っています。その言葉どおりテーラリングの美学を見せつけてくれたコレクション。スクエアな肩にウエストをシェイプしたシルエットはエレガントそのもの、アシンメトリーな襟やヘムラインも計算されたプロポーションです。抑制がきいて正確で、でもどこか妖しい魅力を秘めている。美しい服とはこういうこと、真っ直ぐに服作りに向き合う彼女に心からの拍手をおくりたいと思います。
クラシックなスワローテイルジャケットもモダンに解剖。photo:Imaxtree
シンメトリーが美しい。直線的なトップと曲線的なボトムのプロポーションも絶妙。photo:Imaxtree
アトリエの力を結集した総刺繍のドレス。シルバーのビーズにラインストーンがさらに輝きを添えて。photo:Imaxtree
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感動の連続だった本日の夜はエキサイティングなアフターパーティに繰り出すぞ〜!というつもりだったのですが、まだまだ続くパリコレに備えてマックイーン後はホテルでゆっくり休息。ショーを終えたブランドがその夜に開催するアフターパーティも、リアルなランウェイに合わせてすっかり復活した模様。今夜はマックイーン、そしてエルメスが初めて開くアフターパーティもあります。フォーブール・サントノーレの本店の隣にある、普段は非公開の特別スペースでの「秘密のナイトクラブ」がコンセプトのパーティとのこと、行ってみたい気持ちは満々なのですが、ちょっとあきらめて。
エルメスのアフターパーティの招待状。右のショーのインビテーションとも色のトーンがリンクしています。
コレクション取材中はディナーやパーティも楽しみのひとつですが、ホテルでひとりで過ごす時間も欠かせません。旅先とはいえ、できるだけリラックスしてエネルギーチャージ。でないと、ハードなパリコレ取材はこなせないので。私流のホテルタイムは、まず、部屋に戻ったら窓を開けて(寒い冬でも)空気を入れ替えて、ルームスプレー代わりに持ってきた香りを空中にひと振り。ルームウェアに着替えてお茶を入れて、ほっとひと息。なので、旅に持っていく必需品はその時間を快適にするためのもの。3種の神器というほどたいしたものではないのですが、この4点が最近のマストです。ジミー・チュウのルームシューズは弾けるオレンジが疲れを癒してくれます。お部屋には湯沸かしとティーバッグはありますが、フレーバーティーやハーブティーが苦手なので、一保堂のほうじ茶のティーバッグを持参。我が家では長年、ここのくきほうじを愛飲、エスプレッソばかり昼間飲んでいると日本茶が恋しくなります。ルームスプレーとしても贅沢に使ってしまうのは、ルイ・ヴィトンの「ローズ・デ・ヴァン」。バラの香り好きで、いまのお気に入りはこれ! もちろん、毎朝、身体にもさっと纏って出かけます。バラのほのかな香りに包まれて熱いお茶を飲みながら、メールのチェックや撮影した写真の整理をしていると、気づいたらもう深夜過ぎ。そろそろ寝なくっちゃ、というわけで、ベッドに入るときは「蒸気でアイマスク」をつけて。去年の夏から目の不調に悩まされていて、寝る前はホットタオルを目にのせて就寝するのがルーティーンなのですが、タオルのチンはできないので、これで代用。身体の緊張もほぐれるのかあっという間に眠りに入ります。
左:同素材のポーチ付きのサテンのルームシューズ。ちょっとレセプションへというホテル内の移動はこのまま。 右:夏でも温かい日本茶が飲みたくなるので、このほうじ茶ティーバッグはどんな旅先にも必須。
左:このボトルケースがあるので安心してトランクへ。香水マニアではありませんが、お気に入りの香りがないとなぜか不安になる。右:目を温めるとすとんと眠りに落ちます。時差ぼけ対策の強い味方。
では、今日はここでお休みなさい。私にとっては2日目ですが、パリコレもすでに後半戦。明日はどんなファッションが語りかけてくれるのか、感動のショーを引き続きお届けします。
ファッションジャーナリスト/エディトリアルディレクター。
1991年より「フィガロジャポン」の編集に携わる。「ヴォーグ ジャパン」のファッションディレクターを経て、2003年「フィガロジャポン」編集長に就任。その後、「エル・ジャポン」編集長、「ハーパーズ バザー」編集長とインターナショナルなファッション誌の編集長を経験し、2022年からフリーランスとして活動をスタート。コロナ禍までは毎シーズン、パリ、ミラノ、ニューヨークの海外コレクションに参加、コレクション取材歴は25年以上になる。
Instagram:@kaorinokarami
text & photography: Kaori Tsukamoto