ヴィンテージはレッドカーペットの新たなスタイル?
Fashion 2023.05.24
ヴィンテージドレスを着る、あるいは同じ衣装を着回す。これがレッドカーペットに登場するスターの新たなスタイルステートメント。グリーンの実践でもあり、話題になることも間違いない。
ヴィンテージのパイオニア、ケイト・ブランシェット。今年のアカデミー賞授賞式ではルイ・ヴィトンの華麗なアンティークのブラウスを纏っていた。photography: Gilbert Flores / Getty Images
レッドカーペットをよりグリーンにする。こんな気持ちで盛大なイベントに臨むスター(とそのスタイリスト)が増えている。先ごろ開催されたアカデミー賞授賞式にも、このエコレスポンシブルの方向性が明確に表れていた。3月12日、ロサンゼルス、ドルビー劇場のレッドカーペットを歩くハリウッド・スターには、別の機会にすでに着用されたことのあるアイテムや、ファッションブランドのアーカイブからレンタルあるいは借用したヴィンテージの着用が望ましいというドレスコードが伝えられていた。さらにはアップサイクルを取り入れること、また、麻、ヘンプ、ウール、植物を原料とする自然由来の生地を選ぶことも推奨された。
有名クチュールブランドの最新モデルを纏ったセレブが多かったとはいえ、「持続可能なファッション」を選んだ人もいた。たとえば、アメリカ人女優ヴァネッサ・ハジェンズはオードリー・ヘプバーンを彷彿とさせる白と黒のシャネルのヴィンテージドレス。モデルのケンダル・ジェンナーは、アフターパーティーにジャン=ポール・ゴルチェのヴィンテージのマーメイドドレスで登場し、カメラマンのフラッシュを一身に浴びた。ルーニー・マラも、アレキサンダー・マックイーン2008ー2009年秋冬コレクションのエンパイアラインのドレスでほかのゲストと一線を画した。また、ジェームズ・キャメロン監督の『アバター』最新作でツィレア役を演じたベイリー・バスが着用したのは、ザック・ポーゼンのドレス。持続可能な森林由来の木材パルプを原料としたエコロジカルな素材テンセルを使ったモデルだ。
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セカンドハンドの地位向上
2023年3月、ヴァネッサ・ハジェンズもアカデミー賞授賞式のレッドカーペットにシャネルのアンティークドレスを纏って登場した。photography: Mirador Sthanlee B / ABACA
本物志向がかつてなく高まり、エコロジーが重要課題となったいま、ヴィンテージドレスでレッドカーペットに登場することは、セレブが繰り広げる超ハイプな新バトルになったのだろうか?「“アーカイブ”を着こなすことは最旬のファッションステートメントです」と言うのは、トレンド調査会社ネリー・ロディでファッションビジネスおよびライフスタイル部門ディレクターを務めるマリー・デュパンだ。「この世に1着しかないドレスで際立ちたいという欲望以上に、VIPにとって、ヴィンテージの選択は、主流とは一線を画す個性的なスタイルの持ち主であることを証明する手段。ファッションに関する文化的・知的知識を身につけたいという気持ちが、世間の人々にも伝わるのです。専属スタイリストたちの細やかな仕事のおかげで、過去の美しい衣装がファッション史の一端を物語ることをスター自身も理解し、ティエリー ・ミュグレーやパコ・ラバンヌ、ジャン=ポール・ゴルチエといった伝説的なクリエーターの才能と創作力を引き立てています」
オートクチュールドレスのフランス最大のコレクターであるディディエ・リュドも同じ思いだ。パリのパレ・ロワイヤルにある彼のブティックは世界的に知られている。「レッドカーペットでセカンドハンドを着るのは、いま流行の新しいスノビズムです。“私は通である。私は知恵と知識を持っている。だから私はそれを見せる”というわけです」。したがって、2023年の究極のシックとは、クリエーターがランウェイで発表したばかりの(まだ店頭に並んでいない)ドレスを着ることでも、自分のためにデザインされたオーダーメイドのクリエイションを纏うことでもなく、過去に注目を浴びたアイテムでプレミア上映会に現れることなのだ。
2022年にヴェスチエール・コレクティヴがまとめた報告書によって、2020年に初めて古着を購入した人の数が3300万人以上に上り、新品の服を販売する従来型のアパレル市場に比べて、リセール市場が11倍のスピードで成長していることが明らかになった。当然、ヴィンテージ発掘競争も加速中だ。セレブたちがアーカイブアイテムに夢中になるのは、自分たちが社会問題や普通の女性の日常とまるで縁のない象牙の塔で生きているわけではないと証明するためなのだろうか?「ファン、特に若い世代とより密接につながっていることを実感するため、そして地球の未来に関心を持っていることをアピールするために、公の場に頻繁にヴィンテージで登場し、公人としての役割を積極的に果たしているVIPもいます」とデュパンは言う。
第73回ベルリン映画祭のレッドカーペットでケイト・ブランシェットは2018年のカンヌ映画祭で着用したジバンシィのドレスを纏っていた。photography: Stephane (ベルリン、2023年2月23日)
リサイクルの女王(そしてパイオニア)は何といってもケイト・ブランシェット だろう。有名スタイリスト、エリザベス・スチュワート(ジュリア・ロバーツ、アマンダ・サイフリッド、ガル・ガドット、ジェシカ・チャステインも顧客)の才能によって、着回しはいまやケイト・ブランシェット・スタイルのシグネチャーになった。その証拠に、今年のアカデミー賞授賞式では、ルイ・ヴィトンの華麗なヴィンテージブラウスを着用。2月6日の第43回ロンドン映画批評家協会賞授賞式には、2019年にニューヨークで行われたプレミア上映会で着用したアレキサンダー・マックイーンのスーツを纏って登場した。また今年のベルリン映画祭でも、2018年のカンヌ映画祭と同じドレスを採用。2020年ベネチア映画祭の際に、スタイリストのスチュワートは「着回しはシック」とインスタグラムに投稿している。
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オリジナルでありたいという願いを叶えるレアなアイテム
2023年アカデミー賞授賞式アフターパーティに、ケンダル・ジェンナーはジャン=ポール・ゴルチェの華麗なヴィンテージのマーメイドドレスで登場した。photography: Axelle/Bauer-Griffin / Getty Images
若い世代の女優たちもこの路線を踏襲している。長年ロウ・ローチがスタイリストを担当するスーパースターのゼンデイヤは、最近、2002年のヴェルサーチのイヴニングドレスで強烈な印象を与えたばかりだ。ジェンナ・オルテガもやはりヴェルサーチの1999年のシースドレスを見事に着こなしている。「主義主張のためでも、ライバルより目立つためでもいい。過去のアイテムを(再び)生かすには、どんな理由でも構わない」とリュドはコメントする。「ヴィンテージはエコロジーをアピールする素晴らしい手段。古いものを再評価する最近のブームのおかげで、オートクチュールであろうとなかろうと、倫理的なエコロジカルな主張のためであれ、あるいは単なる趣味のためであれ、セカンドハンド店で眠っていたり、母親や祖母のクローゼットの奥で長い間忘れられていた、仕立てのいい素晴らしいアイテムが救われます。過去のものには感情に強く訴える力と安心感がある。そして何より胸をときめかせてくれます」
ほんの10年前まで、先シーズンの服を着ることは過ちと考えられていた。そんなことをしたら、当時はファッションポリスの餌食となって、ただちに「ワースト・ドレッサー」リスト入りしてしまったものだ。
2023年、アーカイブファッションはおしゃれの失敗を避けたいセレブにとって、この上ない味方となったようだ。ヴィンテージ界を代表するリュドが語ってくれた逸話がその証だ。「2005年12月、ある女性が、母親の物だったという1957年のディオールのドレスを持って来店しました。それは全面に手刺繍が施された、素晴らしい一着でした。早速購入し、すぐにウィンドウに飾ったところ、2日後、店を訪れたアメリカ人スタイリストの一行が、アカデミー賞授賞式に出席するある有名女優のためにそのドレスを買いたいと言うのです。その女優とはリース・ウィザースプーン。絶対にアンティークのイブニングドレスがいいと彼女は強く希望していたのです。理由はいたって単純でした……。6カ月前に彼女があるイベントにイベントに出席したのですが、その時に纏ったのが少し前に別のセレブが着用したのと同じドレス。そのせいで彼女はジャーナリストたちから長い間笑い者にされてしまった! がっかりした彼女は、海の向こう側で見つけたヴィンテージなら、誰ともかぶらないだろうと思ったのです。彼女は飛行機に乗り、ドレスを試着するためにやって来ました。ドレスは彼女にとても似合っただけでなく、幸運ももたらしました。『ウォーク・ザ・ライン』の中で歌手ジョニー・キャッシュの妻ジューン・カーターを演じた彼女はアカデミー賞主演女優賞を受賞したのです」
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ヴィンテージ、ビジネスとクリエイティブの合意点
皇太子信託基金ガラパーティーでベラ・ハディッドが着用したのは、1959年にイヴ・サンローランがデザインしたディオールのドレス。ロサンゼルスのAralda Vintageでロウ・ローチが掘り当てた。(ニューヨーク、2022年4月28日)photography: Gotham / Getty Images
スターのスタイリストたちの間では、おしゃれな掘り出し物をめぐってかつてなく熾烈な争いが繰り広げられている。彼らの秘密の武器とは? オートクチュールブランドのアーカイブ、クリスティーズやサザビーズ、アールキュリアルが主催するファッションクリエイターをテーマにした競売場でのオークション(オンラインもリアルもある)。そしてとりわけ、街の小さなブティック。なかでも信用のおけるコレクターの店がスタイリストたちの御用達だ。
ビバリーヒルズのLily et Cie(ジェニファー・アニストンやオルセン姉妹も長年の顧客)、Tab Vintage(2022年アカデミー賞授賞式でコートニー・カーダシアンが着た1980年代のティエリー・ミュグレーのブラックミニドレスはここで発掘された)、ロサンゼルスのAralda Vintage(写真の、ベラ・ハディッドが着用した、1959年のディオールのドレスは、ロウ・ローチがこの店で掘り当てた)、トロントのShrimpton Couture…。他にも何軒もあるこれらの店は、装いの助言者たちにとってヴィンテージオートクチュールの殿堂だ。「スタイリストの仕事に新たな面白味が加わった」とマリー・デュパンは言う。「ヴィンテージの世界は素晴らしいクリエイティブフィールド。未来のミューズのために過去の美しいドレスを探し求めることは、ランウェイで発表されたばかりの同時代のデザイナーによるクリエーションを選ぶことより、はるかに困難な仕事です」
こうした宝探しに熱を入れるセレブとスタイリストたちにとって、注目度の高いステージは、これからも続く。開催中のカンヌ国際映画祭の大階段に世界中のメディアが集合し、連日、多くの写真や動画が発信されているところだ。また5月1日にニューヨークで開催された2023年メットガラにも多くのスターが集まった。今年のメットガラは4年前に亡くなったカール・ラガーフェルドにオマージュを捧げただけに、レッドカーペットは特別な熱気に包まれ、まさにヴィンテージ年となった。「このイベントについては、電話で多くの問い合わせがありました」とリュドは話す。「ガラパーティーに招待されたセレブのために、スタイリストたちはこぞって、カールが手がけたアイテムを探していました」
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ジャンニ・ヴェルサーチはかつてこう言った。「表面的であるためには、深遠であらねばなりません。美しいものを評価するためには、それが歴史の流れをどう変えたかを知らなければなりません」
text: Clémence Pouget (madame.lefigaro.fr)