Burberry ダニエル・リーが語る、新生バーバリーのすべて。

Fashion 2023.09.20

バーバリーの新たなるチーフ クリエイティブ オフィサーとして、デビューコレクションとなる2023AWを発表したダニエル・リー。どのようなプロセスで英国らしさを追求し、解釈したのか、イギリスを代表するブランドのこれからと、そのビジョンについて語ってくれた。

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Daniel Lee
イギリス生まれ。フィービー・ファイロのセリーヌでの経験を経て、32歳でボッテガ・ヴェネタのクリエイティブ ディレクターに。2022年10月、バーバリーのチーフクリエイティブ オフィサーに就任

モダンブリティッシュの新章。チーフ クリエイティブ オフィサーに就任してわずか4カ月後の今年2月のデビューコレクションで、ダニエル・リーはユーモアとウィットに満ちた新生バーバリーを宣言した。

ファーストルックに登場したのはブランドの象徴、トレンチコート。でも、素材は新たに開発したストラクチャード ギャバジン。密度が高く、程よい重みがあり、オーバーサイズのシルエットをモダンに描き出している。新たなブランドのアイコンとして提示したのは、コレクションに先駆けて発表したキャンペーンでも象徴的に用いられた1901年頃から続く「馬上の騎士」のエンブレムの21世紀バージョン、イギリスの国花であるバラ、そして鴨のモチーフ。トップのトレンチコートに加えて、フィールドジャケットやダッフルコートなどバーバリーのルーツといえる機能的なアウトドアウエアにフォーカス、その一方でグラフィックなトレーナーにジップがアクセントのパンツを合わせたり、キルトスカートとパンツをレイヤードするなど、ロンドンらしいパンクムードも混在させている。トレーナーに描かれたスローガン「THE WIND OF CHANGE(変革の風)」、「THE CHANGE IS INEVITABLE(変化は避けられない)」は彼の決意表明にも思える。

「変わらないものなんてないし、何も変わらなければ人生はつまらないですよね。私は変革のためにここにいます。でも、バーバリーというブランドは私よりずっと大きな存在。私の使命は新しい物語を作り出すことではなく、バーバリーのためにエキサイティングな新章を書き上げることなのです」

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英国らしさとはつまり、何を意味するのか。

2018年に32歳でクリエイティブ ディレクターに就任、瞬く間にボッテガ・ヴェネタをトップブランドに引き上げたダニエル・リーの手腕は誰もが認めるところだが、彼自身は多くを語らない。「クワイエットラディカル」と称されるスタイルでトレンドを牽引してきたリーだが、その言葉は彼自身をも指しているのかもしれない。物静かでインタビューを受けることは稀。そんなリーが、今回はメールでの回答ながら明快に詳細に彼の考えるバーバリーのビジョンを語ってくれた。英国ブランドとしての歴史と遺産に敬意を払いながら、前進すること。英国らしさの探求、機能と洗練の調和、クラシックを継承するモダン。英国人ゆえの愛情を持って、彼はいまこの英国の老舗ブランドと真正面から向き合っているのだ。

「バーバリーは誰もが知っている国民的存在で、英国人気質の象徴であり、国のシンボルともいえます。私にとっても縁の深いブランド。私はバーバリーのトレンチコートが作られているイングランド北部のヨークシャー州で育ちました(彼の出身地、ブラッドフォードは、ギャバジンの生産地であるキースリーやトレンチコートの工場があるキャッスルフォードに近い)。トレンチコートはずっと私の人生の一部のようにそこにあったし、服とは何なのか、英国らしさとは何を意味するのかを理解するための糸口になってくれました」

バーバリーは彼にとって家族や故郷に繋がる特別な存在なのだろう。かつてボッテガ・ヴェネタの仕事のためにフェデリコ・フェリーニやルキノ・ヴィスコンティの映画を何本も観てイタリアの精神を理解しようとしたと語っていたリーだが、バーバリーが体現する英国らしさは少年時代から彼のなかで育まれてきたもの。そうした背景がこのコレクションにも反映されている気がする。

「今回のコレクションはアーカイブが出発点。このブランドの長い歴史のなかに存在していたものに目を向け、そこに新たな解釈を加えるというアプローチです。バーバリーのヘリテージを尊重することで前へ進むことができる。膨大なアーカイブがあり、そのひとつひとつに可能性が秘められている。そうした遺産があるのは本当にラッキーです」

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ダニエル・リーが手がけたコレクションが初めて登場した2023年冬キャンペーン。雄大な自然のロケーションは、彼が英国らしさのひとつとして挙げた北アイルランドのスカイ島。ボッテガ・ヴェネタ時代からリーとコラボレートしてきたロンドン出身のフォトグラファー、タイロン・レボンがショーに先駆けて発表された初キャンペーンに続いて撮影を担当。牛と「馬上の騎士」のエンブレムがユーモラスに共演している。

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彼が再解釈した「馬上の騎士(EKD)」のエンブレムはもちろん、ランウェイで話題になった鴨のモチーフもアーカイブからの発想。

「馬上の騎士のエンブレムはトレンチコートやバーバリーチェックと同じように知られてはいたし、ブランドのヘリテージのひとつ。もっともっと目立つアイコンにしたくて、デザインをアレンジしたのです。いい意味でノスタルジックだし、洗練されていてエネルギーにあふれているし、なによりひと目でブランドを認識してもらえるバーバリーらしい言語。ブランディングの主役としてこれから使っていきます。鴨は60年代の“Weather for ducks”というギャバジンのキャンペーンを見つけたのがきっかけ。バーバリーとは切っても切れない関係だし、英国の典型的な鳥です。公園で鴨に餌をやる子どもたちの姿や“Water off a duckʼs back(鴨の背に水=聞く耳を持たない)”の慣用句を英国人なら誰でもすぐに思い浮かべますから」

トーマス・バーバリーが「英国の悪天候から人々を守る服」としてブランドを創業、ギャバジンを考案したように、機能性についてもリーならではのこだわりがある。

「アウトドアで着るためにデザインされた服にはさまざまなヒントが隠されています。服が人を保護する、プロテクションという発想が私も好きなのです。温かさを届け、身を包むと幸せな気分になれる服を作りたいと思っています。トレンチコートは昔もいまも変わらないブランドの中心的存在。実用的でありながらグラマラスで、着る人が自分なりの着こなしを楽しめるようにデザインされている。英国的なワードローブの原型なのです」

その原型を進化させた彼のファーストトレンチはオーバーサイズで温かなフェイクファーの襟付きだった。ボタンはかけずベルトもたらしたまま、コートに包まれるだけというのが、スタイリングまで手がけたリー自身による着こなし提案。ヘリテージを継承しながらモダンな視点で再構築するという彼のアプローチは徹底している。

エンブレムに使ったブルーを「ナイトブルー(Knight Blue)」と呼んで、これからのバーバリーを象徴する色にしていくという。

「大胆でモダンで楽観的な色。バーバリーにはそういうブランドになってほしいから」ボタン、スタッズ、トグル、レインコートのインサイドのトリミングなど細かなディテールにもナイトブルーを配するのが彼のアイデアだ。ナイトの称号は、素材も色もサイズもさまざまにランウェイに登場した新作のホーボーバッグにも与えられている。

「馬上の騎士にインスパイアされた、馬の手綱をモチーフにしたクリップ留めが特徴だからナイトバッグ。機能的で汎用性があって、どんな場面にも適応してくれる。見た目もグレートルッキングですよね。バーバリーの精神、アウトドアを体現するバッグとして、毎シーズン進化させていくつもりです」

変わらないものなんてないし、何も変わらなければ人生はつまらない

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ダニエル・リーはショー発表前に写真と動画でキャンペーン第1弾を発信。刷新したロゴとエンブレムを初公開した。さらに話題を呼んだのはそのキャスティング。ミュージシャンのレノン・ギャラガー、ジョン・グレイシャー(上奥)やケイノ(上)、俳優のヴァネッサ・レッドグレイヴ、サッカー選手のラヒーム・スターリングなどさまざまなジャンルで活躍する英国人8名を登場させた。

2023年冬キャンペーンのムービー

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自由と多様性を持った目で、これからの未来を見据える。

大きなビジョンを掲げ、小さなディテールまで浸透させる。そのプロセスを重ねてリーが目指すのは、多くの人に愛され親しまれる、英国文化の象徴になるようなバーバリーだ。英国で生まれ、世界を巡ってここに戻ってきた彼にとって、英国らしさとはブランドのアイデンティティであるだけでなく、自身のクリエイションの原点でもあるのだろう。

「英国、とりわけロンドンはどこよりもクリエイティブな場所です。伝統を愛しながら覆し、また構築するという文化がここにはある。私はそういうモダンな英国らしさを表現したいのです。サッカー、ユーモア、テレビのソープオペラ(連続ドラマ)、ロイヤル・バレエ、トラファルガー広場と北部の都市、なだらかな丘陵地帯と織物工場、クラブカルチャーとシアターランド、フィッシュ・アンド・チップスと高級レストラン、ブライトンビーチ、ジャイアンツ・コーズウェイとスカイ島を愛すること。 ビートルズ、デヴィッド・ボウイ、シャーデー、パンク、ロック・アゲインスト・レイシズム、ヤング・ブリティッシュ・アーティスト(YBAs)、ノッティングヒルカーニバル(毎年8月にロンドンのノッティングヒルで開催されるカリビアンフェスティバル)、グラフィティ、プライドパレード、グラストンベリー、ゼイディー・スミス、チャールズ・ディケンズ、ヴィヴィアン・ウエストウッド。どれも私の考えるいまの英国の姿を体現しています。こうした英国の文化を世界中に伝えたいし、私のバーバリーもその文化のひとつとして受け入れてほしいと思っています」

コレクションを重ねてもダニエル・リーは変わらず“クワイエット”かもしれない。でも、彼のビジョンはしっかりと告げている、伝統を超える自由と多様性を持ったバーバリーのこれからを。

>>戸田恵梨香、新生バーバリーに出合う。

チェックの湯たんぽを抱えてトレンチコートで登場したファーストルックからラストのローズモチーフのフィールドコートまでレディス・メンズ合わせて55ルックを発表。モダンなシルエットと大胆なカラーリングでアーカイブを再解釈、機能と洗練が交差するフレッシュなバーバリースタイルを展開した。ブランドの頭文字、bをコートのベルトやバッグのクラスプなどあらゆるディテールに配したのもダニエル・リーらしいアイデア。足元のヒットメーカーでもある彼が提案する新作シューズは、アウトドアな乗馬ブーツやラバーのレインブーツ、そしてフェイクファーをあしらった冬のミュール。

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バーバリー・ジャパン
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photography: Courtesy of Burberry / Tyrone Lebon interview & text: Kaori Tsukamoto

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